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    25周年を迎えた椎名林檎5年ぶりのツアーで石若 駿が繰り広げたバイリンガルなドラミング!

    • 撮影:太田好治

    今年デビュー25周年を迎えた椎名林檎が、ソロ名義としては5年ぶりとなるツアー、“椎名林檎と彼奴等と知る諸行無常”を2月よりスタート。全国11箇所を巡ったツアー・ファイナルが5月10日に東京国際フォーラムにて行われた。

    今回のツアーを支えるミュージシャンは名越由貴夫(g)、鳥越啓介(b)、林 正樹(pf/key)、佐藤芳明(accordion)という馴染みの深いメンバーが集結。その中でドラマーに抜擢されたのは今、最も多忙を極める超売れっ子=石若 駿。初参加となる彼の存在が、椎名、そしてバンド・メンバーと化学反応を起こし、独特な音世界に新たな風を送り込んでいたように思う。ドラム・マガジンということで、ここではドラムに特化する形でレポートしてみたいと思う。

    この日演奏されたのは、デビュー・アルバム『無罪モラトリアム』収録の「同じ夜」から5月24日にリリースされた最新曲「私は猫の目」まで、これまで発表されてきたソロ名義の楽曲に加え、「酒と下戸」、「天国へようこそ」など東京事変のナンバーや、林原めぐみ、高畑充希への提供曲など、アンコールを含めて全28曲。椎名林檎25年のキャリアを網羅するセット・リストで、バラエティに富んだ楽曲が並び、あらためてその音楽性の幅広さに驚かされる。しかもどの曲も緻密なライヴ・アレンジが施され、さらにビジョンに映し出されてる映像や照明などのステージ演出とも連動している、計算され尽くしたエンターテインメント・ショーだ。

    名越由貴夫(g)
    鳥越啓介(b)
    林 正樹(pf/key)
    佐藤芳明(accordion)

    ドラマーにはそれらの楽曲を叩き切る高度なテクニックはもちろん、映像とシンクする場面でのシビアなタイム・コントロール、そしてアコースティック楽器とエレクトリック楽器が融合したバンド・アンサンブルに対応する幅広いダイナミクス表現など、さまざまなスキルが求められるが、ステージの最も上手側に陣取った石若は貫禄すら感じさせるプレイで、完璧に対応していたように思う。

    石若 駿

    彼が主戦場としているのはジャズ・フィールドだが、名越のギターがインパクトを放った「どん底まで」や、強烈なピックアップ・フィルからスタートする「カリソメ乙女」では、エネルギッシュなロック・ドラミングを展開。芯の太いファットなサウンドと、前傾姿勢になって繰り広げられる音数を駆使したプレイはスリル満点。ロック・スタイルが求められる場面では、本職のロック・ドラマー以上にRockしていたのではないだろうか。

    一方で「JL005便で」は、『百薬の長』に収録されている砂原良徳によるリミックス・バージョンに寄せたアレンジだったのだが、打ち込みライクなビートも見事に再現。音価コントロールも抜群で、頭でイメージした動きと身体が完璧に連動しているという印象。まさに変幻自在なプレイを繰り広げていく。

    「人生は夢だらけ」、「命の息吹き」などスウィング・アレンジされた楽曲では、レギュラー・グリップに持ち替えて、スピーディでダイナミックなジャズ・ドラミングを披露。特に「命の息吹き」の超高速レガートは圧巻。メンバー、そしてオーディエンスをグイグイと鼓舞していく様子がリアルに感じられ、石若がいなければなし得ない演奏だったと言えるだろう。

    こだわり抜かれた椎名林檎のステージを彩るドラム・セット

    椎名林檎

    ヴォーカリスト&プレイヤーとしてはもちろん、照明や衣裳に至るまでこだわり抜かれた椎名林檎のステージだからこそ、それを彩るドラム・セットも重要となってくるが、石若が選んだのは70年代ラディックのビスタライト。ブルーのアクリル・シェルは大舞台によく映える。スネア・ドラムはメインがラディックのブラック・ビューティー。サイドにはパールの村上“ポンタ”秀一モデル(コパー・シェル)を配置。ロー・ピッチに調整された音色で「走れゎナンバー」などで活躍。

    シンバルはイスタンブール・アゴップで、刻みを担うハイハットとライドは古いものをセレクトしている一方、クラッシュは現行モデルでパワフルかつ煌びやかなサウンドで鮮やかに場面展開を演出。後方にセットされた銅鑼は椎名所有のもので、アクセント的に使う1発だけでなく、「いろはにほへと」ではパターンに混ぜて使うなど、センスも抜群!

    ライヴを通してあらためて感じたのは、石若の上下のバランスの良さ。上半身の音数が多い場面でも、常にキックの存在感が軸にあるためボトムも明確。ラストに演奏された「ありあまる富」はレコーディングでプレイした名手、河村“カースケ”智康を彷彿とさせる安定感抜群のサウンド&グルーヴを展開。25周年の節目となるツアーで、ジャンルの垣根を軽く飛び越える、バイリンガル・スタイルの石若を選んだ理由がよくわかる、まさに集大成のステージであった。

    「私は猫の目」
    ユニバーサル UPCH-89537 ¥1,320(税込)
    詳細はこちら→HP