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    【Report】アメリカで行われた400周年記念イベント“THE ZILDJIAN 400TH ANNIVERSARY CONCERT”〜後編〜

    HALL of FAME ⑤ OMAR HAKIM(オマー・ハキム)

    後半戦となる殿堂入り5 人目はスティング、デヴィッド・ボウイからダフト・パンクまで、歴史的な傑作に“物語”を刻んできたStudio Great=オマー・ハキム。ウェザー・リポートのメンバーであり、マーカス・ミラーや渡辺香津美を筆頭にジャズ/フュージョンのフィールドでも活躍した世界屈指のオールラウンダーである。そんな彼のトリビュート・パフォーマンスを披露するのは、クラブ系ビートを人力で再現し、日本のドラマーにも大きな影響を与えたLettuceのアダム・ダイチと、タイトで切れ味抜群のビート&サウンドで、若手から重鎮まで引っぱりダコのグルーヴ・メイカー、ネイト・スミス。共に80年代にオマーのプレイを聴き、衝撃を受けたという。

    アダム・ダイチ

    オマーと同じニューヨーク出身のアダムは、自身も共演歴を持つジョン・スコフィールドが1986年に発表した『Still Warm』のオープニングを飾る「Techno」を選曲。3点セットにシンバル5枚、さらにサイド・スネアを配置したセッティングから繰り出される、ルーズなのにタイトという、相反する要素を内在したグルーヴがカッコいい。オマーを彷彿とさせるバネの効いたハイハットのオープン/クローズも印象的。極上のグルーヴをキープしたまま超絶ドラム・ソロを熱演するなど、終始キレキレなパフォーマンス。客席で見守っていたオマーもガッツ・ポーズで賞賛を贈っていた。

    ネイト・スミス

    ネイトはザ・ポリスの名曲で、オマーが参加したスティングのライヴ・アルバム『Bring On The Night』にも収録されている「I Burn For You」を選曲。セッティングは小口径の3点セットにシンバル4枚と組み合わせはミニマムながら、カラフルで表情豊かなサウンド&グルーヴを放つ。16分音符を交えたハイハットの滑らかな刻みとゴースト・ノートによる繊細なコンビネーションが絶品で、グルーヴ・メイクそのものにオマーの影響が感じられる。途中には右手のスティックを小ぶりなシェイカーに持ち替えて刻むなど、自分のカラーを出しながらオマーへのオマージュを表現していたように思う。

    オマー・ハキム

    HALL of FAME ⑥ STEVE SMITH(スティーヴ・スミス)

    殿堂入りの6人目はジャーニーのドラマーとして一世を風靡し、その後は自身のグループ、ヴァイタル・インフォメーションを結成し、ジャズ/フュージョン・シーンにおけるキャリアも確立したスティーヴ・スミス。ロック、ジャズ、フュージョン、それぞれのシーンで成功を収めた彼をトリビュートするのは、多彩なテクニックを駆使した芸術性の高いドラミングでジャズ・シーンを牽引するアントニオ・サンチェスと、数多くの映画音楽を支える売れっ子セッション・ドラマーのラス・ミラー。意外な2人だが、キャリアを重ねてなお学び、進化し続けるスティーヴをリスペクトしているとコメント。

    アントニオ・サンチェス

    アントニオが演奏するのはヴァイタル・インフォメーションの「Emergence」。今年発表されたばかりの最新曲を選ぶところにも、進化し続けるスティーヴへの敬意が感じられる。スローンは高く、シンバルは低くセットし、ドラムを見下ろす不動のスタイルで、華麗なスティック捌きを披露するアントニオ。シーンごとにグリップを使い分け、ニュアンスを巧みに演出する表現力はさすがの一言だ。スティック・トゥ・スティックなどのトリック技も織り交ぜるなど、高い技術力を誇るアントニオだからこそのトリビュート・パフォーマンス!

    ラス・ミラー

    ラスはヴァイタル・インフォメーションの「The Perfect Date」からジャーニーの代表曲「Anyway You Want It」、「Separate Ways」へとつながるメドレー。ツーバスに多数のシンバル、3台のスネアに銅鑼も並べたこの日の出演者で最も巨大なセッティングを使用し、ジャーニー時代のスティーヴを再現。ジャズからロックへとスムーズに移行し、その卓越したスティック・コントロールと、ダイナミズムに富んだドラミングにスティーヴの影響が感じられる。ラストの「Separate Ways」ではバンド&オーディエンスも盛り上がり、ロック・モードのラスが放つ一打入魂のプレイもインパクト抜群であった。

    スティーヴ・スミス

    HALL of FAME ⑦ PETER ERSKINE(ピーター・アースキン)

    殿堂入り7人目はウェザー・リポートでその名を轟かせ、ドラマーとしてはもちろん、インストラクターとしても手腕を発揮している名手、ピーター・アースキン。彼が考案したKカスタムのレフト・サイド・ライドはトップ・ドラマーもこぞって愛用する逸品である。そんな彼をトリビュートするのは、10代でジェフ・ワッツの後任としてウィントン・マルサリス・グループに抜擢され、カート・ローゼンウィンケルらシーンを代表するトップ・アーティストと共演を重ねてきたジャスティン・フォークナーと、ジョン・スコフィールド、ジョン・アバークロンビー、マイケル・ブレッカーら重鎮達が信頼を寄せるベテラン・ジャズ・ドラマーのアダム・ナスバウム。

    ジャスティン・フォークナー

    白シャツにジャケットというフォーマルなファッションで登場したジャスティン。彼はアースキンの多彩な表現力に影響を受けたそうで、91年発表のソロ・アルバムのタイトル曲「Sweet Soul」とウェザー・リポートの代表曲「Black Market」、アースキンの振り幅の広さを感じさせる2曲をメドレー形式で演奏。超スロー・ナンバーの「Sweet Soul」では間を生かしながら、色気たっぷりにプレイ。そしてジャケットを脱いで臨んだ「Black Market」は、渋くキメた「Sweet〜」から一転、『8:30』におけるアースキンさながら、躍動感溢れるファンキーなドラミングを披露。恵まれたフィジカルを生かし、左右のシンバルを豪快に叩く姿は迫力満点!

    アダム・ナスバウム

    続くアダムは自身も共演するジョン・アバークロンビーの「Ralph’s Piano Waltz」を選曲。アースキンが1986年発表の『Current Events』で名演を残したナンバーを、ナイロン・ブラシでプレイ。ブラシの達人であるアースキンをブラシ演奏でトリビュートするという、ある意味最も難しい挑戦と言えるが、さすがは百戦錬磨のアダム。繊細かつ力強い、円熟のブラシ・ワーク。ナイロン・ブラシだからこそのシンバル・サウンドも華やかで、オリジナルに敬意を払いつつ、ベテランらしさを発揮したパフォーマンスで彩ってくれた。

    ピーター・アースキン

    HALL of FAME ⑧ RINGO STARR(リンゴ・スター)

    殿堂入りのラストを飾るのは、世界中のプレイヤーに影響を与えた天才、リンゴ・スター。言わずと知れたザ・ビートルズのドラマーであり、彼の影響で60年代にジルジャンの需要が爆発的に高まり、シンバル・ブランドとしてさらに飛躍するきっかけとなった、400年の歴史を語る上でも欠かせない英雄的存在である。稀代のドラマーへのトリビュートを行うのは、アデルを筆頭に数々のアーティストの作品に名を刻むイギリスのファースト・コール・ドラマー、アッシュ・ソーン。そして全身全霊のステージングを繰り広げ、ドラム・ヒーローへの階段を一気に駆け上がった、Twenty One Pilotsのジョシュ・ダン。セッションとバンド、それぞれの分野におけるトップ・ドラマーがパフォーマンスを繰り広げる。

    アッシュ・ソーン

    リンゴが彩ってきた名曲の数々からアッシュがセレクトしたのは「The End」と「I Am the Walrus」の2曲。ドラムは1タム、2フロア・タムという仕様ながら、シンバルはビートルズ時代のリンゴと同じ3枚のみでプレイ。最初に演奏した「The End」は、リンゴのドラム・ソロでお馴染みだが、フレーズはもちろん、あの独特のニュアンスも見事に表現。リンゴのアプローチ、ニュアンスを大切にしながらも、サウンドはハイ・ピッチ気味でアッシュ流とも言えるだろう。そしてリンゴがそうしてきたように、楽曲にマッチした音楽的なドラミングで魅了してくれた。

    ジョシュ・ダン

    「Revolution」を選曲したジョシュはアッシュとは真逆で、自分のカラーを前面に押し出したパフォーマンス! キックとスネアのみでビートを構築する独自のアプローチで、腕を大きく振り上げ、全身全霊のフル・ショットでバック・ビートを轟かせる。どこかで変化をつけるのかと思いきや、そのままのスタイルを貫き通してフィニッシュ! 手数/足数はこの日出演したドラマーの中でもおそらく最小限だったが、不足をまったく感じさせず、オーディエンスを沸かせるのは彼なら。新しいドラム・ヒーローとして、これからの時代を担っていくという決意の表れだったのではないだろうか。

    すべてのプログラムの終了後には、現社長であるクレイギー・ジルジャンをはじめとするジルジャン・ファミリー、そしてリンゴを除く殿堂入りを果たした7名と出演ドラマー達が舞台上に集結。記念撮影が行われ、大きな拍手に包まれる中、約4時間に渡って行われたスペシャル・コンサートはまさに大団円を迎えた。

    ここまでパフォーマンスに絞ってレポートしてきたが、それぞれの演奏の合間には、殿堂入りを果たしたレジェンドについて、トリビュートを行ったドラマー達がその影響を語るクロス・トークが挟まれ、さらにプログラムの間には過去に殿堂入りを果たしたドラマーの紹介や、惜しくも亡くなってしまったジルジャン・ドラマーを追悼する映像などが上映。細部にまで工夫が凝らされており、ジルジャンの歴史とアーティストとの深いつながりを感じさせる内容となっていた。

    11月19日に渋谷ストリームホールで行われる“Zildjian Festival”までいよいよ10日を切り、川口千里、今井義頼、Jin Takemuraに加え、Kid’z、Desire Nealy、乗冨 鼓、そして海外からラーネル・ルイスの出演が決定! 国内外の凄腕ドラマー達による熱いパフォーマンスが繰り広げられる予定だ。当日はジルジャン製品を実際に見て、触れて、試奏して、購入できる他、2023年3月に行われた“Zildjian Festival”でも好評だった全参加者対象の大セッション大会が再び行われる。さらに本誌リズム&ドラム・マガジンがサポートするトーク・ショー“We Love Zildjian”には、佐野康夫、堀正輝&江島啓一の2組が参加。ドラマーならずとも絶対に見逃せないイベントとなっている。イベントの詳細は下記の通り。

    日時:11月19日(日)
    場所:渋谷ストリームホール
    出演:今井義頼、江島啓一、川口千里、Kid’z、佐野康夫、Jin Takemura、Desire Nealy、乗冨 鼓、堀 正輝、ラーネル・ルイス (五十音順)/総合MC:フリーザック
    チケット:前売 ¥4,000/当日 ¥5,000(前売、当日各1ドリンク +¥600)
    特設サイト:https://www.zildjian.jp/event/ZilFes400th.html
    チケット購入(イープラス):https://eplus.jp/sf/detail/3950770001-P0030001