PLAYER
UP
Interview – 比田井 修
- Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine Photo:Yoshika Horita(page 3)
シンプルだけど、単調ではないプレイを大事にしたい
歌や楽曲全体を引き立てる役割になれたら
School Food Punishmentのドラマーとしてキャリアをスタートさせ、現在はLiSAや緑黄色社会をはじめとする著名なアーティストから引く手数多のセッション・ドラマー、比田井 修。繊細な歌モノから打ち込みまで、幅広いサウンドに適応しながらも、“叩き切る”スタイルを貫き、楽曲に寄り添う姿勢が多くのミュージシャンの注目を集めている。ここではそんな比田井の初インタビューをお届け! セッション現場で叩く際に大事にしていることや、普段のレコーディングで使用している機材へのこだわりなどを掘り下げていった。
最初に衝撃を受けたドラマーは
スチュワート・コープランド
コワいほど“気迫”を感じるプレイに圧倒された
●緑黄色社会やLiSAのサポートなどを筆頭に多くの国内アーティストの楽曲に参加するなどご活躍されていますが、まずはドラムを始めたきっかけから教えてください。
比田井 中学3年生の頃、ギターをやっていた当時の友達の家にドラムがあって、そのときに初めて触ったんです。バンドに憧れて始めたわけではなくて、ただそこにドラムがあったので、遊びの延長ぐらいの気持ちで始めました。そのときは今みたいに動画で演奏を観ることもあたり前じゃなくて、ドラムがどういうものかもはっきり認識していなくて、その友達の家で練習していたときなんかは、スタンド類が全部なかったのでタイコは全部床に直置きで、ハイハットを閉じたり開いたりすることも、バス・ドラムを足で叩くというのも知らなかったんです。そのうちに、ちょっと曲も覚えてきたしスタジオ入ろうかってなって、そこでちゃんとしたドラム・セットというものを初めて見ました。
●そこからドラムにのめり込んでいったんですか?
比田井 そうですね。中学〜高校でサッカー部に入っていたんですけど、高校1年生の頃に、たまたま僕がドラムをやっているというのを聞いた軽音楽部の人に誘ってもらって。サッカー部とのかけ持ちで軽音楽部に入りました。当時はバンド・ブームで、みんなギターはちょっとぐらい触ったことあるみたいな感じだったので、文化祭に向けてみんなでひたすらコピーしたり。
●どういうバンドをコピーしていましたか?
比田井 高校のときはメロコア・ブームだったので、Hi-STANDARDやTHE BLUE HEARTS、グリーン・デイとかをやっていましたね。そうやってドラムを叩くのがただ楽しくて没頭していきました。
●なるほど。そこから本格的にドラムをやろうと思うようになったきっかけは?
比田井 高校を卒業してから、東京スクールオブミュージック専門学校に入学しました。当初はただドラムが好きだったから何となく入ってみたんですけど、そこから技術的なことや、いろんなドラマーのことを勉強したりしていきましたね。
●特定のドラマーや音楽に影響を受けたというよりは、ドラムそれ自体が好きだったんですね。
比田井 そうですね。ドラマーを意識し始めたのは、専門学校に入ってからでした。最初の授業とかで、“好きなドラマーは?”と聞かれることがあったんですけど、当時はあんまり答えられなかったですね。
●それからいろんなドラマーを見てこられたかと思いますが、印象に残っているプレイヤーは誰ですか?
比田井 一番最初に衝撃を受けたのは、スチュワート・コープランドでした。専門学校の授業で、ドラマーを学ぶというテーマで演奏映像を観ながらプレイ分析する授業があって、そのときに彼を観て、圧倒されて……。カッコいいなっていうより、コワいというか(笑)。ドラムというよりも、人間の“気迫”が感じられるプレイに圧倒されましたね。
●卒業後は、School Food Punishment(以下、SFP)に加入されましたが、もともとバンド・ドラマーとして活動していくつもりだったんですか?
比田井 専門学校で習ったことの影響ももちろんあるんですけど、僕自身はスタジオ・ミュージシャンへの憧れがけっこうあって、もともとバンドに加入してやっていくことはそんなに興味がなくて(笑)。卒業後は、バイトをしながらサポート活動のできるバンドをいくつかやらせてもらっていて、そのうちの1つだったSFPに、サポートを手伝っていた流れで加入することになりました。
●当初はスタジオ・ドラマーを目指して活動していたんですね。
比田井 そうです。やっぱりドラムを叩くこと自体が好きだったんですよね。
●その後どういった経緯で今のようなサポート活動へと移行していったのでしょうか?
比田井 SFPの活動はすごく充実していて、そこで得たことは本当にたくさんありました。2010年の活動休止を経て、解散することになって。今思えば、そこが転機にはなっているんですけど、バンドがなくなり、当時はちょっと放り出された感があったというか……でも本当に運が良いことに、当時SFPのプロデューサーでもあって、今もお世話になっている江口 亮さんの紹介で、OverTheDogsというバンドのサポートをすぐにやらせていただけることになって。それからも江口さんのやっている仕事をちょっとずつやらせてもらったり、あとはSFPが好きだったっていうきっかけで呼んでくれる方もいたり、自然と自分の活動の幅も広がっていきました。当時知り合った人や関わってくださった人に助けてもらって、今こうして活動できている部分が多いんです。
●バンドとセッションで叩くことについて、それぞれどういう違いがあると感じていますか?
比田井 バンド活動からセッションに移行したときに、自分の好みで“こうしたらいいんじゃないか”と思う楽器のセレクトが、セッションだとあまりハマらないことが多くて、当時はそれで苦戦したこともありました。振り返ってみると、求められてることに対して応えることの方が正解に近かったのかなって思います。あとは、バンドをやっていたというのもあるんですけど、せっかく(セッションの現場に)参加させてもらうんだから、何か自分らしさみたいなものを少し残したいという思いが当時はあって、それが別に必要ではないんだと今では思っていて。もちろん、その人“印”みたいなものを掲げて演奏する人もいらっしゃると思うんですけど、僕の場合は違うかなって。良くも悪くも気にならないというか、そのアーティストの音楽を聴きたかったり、感じたい人にとって邪魔にならないように、“引っかかり”をなくすことは最近は特に意識しています。もちろん、フレーズをもっと派手にとか、シンプルにとか、そういう要望には応えますけどね。
●その“引っかかり”をなくすために、普段はどんなことを心がけていますか?
比田井 とにかくデモをたくさん聴きますね。移動中が多いですけど、1曲に対してざっと50回くらいは聴いたり。とにかくたくさん聴いて曲自体を覚える、そうすると細かいフレーズに対して“あ、ここはこうしよう”って準備ができるし、ドラムで余計なことをしようとしなくなるんです。演奏中に譜面はあっても、見ているようで見ていないというか、フレーズを身体に取り込む感覚に仕上げます。とにかくたくさん聴いて、それに自分の経験値から出てきたアプローチをほんの少し反映させることもありますね。