SPECIAL
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UP
“王道×革新”で生まれ変わるパール・ドラムスの最高峰! Pearl HIGH-END REIMAGINED ♯1
- Photo:Taichi Nishimaki
- Text:Yusuke Nagano
Ⅱ.Spec Analysis ①
サウンドを進化させる
R2 AIR Tom Mount Suspension System
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ドラムはシンプルで原始的とも言える構造の楽器ですが、その反面、部屋の環境や付属するパーツ類で音の響き方が大きく変わるという、デリケートな側面も持っています。中でもタムを支えるマウント部分の構造は、音に大きな影響を与える部分であり、各社がアイディアを注ぎ込んだ独自のマウント・システムを開発。
パールも“オプティマウント”と呼ばれるシェルの自然な響きを生かすマウント・システムを採用し、長年に渡ってハイエンド・クラスのドラム・サウンドを支えてきました。そして今回新たに登場したR2 AIRタム・サスペンションシステムは、それをさらに推し進めた構造になっています。
R2 AIRの開発においてパールがこだわったのが、“ドラムの重心をバランス良く支える”ということ。タムを指に引っ掛けて宙にぶら下げた状態=シェルに負荷が掛かっていない状態で叩いたときに得られる豊かな響きを、タム・ホルダーにマウントしたときに損なわないことを目指したそうです。シェルを片側方向から偏った力で支えると、余計な負荷が掛かり、ドラムの自然な鳴りを損ねる原因になります。
R2 AIRではその部分を完全に解消するため、アームをタムの中心を通る対称軸にあるテンション・ボルトまで伸ばし、トップとボトムを均等に、上下4箇所で、タムの重さを下から上に向けてバランス良く支える構造になっています。その結果、シェルに偏った方向からの負荷を加えることなく、下記図の赤丸に示したドラムの重心を自然な状態で保持することを実現。タムの本来の鳴りを最大限に発揮できるようになりました。サスティンの伸びを波形で視覚的にチェックすると、一般的なタム・マウント方式と比べて、35%ほど音の伸びが向上。これは音の長さだけではなく、全体の鳴りにも良い影響を及ぼしていると予想できます。
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細部のポイントを解説すると、第一のポイントは4箇所のボルトを支える上下2本のアーム。これによって立体的に重心を捉える対角線上のクロス・ラインが生まれて、どのようなアングルにセッテイングしても、シェルに負荷を掛けずにタムを支えることが可能となっています。
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そして第2のポイントとしては、タムを支える接点に採用されたレゾ・ディスクの存在。これは防振ゴムを素材とした柔軟性に富んだ蛇腹状(スプリング状)のパーツで、これがサスペンションの役割を果たすことで、演奏時のタムの振動をマウント部分に逃すことなく、ドラム自体の鳴りを最大限に発揮させます。
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さらにこのR2 AIRには、タムの鳴りをコントロールするラバー製のダンパー・ディスクというアイディアも盛り込まれています。奏者の好みや音楽的な状況によって音の伸びを抑えたいときには、付属のダンパー・ディスクを通常は荷重が掛からない手前側上下のアームのラグ/リムの隙間に挟み込むことで、荷重ポイントを増やして鳴りを調整することも可能。このダンパー・ディスクによって従来のオプティマウントの方向に寄せることもできるそうです。
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R2 AIRのタム・サイズは、8″~16″まで対応していますが、小口径の8″や大口径の14″と16″では、その基本原理を生かしつつ、保持するポイントに少し変化をつけているとのこと。音が必要以上に伸び過ぎると扱いづらい大口径タムは、対角線上よりも一段階手前のボルトで保持することで音の伸びをコントロール。また小口径の8″タムは5テンションであるため、対角線よりも1本奥のボルトで保持する仕様になっています。
試奏時にはR2 AIRを装着した10″と12″のタムを組み込んだハイエンド・モデルをそれぞれ試しましたが、サスティンの自然な減衰はもちろん、各シリーズの素材の特性がナチュラルに伝わってくる音圧の豊かな響き。音の分離やレスポンスの良さがどのモデルにも共通して感じられたことが印象的でした。
従来のオプティマウントの一部は継続して発売され、こちらはプロフェッショナル・シリーズなどに標準装備。ハイエンド機種においてもオプション装備が可能になるので、このあたりは奏者のサウンドの好みによって選択肢が増えたと言えます。
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L-RODアーム方式 vs パイプ・マウント方式