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初来日のカーター・マクリーンが魅了した“Ludwig Roadshow”
- Report:Seiji Murata/Photo:Takashi Yashima(Gear)
カーター・マクリーンの濃密なクリニック!
休憩を挟み、満を持してカーター・マクリーンが登場して第2部のクリニックへ。ステージ中央にセットされたClassic Mapleのキットに座り、まずは8分間におよぶソロ・パフォーマンスからスタートした。マレットによるダイナミクスの幅広さはもちろん、生で見るとさらに、その正確無比なスティック・コントロール、タム移動の素早さに圧倒される。
ここからはラディック・ドラマーである春日利之氏の通訳で進行。今回のクリニックは、①テクニック ②グルーヴ ③フィールやチューニングを変えて“色を足す”プラスαのアイディア の3点を予定しながら、適宜、質疑応答の内容にフォーカスしつつ進んでいった。それぞれのテーマは、まず大事なエッセンスから入り、その後、カーターが実演したり、取り組んでほしい練習などを紹介してくれるのだが、その練習メニューがなんともハイレベル。
まず、「①テクニック」では、シングル・ストロークのスティッキングを解説し、速くなるにつれてフィンガリングに移行するが、そのための効果的な練習メニューとして紹介してくれたのが“3-2-1-2”……つまり、左右それぞれ3打ずつ、2打ずつ、1打ずつ、2打ずつを、まずはスネアで行う。さらに、数的に16になるので、片手をハイハットにしてセット全体に展開しグルーヴでも行うという。
続いて、ダブル・ストロークの解説では、シングル同様に音ツブを揃え、シングル⇄ダブルの切り替わりが自然に聴こえるように練習することが大事だと実演してみせるが、まさに、音だけ聴いていると聴き分けがつかないほどの滑らかさに驚く。その練習に有効なスティッキングとしてパラディドル・ディドル(RLRRLL)を紹介。「アタマにキックを入れて7連符にして、かつ、右手をフロアに移動したりするととてもパワフルなフレーズになる」と実現してくれた。
その後に紹介してくれた“カレイドスコープ”というフレーズが、また非常にハイレベルで、まずは、ハイハットを4分で踏みながら、手は左右シングルで16分を叩くのだが、アクセントを3打ごと、4打ごと、5打ごと、6打ごと、7打ごと、8打ごとに入れるという練習。さらにその応用編として、手をダブルにするという、もはや離れ業レベルに。
特に奇数の場合は、ダブルの2打目がアクセントになったりと、かなりの難易度。しかもこれを、自身の教則本『Drumset Concepts & Creativity』では、4分ハイハットと2拍3連(1拍半)キックのオスティナート上で行い、さらにさらに、手もRLLにするという神業……。さすがのカーターも実演で失敗し、「しばらくやってなかったからできなくなってる」と苦笑すると、会場からもホッとした笑いが漏れた。
ただこれらは、「単に難しさを追求しているのではなく、簡単に聴こえるフレーズも手順を変えるだけでこれだけ複雑になって、自分の耳と頭を使わなきゃいけない。その訓練だと思って、1つ1つパズルのような感覚で取り組んでほしい」と練習のエッセンスを伝えた。実際、実演でも“カレイドスコープ=万華鏡”らしく、同じ手順でも右手をタム/フロアに移動するだけで“違うメロディ”が聴こえてきて、まったく違う世界が広がる。曰く「練習できました、で終わらせちゃダメだよ。これをどれだけ音楽的に使うかが一番大事」。
続いて「②グルーヴ」のコーナーへ。まずは「グルーヴって何だろう?」という哲学的な問いからスタート。そのきっかけとして、これから叩く2種類のビートの違いが何かを考えてほしい、と実演する。結論から言ってしまうと、“ダイナミクス”と“テクスチャー”が違うと言う。ボリュームMaxで最初から一様に叩くと、あとは“弱”しかない。だから中間的なヴォリュームから強弱をしっかりつけることを意識することで、音質的にもタッチが生きてくるという。
次に、そこに何が足せるだろうか?と、ハイハットのストレート8を基準に、他のパーツを、休符を含めスウィングしたり、実に多彩な音型、スティッキング、ノリで実演してくれた。ここで紹介してくれた面白いTipsがある。左手だけスウィング(ハネ)させるとき、ボリュームつまみのようなダイヤルをイメージして、その回し加減でハネの度合いを実演するという練習法だ。カーターの実演でも、その加減だけでビートのフィーリングがまったく変わることを実感した人も多かったと思う。
質疑応答も挟みながら進んでいたクリニックも、ここで残り10分。最後に「命はコレ(チューニング・キー)と耳」と言って、チューニングについて急ぎ足で解説してくれた。まず、スネアのピッチを変えるだけでビートの雰囲気が大きく変わることを力説しつつ、自身は、キーを回すときにボルト付近を叩いたりせず、あくまでも耳で聴いて調節。ロー・ピッチにしたときには、1本だけをグッと緩め、ヘッドの半分に皺が寄っていたが「これがナチュラル・ミュートになる」とも言っていた。
ボトム側は一度決まったら触らずに、打面側とストレイナーの調整だけにするのがカーター流。ただ、スネアはこうして極端なことも可能だが、それに対してタムはもう少し繊細に行い、1/4回転ずつ回していくと言う。そして、ドラム・セットもチューニングを変えるだけでまったく別のドラムのように聴こえるところが魅力なのだと語っていた。
最後に、自分のドラム・セットでチューニングに悩んでいる人に向けて、まず1個ずつのタイコに向き合うことが大事で、1つのドラムで、3つのチューニング――①ベロベロのスーパー・ロー・チューニング ②抜けのいいミッド・チューニング ③ジャズのハイ・チューニング――を試し、自分のドラムがそれぞれどれくらいのテンションで鳴っているかを探すのが重要だと伝え、1時間半におよぶ、実に中身の濃いクリニックが終了した。
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