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    Archive Interview 茂木欣一[フィッシュマンズ]④ 〜1996年3月号〜

    フィッシュマンズは音楽の
    無限の可能性に挑戦している

    音色もバラエティに富んでいますね。

    茂木 今回、MIDIドラムで録ったんですよ。生のセットとは別物なんで、それを使いこなすことから始まりました。初めはどうなるかと思ったんですけど、レコーディングに入る前に、エンジニアのZAKが「レコーディングなんて、どこでもできるよ。山で録りたいと思ったら山でやったらいいんだよ。車で機材を運んで、バッテリーから電源とればなんとかなる。それでいい演奏が録れるんならそれでいいじゃない」って言うんですよ。それを聴いて「ああ、そうか」って。何かそういう気分がすごくよくて。だから生のセットじゃないっていう抵抗はあんまりなかったです。生は3曲だけ。「BABY BLUE」、「幸せ者」がラディックで、「すばらしくてNICE CHOICE」がグレッチ。これは63年くらいのブルーのヤツなんですけど、かなりいいッスよ(笑)。バスドラが20″、タムが12″、フロアが14″、16″。バスドラからシンバル・スタンドが出ているのが欲しくてね(笑)。コーテッドを張ったんで、それっぽい音が鳴り響いてるでしょ?

    ●機材の使い分けはどうやって決めたんですか?

    茂木 メンバーと一緒に、その曲に合うものを選んでいくという感じですね。「すばらしくて〜」に関しては、テンポの問題が出てきて、最初MIDIでやったときは84でやったんだけど、生のときは86でやりました。今回、テンポはすごく気をつかいました。その曲にあったテンポを探すというのは大事な作業ですよね。さっきの話になっちゃうけど、ライヴでつかんだテンポを踏まえた上で、じゃあ家で聴くにはどのくらいのテンポにすれば、曲が一番伝わるんだろうって探していったんです。

    具体的にはどうやって決めていくんですか?

    茂木 僕がまず適当なテンポを出して、それをもう少し上げよう、下げようって。最近は意見が一致してきて、決めるのもうまくなってきましたよ。それはきっと、例えばベースの譲君が覚えて自分の血になったことを、僕も理解して、自分の血にすることができてきたということだと思うんですけど、客観的になれてきたのかな。これまでは自分がこのくらいっていうつもりで叩いていたテンポをプレイバックして聴いてみると、たいてい思っていたよりも速かったんですよ。それが最近なくなって。これは力が抜けてきたってことだと思うんです。そうするといろいろなものが見えてくるんですよ。「あ、今、ウラ拍が短かったな」とか。これは今回の収穫でした。1音1音の説得力って大切だなって思いました。責任持ってやらないとって。タイム感には徹底的にこだわりましたね。音楽の息遣いを大切にするというか。歌っている人のタイム感が前後するのはいいんですよ。歌っている人には自由に漂ってほしいんです。ただ、その後ろの僕らはしっかりと根ざしていたいんですよ。毅然としていたい。

    より自由に歌える環境を作ってあげたい?

    茂木 そうそう。一緒に前にいくんじゃなくて、しっかりとボトムを支えるということですよね。

    オカズがないですよね?

    茂木 ああ、ないですねぇ(笑)。オカズを入れることで、反復して続いているグルーヴ感や曲の持つ緊張感を削ぐんだったらいらないんですよ。それだったらオカズなんか入れないで、曲の緊張感を保っている方がカッコいいですよね。譜面では4小節なりでできているパターンの繰り返しに過ぎないのかもしれないけど、1音1音に込められている気持ちの方が大切ですよ。僕らはそういうバンドだし、そういう姿勢は崩したくない。

    それだとフレーズやリズム・パターンを考えるのってすごく苦労するんじゃありません?

    茂木 ええ、すごく(笑)。去年の春にマッキントッシュを買って、それでパターン作りをするようになったんです。例えばベースのフレーズを打ち込んでおいて、それに思いついたパターンを次々に入れていくんです。曲に馴染んでいて説得力があってというのは難しいですよ。より深みが出たり、ガラッと違う味わいが出たりしたら最高ですよね。そうじゃないもの、ある意味独りよがりなフレーズっていうのは簡単なんだけど。手癖みたいなものですからね。今回は曲を作っている佐藤君が「日常の中にある退屈な感じやだるい感じを出したい」って言ってて、じゃあ俺達はそれに対してこういうリズムを持っていこうっていう感じでやっていきました。それがガッチリはまったんじゃないかな。それにZAKのレコーディングとミックス・ダウンの力というのもすごいですね。誰も妥協しないし、そういう厳しさがピンと張りつめていて、それもいい結果に出ましたね。

    挑戦したことがすべていい結果につながった?

    茂木 うん、そう言い切っていいと思う。

    そういう意味でも新作は無駄がないですよね。

    茂木 そうでしょ? 僕ら、ある時期から曲の構成っていうのをまるで考えなくなったんですよ。音楽って無限の可能性があるなって思うわけですよ、そういうこと1つにしても。フィッシュマンズってそういった無限の可能性にチャレンジしようぜっていうのがすごくある。そういう環境の中にいる自分はすごく幸せなんだ(笑)。自分達だけのリズムを追求していくべきだってすごく思う。スネアのタイミング、バスドラのタイミング……もっと突きつめていくべきだと思う。だからすごく責任感があるんですよね。バスドラ1つ踏むにしても、そこにはすごく責任があって、曲を生かすも殺すも自分なんだって強く感じました。そういう気持ちでやっているから、フィルイン忘れてたりするんですよね。

    アルバム全体の流れもすごくいいですよね。この全体のまとまりの要因はなんだと思います?

    茂木 そうですよね、自分でもまとまっていると思うな。もうこれはバンドがまとまっていたからとしか言いようがないですね。ちなみに曲順は俺が決めたんです(笑)。これがここにあればこの曲がより聴き手に伝わるだろうなっていう発想で決めていったんです。音楽の持っている力……人の心をどこかに持っていってしまうような力が、このアルバムにはあると思う。もう本当に早くみんなに聴いてもらいたいんですよ、って……僕はどういう質問に答えていたんでしたっけ(笑)。

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