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同期と共生する“現代”のドラマーたち #1 大井一彌【Archive Interview】
- Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine、Isao Nishimoto(equipment) Photo:Takashi Yashima(portrait)
目指したい境地は
機械と人間の中間くらいのバランス
リズム&ドラム・マガジン2024年4月号掲載の特集「同期と共生する“現代”のドラマーたち」では、“クリックとの関係性”をテーマとして、モダン・ミュージックを支える6名のドラマーにインタビューを実施した。トップ・バッターとして登場いただいたのは、Yahyel、DATS、LADBREAKS、Ortanceといったバンドで活動する傍ら、サポート・ワークでも幅広く活躍する大井一彌。エレクトロニック・サウンドと親和性の高いグルーヴィなドラミングを奏でる彼ならではの、“揺らぎ”との向き合い方に迫る。
生身の揺らぎっていうものを
人が必要としている
●大井さんと言えば、同期演奏をイメージする読者も多いかと思います。そういった演奏に興味を持ったきっかけというのは?
大井 もちろん最初は生の楽器を演奏することを志してこの道に入ったわけですけど、その途中で電子音楽も好きになったんです。機械的に制御されたシンセサイザーやリズムマシンに興味を持つようになって、リズムに関してもドラム・セットや生のパーカッションからは出せない音で構築されているものが好きになっていきました。そういった要素と、自分の生演奏をいかに融合させていくかを考えた結果、今みたいなスタイルに辿り着きました。
最初は発明くらいに思ってたんですけど(笑)、古くは60~70年代ぐらいから電子音楽と生演奏の融合が試みられてましたし、80年代にそれが花開くようにして世の中に浸透していきましたよね。だから自分の中では、古文書を漁るというか……ロスト・テクノロジーを掘り起こして、そこに今の時代に新たに生まれたガジェットやソフトウェアをプラスして、音楽を作っている感覚なんです。
●機械的に制御された音楽が好きだったということで、クリックを取り入れることにも抵抗はなかった、と?
大井 はい。僕が感じたのは可能性の広がりでした。もちろん演奏家になるために修行していく段階で、メトロノームを使った練習はしましたけど、僕が生身の演奏家として目指したい境地は、機械と人間の中間くらいのバランスなんです。やっぱりグルーヴのある音楽、ファンキーな質感のものが好きなんですが、そこにあるのは“ 反復するリズム” で、古来情報伝達の手段として音が使われていた時代から、リズムは人に何かを感じさせる力があったと思うんです。
それも、一定の間隔で音が並んでいるところに気持ち良さがあると思ったので、まずはそこから作ってみようと。で、反復するリズム、一定のリズムを作るためには、一定に叩けることが必要で、そのために絶対に揺れないパルスを出してくれる機械に手伝ってもらうわけです。ですが、何時間でも同じ間隔で刻まれるメトロノームのリズムってつまらないんです。そして、訓練を重ねた人間が刻む限りなく一定に近いリズムは美しい。人としての肉体の揺らぎみたいなものは感じるんだけど、ハシる/モタるとか知覚できるようなズレではなくて……揺らぎはあるけど、ズレではないみたいな感覚。人間の演奏スキルが高純度になったとき、メトロノームに肉薄するほどのリズムの一定さを作れちゃう様が、僕はすごく好きなんです。
そこに至るためにクリックを取り入れて、限りなくジャストに叩こうとするのはとても効果的だと思います。そういう(揺らぎはあるけど、ズレではない)感覚を持っていないと、ライヴでシーケンスや同期を使って演奏する意義というものがなくなってしまうと思うんです。“何かの代用品として人間が演奏する” っていう考えになっちゃうじゃないですか。
クリックを使うなら、打ち込みでいいじゃないかと思う人もいるかもしれないけど、実はそうならないんですよ。それが面白いところで、本当に打ち込みでいいならば、現場でオケを流して、何ならヴォーカルも完璧な歌を歌った録音データを流せばいいはずなんです。でもそうならないのはなぜかというと、生身の揺らぎっていうものを人が必要としているからなんです。
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