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    SABIAN HHX ANTHOLOGY feat.ジョジョ・メイヤー with MASUKE

    • Contents:Rhythm & Drums Magazine/Interview:Akira Sakamoto(Jojo Mayer)

    Interview〜ジョジョが語るHHX ANTHOLOGYのすべて〜

    過去を踏まえながら未来を見据えて
    原点に立ち返ったシンバル

    ●Fierce、HOOP Crasher、OMNIに続いて、あなたとセイビアンが共同開発した新モデル=ANTHOLOGYが発表されましたが、構想はいつからスタートしたのでしょうか?
    ジョジョ 僕とマーク・ラヴ(セイビアンのプロダクト・スペシャリスト)はFierceシリーズからスタートして、20年以上に渡りいろいろな製品のアイディアを試してきた。面白いものもたくさん開発して、プロトタイプのいくつかは僕も実際に使ってきたけど、量産して市販するにはクレイジーすぎて、使いたがるのは僕以外にいないだろうというものもあったね(笑)。そうやって僕らは技術面、外観面、営業面でいろいろなアイディアを試してきたわけだけれど、3年くらい前から、まったく新しいシンバルを作るための技術や条件が揃ったと感じるようになった。柔軟に使えるシンバルで、でも“ヴィンテージ”という言葉は使いたくなかった。もういい加減、聞き飽きたからね(笑)。1枚で何にでも使えるシンバルではあるけれど、音楽的な美意識としては、それでドラマーを前面に押し出せるようなものにしたかったんだ。

    例えばギターを買う場合、“リズム・ギター”とか“リード・ギター”を買うわけじゃないよね? 良い楽器を買って、目的に合うように弾けば、リズム・ギターやリード・ギターになるわけだ。ところがドラムの世界では70年代後半から80年代前半にかけて、特定の用途を謳うシンバルが開発され始めた。“メタル・クラッシュ”とか“ジャズ・ライド”という具合いにね。でも50〜70年代までは、ドラマー自身がシンバルを選ぶのに必要な知識を持っていたし、そもそもシンバルの選択肢もそれほど多くはなかった。それに対して80年代前後からは、スーパーマーケットみたいに幅広い選択肢を受け入れるだけの市場が出来上がっていて、音楽スタイルごとに細分化したシンバルがたくさん作られるようになったわけだ。ところが現在は、メインストリームを決定づけるような音楽スタイルが存在しなくなって、あらゆるスタイルの音楽が同時進行している状況になっている。そんな時代に、昔からの流れを市場に押しつけるのはおかしいよね? だから原点に立ち返って、用途を指定するのではなく、個々のドラマーに必要に応じて選んでもらえるようなシンバルを作ろうと思ったんだ。そして、ドラマーにも、自分に合ったシンバルが何なのかを判断できるようになってもらおうじゃないか、と。これがANTHOLOGYを開発するきっかけだったんだ。

    ●なるほど。
    ジョジョ ANTHOLOGYというのは、さまざまな音楽要素の集大成という意味合いを持っている。過去20年間に開発してきた技術の集大成となる新しいシンバルという気持ちも込められていて、セイビアンがさまざまなシリーズで培った技術も生かされている。その意味でも、ANTHOLOGYというのはこの製品に相応しい名前だと思うよ。過去を踏まえながら未来を見据えて、原点に立ち返ったシンバルなんだ。大きなロゴも必要ない。ロゴが大きくなったのも80年代頃で、もともとは広いステージでも観客から見えるようにするためだった。でも今は、Instagramや動画で演奏を観るのが主流だから、美的な意味でも今の時代に合うものにしたかったんだ。そういうアイディアは僕がセイビアンに持ち込んだものだし、開発もマークと僕が中心になって行ったけれど、僕のシグネチャーというわけじゃない。あくまでも、シンバルのあるべき姿に立ち返ったモデルなんだ。

    このシリーズは、シンバルに対するみんなの考え方を一新させると思う。例えばクラッシュ・ライドというのは新しいアイディアというわけじゃなくて、軽いタッチのドラマーでクラッシュが時々必要になるという人にはぴったりだと思うけれど、一定の品質でクラッシュ・ライドを量産することは難しかった。その点、ANTHOLOGYならクラッシュ・ライドに求めるものを一切の妥協なしに手にすることができると思う。18″は20″ほどの音量はないけれど、アコースティックなトリオで使うにはもってこいのシンバルだね。50〜60年代には、18″のライドをたくさんのジャズ・ドラマーが使っていたし、クラッシュは22″が多かった。そんなわけで、ANTHOLOGYシリーズでは敢えて種類を多くせずに、最も一般的な14″、18″、22″というラインナップから始めることにしたんだ。ただし、ベルの高さはハイとローの2種類から選べるようにした。ベルの効果についてよくわかっていないドラマーもいるけれど、ベルの高さによってベル自体のサウンドだけじゃなく、シンバル全体のサウンドが変わってくる。まずベルが高いと大きな音量が出る。50年代のトルコ製のシンバルはベルが低くて、アコースティックのピアノ・トリオにはぴったりだった。ベルが高いと音が暴れやすくなって、ベルのないフラット・ライドは決して音が暴れない。コントロールを効かせたい状況ならロー・ベルが良いだろうし、ディストーション・ギターと一緒にやるような状況では、ハイ・ベルを使えば無理なく演奏できるからね。

    ベルを高めに設定したHigh Bell。明瞭で音量感もあり、ディストーションを効かせたギター・サウンドとの相性も抜群。幅広く使えるコンテンポラリー・スタイル。
    ベルを低めに設定したLow Bell。繊細でエレガントさを備えたトラディショナルなスタイルで、ジョジョ曰く「コントロールしたい画面に最適」とのこと。

    ●ウェイトを表示していますが、これにはどんな要望があったのでしょうか?
    ジョジョ 従来の重いシンバルは、音ヌケは良いけれど繊細さに欠けるという特徴があったけれど、ANTHOLOGYは新開発の技術のおかげで、重くても軽いシンバルのような感覚で叩けるようにできている。例えば、22″は2.5~2.6kgで、重さとしては中ぐらいだけれど、ジャズで使うには重すぎるという人もいる。でもそれはまったくの間違いなんだ。トニー・ウィリアムスなんかはかなり重いシンバルを使っていたしね。ジャズ用は2.1kg以下で、それより重いのはロック用だと単純に考えるのは間違いで、旋盤加工やハンマリングによってもシンバルのレスポンスは変わる。22″で2.5~2.6kgだと、普通なら指先のコントロールで“シャーン”という倍音を出すのは難しいけれど、ANTHOLOGYならそれが可能なんだ。ウェイト表示によって個体差も確認できるから、重量とサウンドの関係を確認してもらうこともできるけれど、全体の重さが同じでも、厚みのあるのがエッジなのかベルなのか、あるいはショルダーなのかによってもレスポンスは違ってくるからね。とはいえ、これもまったく新しい特徴というわけじゃなくて、スピッツィーノやクレイグ・ローリトセンといったブティック・シンバルの職人たちはもともとやっていたことなんだ。量産メーカーでウェイト表示を採用したのは、セイビアンが最初だろうけれどね。

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