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    【Report】スティーヴ・ガッドが極上のサウンドで会場を包み込んだジェームス・テイラーの来日公演!

    • Report:Seiji Murata
    • Photo:Masanori Doi

    完璧にメロディを歌っているだけでなく
    “相手プレイヤーの歌い方で”歌っている

    続く「ザッツ・ホワイ・アイム・ヒア」でも穏やかで心地良いグルーヴが続くと、これまでセット・リストに入らなかったという「イエロー・アンド・ローズ」のカントリー・テイストのミドル2ビートで、会場にもノリが出てくる。この勢いで、ディーン・パークスのペダル・スティールがたおやかに流れるカントリー・フレイバーの「天国のように(Anywhere Like Heaven)」、そして88年のアルバム・タイトル曲「ネヴァー・ダイ・ヤング」へ。ゆったりしたグルーヴの中でも、ハイハットの音だけで何種類あるんだ!?というくらい、その曲を表現するためのグルーヴを構成する音の1粒1粒、そしてその“間”、その“連なり”に、“意味”を感じることができる。

    そう深く納得していると、前半のピークはこの次だった! 初期曲「カントリー・ロード」、中盤の“Walk on down, walk on down〜”の後、JTとガッドのデュオになる場面は、個人的にこの日のハイライト。歌を立たせながら、たっぷりの空間と音の低〜高を使って、歌のリズムに実に有機的、立体的に絡んでいく。60年代後期、JTの複雑な精神状態を象徴する道路の名を冠したこの曲で、むしろガッドのドラムがその心情の複雑さを表現しているのではないかと思うほどの名演であった。直後、JTはガッドを“リヴィング・レジェンド”と紹介して固い握手を交わした。

    さらに、続く代表曲「スウィート・ベイビー・ジェイムス」への導入部分では、今回ヴォーカルで参加しているアンドレア・ゾンのフィドルとガッドのデュオ状態に。アップ・テンポのメロディにガッドは3−2アクセントのスネア・ロールで並走するが、そのラスト、フィドルのrit.にガッドが寸分違わずぴったりロールを合わせてテンポ・ダウンするのを目の当たりにし、ガッドは完璧にメロディを歌っている、だけでなく、“相手プレイヤーの歌い方で”歌っているんだなということを痛感した。

    その後は77年のヒット曲「ハンディ・マン」、そして初期曲「遠い昔(Long Ago And Far Away)」を挟み、第一部ラスト「サン・オン・ザ・ムーン」へ。レゲエ的16グルーヴだが、キックからロー・タム〜スネア〜ハイ・タムへと音階を駆け上がるようなめずらしいグルーヴ・メイクが印象に残った。ここで20分の休憩を挟み、第二部を待つ。

    「リフレッシュした」とJT。全員が定位置につくと、ライヴでの定番曲「思い出のキャロライナ(Carolina In My Mind)」のギター・イントロと美しいコーラスが会場に響き渡る。第二部でも、ガッドのプレイであらためて気づかされるのは、メロの変わり目や拍アタマで、めったにアクセント・クラッシュを打たないこと。その分、相対的に歌が出てくると感じられる。盛り上げはフット・スプラッシュのクレッシェンドなどで、知らず知らずの内に行われているという印象だ。

    逆に、続く「あこがれのメキシコ(Mexico)」では、カウベルで突然の6連符×2拍を入れるなど、勘所で突如ドラムだけが浮き出すような演出をするのもガッドらしい(これも、続くギター・ソロでカウベルでのビートのトリガー的な役割なのだと思う)。

    ガッドらしいと言えば、続く「スチームローラー(ブルース)」での重めのシャッフル・ビートは、まず第一に挙げられる“らしさ”だろう。基本のビートはキックなしでクローズド・リムによるシャッフル・ビートなのだが、JTのハープによる間奏やピアノ・ソロへと展開するにしたがってビートにもどんどん“色”が加えられ猥雑になり、ギター・ソロではキックのダブルもぶち込みつつビルドアップし、スネア・ロールのクレッシェンドがピークに達すると突如ブレイク!……こういう“流れ”の作り方はもう絶品としか言いようがない。

    二部ラストのマーヴィン・ゲイのカヴァー「君の愛に包まれて(How Sweet It Is)」のシャッフルでも、ビート自体の重心は重めなのに、3連のゴースト・ノートが継続して入ることで小気味良ささえ感じられるというグルーヴも、またガッドならではと感じた。

    いつもの通り、2タム2フロア、ハイハットに3シンバルのセットなのだが、この中にまたとてつもない大きな宇宙を見てしまった……そんな思いで極上のサウンドに包まれた会場を後にした。

    島村英二

    アルペジオが響いた瞬間
    優しく入ってくるスティーヴのドラム

    YouTubeでしか観たことがなかったこのセット。日本にはもう寄ってもらえないかもしれないと思っていた矢先にJT来日のニュース! それも東京公演1回のみ。あらゆるところに手を打って入手したチケットはアリーナの端っこの席。参ったなぁとガーデンシアターに着くなり、“ある意味最高な席”、スティーヴの真横! 座り方・両手、ペダルの動き、ピアニシモからフォルテへの身体の動き。すべてが勉強できる席で堪能できました。JTのアルペジオが響いた瞬間、優しく入ってくるスティーヴのドラム。カントリー・ロードはもちろんのこと、アンドレアのフィドゥルとのケイジョン風なデュオ、もう言い尽くせない素晴らしいサウンドに酔ってしまいました。

    朝倉真司

    スペースと推進力、シンプルさと懐深さ
    ここぞの1打の説得力とダイナミクス

    キャロル・キングとの武道館公演以来、14年振りに観たJT。あのときの会場の親密感は忘れられないけれど、老いて深みを増した演奏と歌に包まれたただただ多幸感溢れる夜だった。ほぼ1曲ごとに丁寧に語られる楽曲の説明や背景に自分を重ねる幸福。ずっと追ってきた歌モノで叩くスティーヴ・ガッド。スペースと推進力、シンプルさと懐深さ、ここぞの1打の説得力とダイナミクス。初めて観たディーン・パークスやジミー・ジョンソンと共に、ずっと聴いてきた、そして今でも続くアメリカ音楽の歴史と奥深さに想いを馳せた夜でした。感動した!

    神谷洵平[赤い靴]

    心の灯りは一生消えることはない

    待ちに待った初JTライヴは感動というものを超え、“永遠”という言葉を心に焼きつけさせられた1日でした。学生時代、リアルタイムで購入したJTのアルバム『October load』でのガッドのプレイとアプローチには本当に影響を受け、今回その2人をライヴで目の当たりにし、終始涙が止まらなかった感動のライヴ。楽曲への緩急のあるアプローチ、79歳だからこそ出せる熟成されたドラミング。それは真の技術、経験、努力の裏づけがあってのことだと、身をもって知ることができました。この日のライヴで授かった、心の灯りは一生消えることはないでしょう。ありがとうございました。

    横山和明

    音楽の純度と感度の高さ、その美しさに心底感動

    横山:この夜に得た魔法のような体験を未だに言語化できずにいるが、友人と話していたのは音楽の純度と感度の高さ、その美しさに心底感動したということ。ジェームスの声やギターのピッキングのニュアンスが、ゾクッとするほど生々しく鮮明に伝わり、語りが音楽の世界をしっかりと支配していた。もちろん、ガッド御大をはじめとするバンドのサポートの素晴らしさは言うまでもないが、軽くタップしたハイハットから伝わるあの拍の深みはいったい……

    高橋 武[フレデリック]

    ガッドの音が持つ“感動“は何1つ変わらない

    高橋:演奏する人間ならば誰しもが考えたことがあるいくつものこと。例えば今日の機材の調子が……だとか。例えば会場の鳴りが……だとか。モニターの環境が……だとか。何でも良い。良い演奏をするために、納得のいく音楽を届けるために乗り越えなきゃいけない事柄は、その時々で無数に存在するのは当たり前のことだと思う。ただ、その一方で誰しも“そういったことを超越した演奏をしたい“という気持ちも同時に持ち合わせているはず。そういった事柄を、時代を、場所を超越したライヴがこの日のジェームス・テイラーのライヴだった。別に俺はあの日のライヴが、演者目線での環境がどうだったとかそんなことは当然知らない。ただ、そういうことではなく明らかに超越したライヴだった。何をどうやったらあんな音楽になり、あんな感動を与えられるかなど、とても自分には言葉にする術はないが、人間にはあれほどの表現ができるんだと知ること自体が人生を大きく輝かせてくれる。スティーヴ・ガッドの演奏も当然人智を超えた演奏だった。大変ありがたいことにスティーヴ・ガッドは頻繁に日本でライヴをしてくれているが、近い環境で聴くガッドの音と、今回のような広い環境で聴くガッドの音が持つ“感動“が何1つ変わらないことも、その日のライヴが普遍的であることを証明している。