UP

Archive Interview 茂木欣一[フィッシュマンズ]② 〜1993年10月号〜

ドライヴなんかで聴くっていうよりも
“ちゃんと聴く”という姿勢で
今回のアルバムには臨んでもらいたい

●コンテンポラリーな感じのプリティッシュ・レゲエっぽさは感じられるんだけど、ビートルズみたいなっていうところのイギリスっぽさは薄れたかなって思ったんだけど。

茂木 それはすごくわかりますね。そうなったのはたいした理由なんてなくて、今はそういう方向に向いちゃったってことでしょうね。

●それって夏にリリースすることが関係してるのかなぁ(笑)。

茂木 (笑)。でも、それはまったくないとは言えないと思います。実際非常に夏っぽいアルバムに仕上がってると思ってるし。そうそう、今日朝起きたときに聴いてみたんですよ。僕の部屋から青空を見ながらね。そうしたらもう、何ていいアルバムなんだって思っちゃって。いや、本当に(笑)。

●うん、こっちもインタビューの質問考えようと思って、何度も聴いてたんだけど、ドラムがどうこうなんてどうでもよくなっちゃった(笑)。でもそういうわけにもいかないから、質問するわけだけど、けっこう流行もののビートを意識してるなと思ったんだよね。

茂木 ビートっていうよりも、一時すごくドラムの音作りに凝ったことがあったんですよ。エフェクト処理とか、全体のバランスとか。まぁ、僕はサウンドの感じだけ伝えて、あとはほとんどミキサーにお願いしてやってもらっただけなんですけどね。でも、そうするだけで僕のイメージ通りの音になってしまうという。

●今回は茂木君ならではの音色を追求するんじゃなくて、曲に合わせていろんな音を使ってるって感じ。

茂木 そう、前作では音はほとんど変えてないけど、今回はやり方を変えて。でも僕は基本的にドラマーとしてのアイデンティティを1つの音色には求めないんですよ。音色に関しては、曲によって合う/合わないがあると思うから。

●技術的に苦労したところってある?

茂木 前作は、ジャズ風とか何とか風とか、いろんなタイプの曲があったから、ドラミングも何とか風にするってことを意識したんですよ。でも、今回は全編でレゲエのリズムがフィーチャーされているから、もう一歩踏み込んだドラミングが必要だなと思ったんですね。だからスネアの微妙なタイミング、強弱とかで苦労したっていうか、そこに気をつけました。柏原やミキサーにもその点でいろいろアドバイスを受けたし。彼らは耳がすごいしっかりしてるんですよ。最初はそういうアドバイスには抵抗があったんですけど、曲が出来上がったときに、彼達はこういう感じになるってわかってて言ったんだなぁって感心したし、今回はそこが一番勉強になったところでしたね。

●レゲエの要素だけは今までのアルバムすべてに一貫して感じられるんだけど、それはどうしてだと思う?

茂木 それは最終的にフィッシュマンズらしさとして残ったものじゃないかなぁ。たまたまそれがレゲエだったって感じですね。僕らはとにかく歌を第一に考えて、僕達の曲には特にレゲエっぽいリズムがしっくりくるものが多かったんでしょうね。歌詞を表現するという意味においても。

●それぞれのメンバーの音楽の趣味を聞いてみると、多分バラバラなんだけどレゲエだけはつながっているとか?

茂木 そうかもしれませんね。だから練習のときにジャムっても、レゲエの曲だけ活気が出ることがあるんです(笑)。でも、僕らがレゲエに惹かれているのはリズムの部分だけなんですけどね。叩いてるときは、別にレゲエを意識しているわけじゃないし。やっぱり俺ってロックなんだなと思ってるんですよ(笑)。

●うん、それは特にライヴを観るとわかるよね。

茂木 このバンドは、スピリットの部分では絶対ロックだと思うんですよ。佐藤なんか特にそうだし。レゲエのフィルとか聴いても、僕はけっこうパンクを感じちゃったりするんですよね。“ええ! ここにこんなフィル入れちゃうの”っていうところが多々あるんですよ、 レゲエのドラミングには。

●今回のアルバムを自分の中でどう位置づけてる?

茂木 やっと毎日聴けるアルバムができたかなと。10代の頃って、小遣いを貯めてもせいぜい 1ヵ月に1枚くらいしかアルバムか買えなかったじゃないですか。で、買って当分はそればっかり聴いてたでしょ。そういうアルバムにはぴったりですね(笑)。特に最近の日本のヒット・チャートで幅を利かせている曲に慣れている耳でこれを聴くと、“いい音楽っていうのはさぁ、こういうものなんだよ、ほら思い出してごらん”って訴えかけられるという(笑)。だからドライヴなんかで聴くっていうよりも、“ちゃんと聴く”という姿勢でこれには臨んでもらいたいですね。

▼特設ページTOPへ戻る