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    Archive Interview −マーカス・ギルモア−

    • Interpretation & Translation:Taka Matsumoto
    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Photo :Yoshika Horita

    数々の若い才能を見出してきたチック・コリア。彼が2013年に結成した新バンド、“ザ・ヴィジル”のドラマーに抜擢したのが、当時27歳のマーカス・ギルモア。“ロイ・ヘインズの孫”という枕詞が不必要なほど、八面六臂の活躍を見せる超売れっ子ドラマー。チックが晩年立ち上げた“The Spanish Heart Band”や“Vigilette”にも参加するなど、厚い信頼を集めていたことがわかるだろう。ここではチック・コリア追悼の1つとして、ザ・ヴィジルで初来日を果たした際に行ったマーカスのアーカイヴ・インタビューをお届けしよう。

    僕はチックと演奏することを
    昔からずっと心にイメージしてきたんだ

    ●今回はザ・ヴィジルでの来日ですが、チックとは昨年発表された“THE CONTINENTS”の『チック・コリア:協奏曲《大陸》』でも共演していますよね? 初共演がTHE CONTINENTSになるんでしょうか?

    マーカス 最後にTHE CONTINENTSで演奏したのは2年前で、それが『チック・コリア:協奏曲〜』のレコーディングで、実際にライヴをやっていたのは2006〜2007年にかけてなんだ。実はその前にもチックと一緒に演奏したことがあるけど、ちゃんとツアーを回ったのは2006年のTHE CONTINENTSが最初だね。

    ●あなたの祖父であるロイ・ヘインズを筆頭に、チックは数多くの名ドラマーと共演していますが、そのドラマーに選ばれたのは、光栄だったんじゃないですか?

    マーカス もちろん光栄なことだよ。何より僕はチックと演奏することを、昔からずっと心にイメージしてきたからね。彼の演奏は音源で聴くのはもちろん、ライヴを何度も見てきた。今、チックと一緒に演奏できているのは信じられないことだよ……昔からずっと見て聴いて、自分の中でイメージしてきたことが現実になったわけだからね。最高だよ!

    ●チックのインタビューを読んだんですが、ザ・ヴィジルのメンバーとして最初に浮かんだのがあなただったそうです。それは彼がバンドに求めるものが、あなたのスタイルとマッチしていたということだと思うのですが、チックからは何を求められていると感じますか?

    マーカス チックはいろんなことに対してオープンな姿勢で、幅広いジャンルの音楽を演奏できる人を求めている人だと思う。そしてTHE CONTINENTSで一緒に演奏したことで、彼は僕が問題なく曲を暗記することができるということも知っていたと思う……THE CONTINENTSではコンチェルト(協奏曲)を暗記して演奏しなければならなかったからね。チックは僕だったらちゃんと曲を覚えて自分のものにしてくるって思ってくれたんだと思う。こういう形態のバンドではドラマーが勢いをつけたり、全体を1つにまとめたりする役割をしていて……たまに“牧師”って呼ばれることもあるけど(笑)、それは単なる冗談じゃなくて、もちろん他のどのパートも大事だけど、ドラマーの役割っていうのはすべてをまとめるという意味で本当に大切なんだ。だからチックは僕にはそういう力があると信じてくれていると思っているよ。

    実際のところザ・ヴィジルで一緒にやるまで、彼は僕がいろんなジャンルの音楽を演奏しているのはそんなに見たことはなかったはずなんだ。それでも「やる気があるか? できるか?」って聞かれて、「はい!」って答えたら、「よし!」って(笑)。あのチックが僕の信じてくれているんだから、自分がやるべきことを実現するためにしっかりと取り組んだよ。チックはこのバンドで過去に作った音楽と共に、新しい音楽をやろうとしていたんだ。ステージを見てくれたならわかると思うけど、エレキ・ベースやアップ・ライト・ベース、エレキ・ギター、アコースティック・ギター、パーカッションって、本当にいろいろな楽器を使っている。とにかくいろんなことをやりたがっていて、自由とかオープンさとかを追求している。僕もそういう挑戦は大好きだ。チックは僕がそういうことが好きな性格だってことを知ってくれていたと思っているよ。

    ●アルバム『ザ・ヴィジル』も素晴らしい作品で、あなたの端正なサウンド&グルーヴが、チック・サウンドに新しい風を吹き込んでいるように感じます。その核にあるのは正確なスティック・コントロールだと思いますが、クラシック・パーカッションで学んだものなんですよね?

    マーカス クラシック・パーカッションは確かに学んだよ、ヨーロピアン・クラシック・パーカッションを中心にね。他のクラシック・パーカッションもやったよ。インドのクラシック・パーカッションとか世界中の音楽だね。ドラムを初めてから1年ぐらいやったけど、子供の頃だったから、技術的な面では少なからず影響があると思うね。

    ●では綺麗な音を出すために心がけていることは?

    マーカス いろんなことが影響し合っているね。どんなふうに叩くか、ということももちろん重要だけど、チューニングや楽器の選び方も同じように大切だと思う。でもみんなそれぞれの音を持っていて、いろんなアプローチがあるわけだから、一概に良い音とか悪い音とかいうことはできないと思うね。言ってしまえば正しいやり方なんてものはないんだよ。僕には僕のやり方があるけど人にはその人のやり方があるわけだから。

    ●では、曲はどのような形で渡されるんですか?

    マーカス デモとチャートが送られてくるけど、デモはただの参考でしかない。というのも、実際にみんなで音を合わせ始めると常に変わり続けるからね。基本的にアレンジはバンドで固めていったって言えると思う。ツアーもあったから、それ自体がリハーサルみたいなものだったね。

    ●長尺でキメも拍子も複雑な曲が多いですが、どのように曲を覚えているのですか?

    マーカス アルバムは70分か80分ぐらいだったっけ? アルバム全体を通して聴いたら、“こんな難しい楽曲を全部覚えなければならなかったんだ”って思うかもしれないけど、実際には全部一気に覚えたわけじゃないからね。僕にとって最良の覚え方は、分析しながら1曲ずつやっていくことだ。そのやり方だと曲をより深く理解できるし、覚えるのも不可能なことではないと思える(笑)。そして曲を覚えるときのポイントはメロディをよく聴くこと。それがキーだよ。

    ●スリップ・アプローチや5つ割り、7つ割りのフレーズをうまく取り入れていますが、そういったアプローチはどのように考え出しているんですか?

    マーカス 感覚的なものと論理的な考えとが合わさったものだよ。少しの論理的なものとたくさんの感覚的なものを組み合わせたものだね(笑)。ずっと感覚的にやってきたんだけど、あるときから違うアプローチの仕方をするようになったんだ。そのきっかけは覚えていないけど、論理的に考えるようになってから、フレーズがそれまでと違った聴こえ方になったんだ。それからはリズム、ハーモニー、メロディを覚えるたびに、新しい考え方が開けるようになったんだ。僕にとって1つのことを身につけることは、それだけでは終らないことなんだ。何か1つを身につけることで新しいアイディアがたくさん出てくる。世界中のリズムはもちろん、祖父やエルヴィン・ジョーンズなんかの、レジェンド達のリズムを身につけることで、僕の考えが広がってきたんだ。

    ●常に全体を見渡してクールに演奏しているように感じたのですが、どうしてその若さのその境地に達することができるんでしょうか?

    マーカス ありがとう(笑)。たぶん経験なんだと思う。そして僕の性格的なものも関係しているだろうね。僕はステージでテンションが上がりまくるってことはない(笑)。叩いてないときはいっぱい笑うけど、演奏中はすごく集中しているから笑うことはほとんどないね。ピアニストのヴィジャイ・アイヤーは知ってる? 彼に実際言われたんだ、“マーカスは演奏中、絶対に笑顔を見せない”って(笑)。彼は僕が演奏しているのを何度も見ているから、そういうことなんだろうね。

    ●その若さで経験って言えるのもすごいと思うんですが、ドラムを始めたのはいつ頃なんですか?

    マーカス 10歳のときに始めたから16年……いや、もうすぐ17年だ。来月27歳になるからね。だから初めてチックと2006年にツアーに行ったときは19歳だったよ。

    ●それはすごいですね! 以前のインタビューで音楽を上から見渡せるプロデューサー・タイプのドラマーが好きとおっしゃっていましたが、経験の他に、そういったドラマーからの影響もあるんじゃないですか?

    マーカス そうだね。ただ、サイドマンとして人のグループでばかり演奏しているのはある意味で少し危険なことだとも言えると思う。自分の活動を振り返ったときに、ソロ・アーティストとしては何も残してないってことになるからね。人の音楽はいっぱいやったことで、自分の音楽を作ることに集中できなかったっていう。もちろんそれが悪いって言ってるわけじゃないけどね。ただ、僕は残しておけば良かったなって後悔したくなくて、自分の音楽について考え初めて、今年の頭からソロのレコーディングをし始めたんだ。どうなるかはわからないけど、ヴィジルの活動が一段落したら、もっとそれに力を入れたいと思っている。

    ●あなたのようにテクニックと音楽性を兼ね備えたドラマーを目指すドラマーにアドバイスをお願いします。

    マーカス 学ぶプロセスというのは永遠に終わることがない。僕が言えることはできる限り多くの音楽を聴いて、勉強する必要があるってことだ。最も重要なことは一流のミュージシャン、特にレジェンド達の演奏を実際に見ることだ。永遠に続くものなんてないからね。もし彼らが亡くなってしまったら……もちろんビデオを見たり、インタビューを読んだりすることはできるけど、実際に見るのとはやっぱり違う。良いミュージシャンになりたいならば、たとえお金がかかったとしても、チャンスがあるならば見に行くべきだと思う。そしてさっきも言ったように世界中の音楽を勉強すべきだ。同時に自分の国の音楽も勉強すべきだよ。自分の国の文化を知ることはとても大切なのに、多くの人がそこまでそれに力を入れてない気がするんだ。それを忘れるなって言いたいね!

    ●あなたがその若さでチックのバンドに抜擢されたということは、同世代の日本のドラマーの刺激になると思いますよ。

    マーカス そう思ってもらえると光栄だよ。同世代の人が活躍しているのを見るはうれしいことだよ。彼らの活躍が自分を鼓舞してくれる。テニス・プレイヤーの(ラファエル)ナダルは同世代なんだけど、彼がいろんな大会で勝ちまくっているのとか見るのはすごく影響を受けるね。スポーツだけじゃなく、科学、アート、どんな分野でもそうだ。そういうことにありがたく思うよ。

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