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ロニー・キャスピが語る楽曲作りとサウンド・メイク、“歌とドラム”の捉え方
- Interview:Rhythm & Drums Magazine Translation & Interpretation:Yusuke Nagano
- Photo:Tyler Krippeanhe Special Thanks:Acoustic GARAGE
自分で曲を書くようになってから
より意図を持ってドラムを演奏するようになった
天才的なテクニックで注目を集める若手ジャズ・ドラマー=ロニー・キャスピが、これまでの配信楽曲に日本版ボーナストラックを加えた初のフィジカルCD『Introducing Roni Kaspi – Tell Me + PONI & more』をリリース。同世代のドラマー&コンポーザーであるGaku Kanoとの共演のため来日したタイミングで、彼女ならではの楽曲作りやサウンドのこだわり、シンガー・ソングライター視点を交えたドラム観についてたっぷりと語ってもらった。
●また日本に来てもらえてとてもうれしいです。今回で何回目の来日ですか?
ロニー・キャスピ これで4回目になりますが、来るたびに素晴らしいところだなと思います。日本が大好きですし、すごくお気に入りの国です。
●ソロ名義で初めてのフィジカルCDとなる今作ですが、今までに発表されたEPの収録曲に加えて、日本限定のボーナストラックも入っています。バラエティに富んだ楽曲達をどのように作曲されているのでしょうか?
ロニー そのときによって違いますね。キーボードやピアノを弾くところからスタートして、自分が思い描くハーモニーを探したりすることがあります。それと、何気なく道を歩いているときにメロディが頭に浮かぶことがあるんです。そういう場合は、家に帰ってからそれにフィットするコードを探したりします。基本的には、このどちらかで作曲することが多いですね。

VIVID SOUND/Chandelier Records(通常盤)VSCD3248/CR002
●収録曲の「Stay」は、前半はチルな落ち着いた雰囲気で始まりますが、後半になるにつれてダイナミックさやドラムの激しさも増していきます。とてもドラマチックな展開をする楽曲だと感じましたが、そういった構成はどうやって組み立てていきましたか?
ロニー まずはパソコンで、ドラム・マシンやいろんなエフェクトを使い、すべて打ち込みでデモを完成させました。それから、打ち込みで作ったときの雰囲気を保ちつつライヴで演奏できるようにアレンジをし、バンドで録音をしたんです。
ゆったりとした曲調から徐々にクレイジーになっていくので、自分のやるフィルインもその流れに沿って激しくしたり、打ち込みで使っていたドラマチックなエフェクトもライヴで再現するようにしました。
●2023年にリリースされた「Berlin」は、他の楽曲と比べて、エレクトロニックなサウンドが前面に出ているのが印象的でした。アコースティック・ドラムとの使い分けはどのように決めていますか?
ロニー 曲次第としか言いようがないですね。曲によって、よりエレクトロニックなサウンドが必要だと感じるときもあれば、これはもっとライヴ感があったほうが良いなと感じることもありますしね。「Berlin」を作曲してからだいぶ時間が経ったように感じますが、あの頃と今とでは自分の考え方が違うんです。なので、今も同じ選択をするかはわかりませんが、当時はあの曲を全部エレクトロニックで仕上げるのがしっくりきていました。
●ボーナストラックの「Roppongi Jam」はどういった経緯で録音したのですか?
ロニー パリで私のバンドのライヴ・セッションがあったんです。『Poni』に収録されている「Falling with you」、そして「Blue Lights」と「Stay」を録音しましたが、そのときに「Roppingi Jam」もレコーディングしていました。事前の打ち合わせはなく、すべて即興演奏でした。それが2023年だったんですが、それから発表する機会がなくて。なので、今回ボーナストラックとして収録するのはいいアイディアだと思ったんです。

●ソングライター、そしてシンガーとしても素晴らしいスキルをお持ちですが、そういった別の立場からの視点はドラムにどんな影響を与えていると思いますか?
ロニー 自分で曲を書くようになってから、より意図を持ってドラムを演奏するようになったと感じます。“曲が何を求めているか理解したい”という姿勢になり、どうやったら曲をより良いものにできるか、常に考えるようになりました。ジャズ・スタンダードを演奏するときも同じですね。
●インスト曲と歌ものを演奏するときで違いがあると思うのですが、どんなことを意識しているのでしょうか。
ロニー 私がドラムとヴォーカルを担当するときは、より“ポケット”をキープするようなノリを意識していますね。もしもインストのみであれば、即興的で自由さもあるので、もう少しクレイジーにやることが多いです。
●では、ドラム・サウンドについてはいかがでしょうか。チューニングや使用する機材についてはどんなこだわりがありますか?
ロニー 自分が作曲した楽曲をライヴでやるときは、ビッグでファット、だけどクランチー(太くて存在感がありつつ、エッジの効いた歯切れの良さもある)なサウンドがいいなと思っていて。なので、スネアを高めにチューニングします。ボディの成分も欲しいのであまり高すぎず、しかしクランチーなサウンドが出せる十分な高さにしています。自分の曲に関しては、ものすごくロー・ピッチの(スネア)サウンドはいらないなと思っているんです。
ただ、フロア・タムは深く“ブゥーン”と鳴るように、すごく低いチューニングにします。ラック・タムは、スネアとフロアの中間くらい。でも、ジャズを演奏するときは、スネアもタム類もより高いピッチでチューニングしています。シンバルはいつも同じものを使っていますね。
●曲が必要とするものに合わせてチューニングをする、ということですね。今日撮影したドラム・セットにはミュートがされていないのですが、普段からノーミュートで演奏しているのでしょうか。
ロニー ケース・バイ・ケースですね。ジャズのように、よりオープンなサウンドが必要であればミュートはしません。ですが、自分で作曲した曲では、フロア・タムは低くチューニングをして、その上に何かしら(ミュートするものを)置きます。ラック・タムにはテープかムーン・ジェルをつけたりします。
スネアも演奏する音楽によりますが、いつも小さなタオルを持ってます。ミュートしたスネアのサウンドが好きなんですよね。“ポケット”をキープするような曲では、スネアはミュートするようにしてます。ジャズであれば、より倍音が必要なのでミュートはせずに、オープンなサウンドのままにしています。
“歌っている”状態と“ドラムを叩いている“状態が
同時に起こっているだけ
ドラムでどんなことをやっていても歌えると思う
●複雑なリズムをドラムで演奏しながら歌うことは難しいと思うのですが、YouTubeにアップされていたライヴ映像では、それをまったく感じさせず、自然にこなされていました。どのように両立させているのですか?
ロニー どうやっているんでしょうね(笑)! 自分の感覚では、ただ“それをやってるだけ”なんですよね。“歌いながらドラムを演奏すること”というコーディネーションの部分は、全然問題じゃないんです。むしろ、歌の方で苦労していますね。数年前までは歌っていなかったというのもあるので、“ちゃんと呼吸をすること”、“ピッチが合っているか”ということに意識を向けています。ライヴの前には、セットリストを通してドラム・ヴォーカルでリハーサルをすることはありますが、それをできるようにするための特別な練習は特にないです。ドラムでどんなことをやっていても歌えると思いますね。
●それは驚きです! 7歳からドラムを始めて、その頃は曲に合わせてドラムを叩いていたと聞きましたが、その頃からもう歌っていましたか?
ロニー ちょっとだけですが歌っていました。もしかしたらそれも、問題なくできる1つの要因かもしれないですね。
●「どうやったらドラム・ヴォーカルができるようになりますか?」といった質問に対してアドバイスをするなら、どんなことを言いますか?
ロニー 「とりあえずやってみてごらん」って言いますかね。ドラム・ヴォーカルをやっているときの私の感覚は、“歌っている”状態と“ドラムを叩いている“状態が同時に起こっているだけで、実際は同じことなんです。ドラムのパートは勝手に動いている感じです。考える必要もないし、ただ自然に演奏しています。例えるなら、テンポを「ワン、トゥー、スリー、フォー」と頭の中でわざわざ数えないですよね? わざわざそうしなくても、ただそこにあるんです。私にとってはそういうことです。
なので、アドバイスをするとしたら「ドラムの演奏をしながらでも、リラックスしてインターナル・クロック(自分の中にあるタイム感)を保てるようにすること」と、「ドラム、そしてドラム・パートのことを考えずに演奏できるようになること」。その2つが自然にできるようになったと感じられたら、そこにヴォーカルを追加して、どうなるか試してみると良いと思います。
●なるほど。よく取り組むエクササイズや、ウォームアップとして取り入れていることがあれば教えていただけますか?
ロニー ずっと同じ練習をしちゃうんですけど、最近は何だったかな……(少し考えてから)基本的には、ルーディメンツを練習します。シングル、ダブル、パラディドル、インバーテッド・パラディドルなど、すべて左手からもやります。
練習するときは、両足でボサノヴァ・オスティナートをキープしながら、まずスネアから始めます。その後、右手で何かパターンをやりながら、左手と右足でそのルーディメンツをやります。それからその順番をひっくり返したり、他の手足の組み合わせでやったり、違うテンポで練習したりします。教則本を使った練習はしたことがないんですよね。
●ドラムの演奏は、自然に耳で学んできたということでしょうか。
ロニー その通りだと思います。聴くことでドラムを学んだからですかね。

●直近の活動についてうかがいますが、今回の来日で共演される(※取材は10月の共演前)、Gaku Kanoさんとのコラボレーションの経緯を教えてください。
ロニー ヴィヴィド・サウンドの人達から「ガクとコラボしませんか?」という連絡をもらったんです。それから彼の音楽をチェックしたんですが、とても素敵で“これはすごく良いコラボレーションになるな”と思ってオファーを受けました。私たちの音楽がどこへ向かっていくのか、どんな音楽が出来上がるのかが楽しみです。
●来年は、新しいソロ・アルバムをレコーディング予定と聞きました。そちらはどんな様子でしょうか。
ロニー いい感じですよ。今までよりも作曲が上手になっている感覚もあり、手ごたえみたいなものを感じています。自分のサウンドというものをさらに追求できるようになり、本当に楽しいです。とても素晴らしい出来になる予感がしていて、今からすごくワクワクしています。
●次回のアルバムを制作する上でコンセプトはありますか?
ロニー 特にこれといったものはありませんね。いつもと同じように“音楽を通して、自分のストーリー、人生を表現する”だけです。どのような物語になるかは、これから少しずつ見つけていければと思っています。
Equipment
ロニーの使用機材をチェック!
ダイナミクスに富んだドラム・アプローチで楽曲を彩るロニーが来日中に使用したドラム・キットは、ダーク・ブラウンのカラーリングが上品なTAMAのSTAR Maple。こちらはTAMA Drumsからのレンタル品で、1バス、1タム、2フロア・タムというキット構成に、ジルジャンK Constantinopleシリーズのライドを主体としたシンバル4点を水平にセッティング。ロニーによると、「リムを使った音色が出しにくくなるのを避けるため、タムには角度をつけないのがこだわり」とのこと。ドラム・スローンを64cmという高さにセッティングしているのも特徴の1つ。スネア・ドラムは、TAMAのSTAR Reserve Maple(14″×5″)で、基本的にはハイ・ピッチにチューニングして使用しているそうだ。フット・ペダルは、TAMA Iron Cobra(Power Glide)のシングル・ペダルで、スティックは、ヴィック・ファースのExtreme 5A(14.4mm×419mm/ヒッコリー)をチョイス。
【Drum Kit】
TAMA STAR Maple
18″×14″BD、12″×8″TT、14″×14″FT、 16″×16″FT
【Snare Drum】
TAMA
STAR Reserve Maple(14″×5″)
【Cymbals】(L→R)
ZILDJIAN
14″ K Light Hihat
19″ K Constantinople Crash Ride
22″ K Constantinople Overhammered Thin Ride
20″ K Constantinople Flat Ride
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