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ダイアナ・クラールの来日公演を支えたマット・チェンバレンのロック・スピリット【Report】
- レポート:村田誠二 撮影:土居政則/ヤマハ(機材) 取材協力:ウドー音楽事務所
空間をさまざまな景色に見せる
歌心が自由で音楽的
一気に表現するときの“ラッシュ”は
まさにロック・ドラマー
5年ぶりとなるダイアナ・クラールの来日公演。当初のアナウンスでは、東京はTOKYO DOME CITY HALLでの1公演で、チケット争奪戦必至と個人的には諦めムードではあったが、追加公演が昭和女子大学人見記念講堂と知り、俄然、聴き慣れたクレイトン/ハミルトン・バンドの1点の曇りもない心地良いスウィングを、あの音環境のいい講堂で聴きたい!と鼻息を荒くした。
“ダイアナ・クラールは02年のライヴ盤『ライヴ・イン・パリ』が最高なんだよなぁ……やっぱりジェフ・ハミルトンは生で観たいよなぁ……さて、今回他のメンバーは誰かな……えーと……ん? え? ドラムはマット・チェンバレン⁇”ーーとまぁ、筆者の心の動きはこんな感じで、荒い鼻息は、俄然、まったく別の関心を帯びてより荒くなった。
マット・チェンバレンと言えば、90年代後半にカルト的な人気を博したクリッターズ・バギンでの、幅の広い音楽性の中でもやはりロック的“バック・ビーター”のイメージが強く、00年代に数作発表されているソロ作『Matt Chamberlain』(05年)や『Comet B』(16年)では、その延長線上をもっと自由にインプロヴァイズしていく、懐の深さを持つロック・ドラマーという印象だ。
ただ、彼の参加作を聴くと、いつも“捉えようとすると逃げていく”ような感覚があり、トーリ・エイモス『クワイヤガール・ホテル』(98年)やブラッド・メルドー『ラルゴ』(03年)、ジョン・メイヤー『ヘヴィアー・シングス』(03年)、マルコ・ベネヴェント『インヴィジブル・ベイビー』(07年)、そしてキーボーディスト、ブライアン・ハースとの双頭ユニットによる『Frames』(13年)や『Prometheus Risen』(16年)などなど、打楽器奏者としてのアプローチの多彩さに、他のドラマーにはない独自性と新鮮さを覚えていた。
加えて、各曲に対するベストマッチと思えるドラム・サウンドの良さ!も相まって、00年代以降、現在に至るまで彼が引く手あまたのセッション・グレイトとなったことは自明の理だったのだろう、前述のトーリ・エイモスは当時から現在まで継続的にライヴをもサポート、エルトン・ジョン、デヴィッド・ボウイ、ラリー・コリエル、レナード・コーエン、ブルース・スプリング・スティーン……などをはじめ多数のアーティストをバックアップし、何と19年からはボブ・ディラン“Never Ending Tour 2019”の新メンバーに抜擢され、続く新作『ラフ&ロウディ・ウェイズ』のレコーディングにも参加している。
こんな、知れば知るほど懐の深いマットとダイアナの組み合わせに、エキサイトしないはずがない。そして今回の公演は、ギターが入る編成が主だった従来と異なり、初めてベース&ドラムのトリオ編成ときた。その1人、トニー・ガルニエが、90年代からディランのスタジオ/ライヴを支える片腕のような存在のベーシストだと知り、ますます興味が湧いてきたのだった。そして5月9日の東京追加公演を迎えた。
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