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スティーヴ・ガッド来日! 川口千里が間近で体感した、”ドラム・ゴッド”の魅力!!【Report】

  • Photo:Yuka Yamaji/Special Thanks:Blue Note Tokyo
  • Text:Senri Kawaguchi

ガッドさんほど休符がただの”お休み”に
聴こえないドラマーはいない

演奏に関して、正直に言いますと、最初の一発は“え? こんなに小さい音量で入るの?”と驚くくらいに、小さめから始めていました。1曲目は「Beirut」という楽曲で、譜面の表記的にはフォルテで入るようなイントロのアレンジになっていて、実際私が演奏する場合、かなり思い切り入るようにしていました。ガッドさんについて他の方とお話したときに、“パワフルなサウンドが印象的”という感想を聞くことも多かったので、とても意外に感じました。その後、EWIとNuRADのソロ・バトルの中で徐々にギアを上げていき、ドラム・ソロへと突入すると、フロア・タムとクラッシュを織り交ぜた16分を中心としたソロを、MAXな音量感で演奏していました。

私のダイナミクスのMAXの7割ほどの音量ではあるのですが、私よりもパワフルに聴こえてきたのです! 序盤のダイナミクスをあそこまで落としているからこそ、相対的に迫力あるものに聴こえさせているということであり、楽曲全体でのダイナミクス・コントロールの素晴らしさと、決してただ単純に音量が大きく出すことだけが、パワフルに聴こえさせるわけではないということを知ることができました。かといって、私にはあのイントロのアレンジで、あのガッドさんのダイナミクスで演奏する勇気はないかもしれません(笑)。

さらに、私が今回特に注目していたところは、フット・ワークです。ステージの斜め後ろから観察できるからこそ、細かいバス・ドラムのニュアンスを知ることができると思っていたからです。「Watching the River Flow」でのシャッフルを間近で聴くのを、セットリストが決まったときからかなり楽しみにしていました。

ガッドさんは、基本的にはどんなビートを叩くときでも、カカトをボードにつけてフェザリングしているように見えました。そのためフット・ペダルのボードはショートを愛用しているようで、ブラスのアタックの後押しなど、アクセントを思い切りつけて演奏するとき以外は、カカトをそこまで浮かせることなく踏んでいたようでした。

フット・ワークを観察する中で気づかされた点は、シャッフルを演奏している間のバスドラのパターンの豊富さ。右手ハットを4分で叩き、左足のクローズで細かいハットのシャッフルを補っているパターン、ツイン・ペダルを駆使し、左足を4分、その手前を右足で踏んで、ハイハットとユニゾンするパターン、同じサウンドでも3連でのオルタネイトの足順で右2打、左2打でいくパターン、オルタネイトの左のラストの1打を省いたパターンなど、私が見ただけでもこれだけの種類を拾うことができました。

これらをレターごと、時には小節毎に使い分けていていました。私も後日、私が拾えた限りの全パターンを試してみましたが、同じグルーヴ感をキープしながらパターンを変えていくことがなかなか難しく、あらためてガッドさんがシャッフルのこれらのパターンを、自然体で演奏できるまでに馴染ませているのかを痛感しました。

タイム感については、基本的には後ろよりであるように聴こえました。なので、どの楽曲も全体的にロックな印象になる感じです。“ビッグ・バンドでその位置だとだんだん遅くなってしまうのでは?”と思っていたのですが、ガッドさんは素晴らしいくらい、常にそのタイム感をキープしていて、決して重たく感じることはなく、共演しているメンバーも変わらない立ち位置に安心して演奏できているように感じました。それは休符も同じで、休んでいる間の音符も見えるような演奏。ガッドさんほど休符がただの”お休み”には聴こえないドラマーはいないと思います。

だからこそ、“ドドタッ”といったシンプルなフレーズの説得力も強く、譜面に起こせば簡単なものでも、同じ聴こえ方にすることが難しいんですよね。たった1小節、4小節のドラムフィル・ソロでも、メンバーのリアクションは面白いくらいに同じで、両手で胸を抑えていました(笑)。胸にグッとくる演奏、フィルができるというのは本当に素敵です。

グリップについて、後方から覗いてみると、想像していたよりフィンガリングをしないんだな、という印象でした。マーチングやルーディメンツをベースとしたフレーズをよく演奏していたので、そこがかなり意外だなと感じました。ジャーマン・グリップをベーシックにして、握り込みすぎず、人差し指は一般のグリップよりも伸ばしているようにも見え、手首から動き出して、柔軟にスナップを利かせて演奏しているためか、動きよりも随分と遅くに発音しているように見えるのが面白いですよね。

バック・ビートを叩かない代わりに、クラッシュを抑えるように4分で叩き、アタックをあまり出さずに手のひらで押さえつけるようにし、エフェクトをつける感じで演奏していたところも印象に残っています。そして、いざロールを駆使したフレーズや6連系のタム回し、細かいフレーズを演奏するときになると、サッとレギュラーに持ち替えていました。これがもう、普段レギュラー・グリップを使っていない私でも真似したくなるくらいにカッコ良かったです。

マーチング系のフレーズを使って、「Beirut」のラスト・テーマに合わせにいったときは、そんなアプローチは思いつきもしていなかったのか、エリックさんも驚いていました。私自身も、“本当に同じ譜面をみているのだろうか?”と驚くような瞬間が何度もありました。

女性メンバーは控室が別の建物内だったので、これはエリックさんから後でうかがった話なのですが、ガッドさんは控室にいる間、ずっと今回の楽曲を聴きながらパッドでイメージ・トレーニング、ウォーミング・アップをされていたそうで、楽曲に対して真摯に向き合い、譜面に書かれていない情報/アイディアなどを常に探究し、聴こえてきたものがより説得力のあるものになるように合わせていく努力を惜しまないところが、ドラマーとしての鑑だなと思いました。

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