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ユーミンとドラマー 〜後編〜
- Text:Yusuke Nagano
今年デビュー50周年を迎えた松任谷由実。本記事ではそのサウンドを彩ってきたドラマーに焦点を当て、振り返っていく。前編ではデビューから80年代中頃までにフォーカスしてきたが、後編は80年代後半から現代へと続くユーミンとドラマーの密なる関係性を探ってみたい。
時代を反映したサウンド・メイク/『ダイアモンドダストが消えぬ間に』〜『DAWN PURPLE』
87年にリリースされた『ダイアモンドダストが消えぬまに』以降では、起用されるドラマーの顔ぶれと、サウンドの傾向も変化。江口信夫を軸にして、マイケル・ジャクソンらとの仕事でも知られるLAのファースト・コール・ドラマー、ジョン“JR”ロビンソンの参加が目立つようになってくる。江口は明確な発音と精度の高い緻密なプレイで、時代に適応した洗練されたグルーヴを聴かせ、ジョンは持ち前のスケールの大きな図太いグルーヴをいかんなく発揮している。またこの時代からはレコーディングにシンクラビア(シンセサイザー、サンプラー、シーケンサーなどを統合した電子楽器)が導入されて、デジタル色が濃くなり、打ち込みドラムを採用した楽曲が増えていくのも大きな特色。シモンズ系の電子ドラムのタムなども効果的に使用されている。
89年にリリースされた『LOVE WARS』には、70~80年代にスティーヴ・ガッドと並び称された大御所セッション・ドラマーのハーヴィー・メイソンも参加。映画「波の数だけ抱きしめて」の劇中歌に使われた「心ほどいて」の、タイトなスネアを駆使した質感の高いプレイや、「届かないセレナーデ」でのリムを用いたビートが印象的で、そのグルーヴに乗せてユーミンの歌の世界を心地良く伝えていく。
90年にリリースされた『天国のドア』あたりからは、打ち込みのドラムに、当時はまだ自然なニュアンスを再現しづらかった、ハイハットやシンバルなどを生演奏でオーバー・ダビングする手法も頻繁に使われるようになり、さらに『DAWN PURPLE』(91年)や『TEARS AND REASONS』(92年)では、江口が打ち込みのプログラミングを担当しているのも時代を反映した出来事と言える。
海外ドラマー勢が多く起用された90〜00年代/『U-miz』〜『acacia』
93年にリリースされた25枚目のアルバムとなる『U-miz』からは海外ドラマーの起用が増える。ジョン“JR”ロビンソンを軸として、マイク・ベアードやハーヴィー・メイソンらの名前が挙がるが、99年リリースの30枚目『FROZEN ROSES』には、名手ラス・カンケルも参加。「Spinning Wheel」と「8月の日時計」の2曲で、超シンプルなアプローチでありながら、曲に必要とされる要素をすべて含む円熟のプレイを聴かせてくれる。
また、01年にリリースされた『acacia』には、新たな重要ドラマーとなるヴィニー・カリウタが初参加し、5曲でプレイ。当時のユーミンは“今の私に最も必要なドラマー”とヴィニーのことを称しているが、ロック、ラテン、ジャズ・ファンクまで、あらゆるジャンルに順応するオールラウンダーの魅力を存分に発揮。また、『acacia』には江口も「Summer Junction」、「TWINS」、「So long long ago」の3曲に参加。曲調にマッチしたサウンド・メイクで、心地良いグルーヴを聴かせてくれるが、このあたりのプレイを87年の『ダイアモンドダストが消えぬまに』の頃と聴き比べると、時代の変遷によるサウンド変化もわかりやすいだろう。
近年のユーミンを支えるドラマー/『そしてもう一度夢見るだろう』〜『深海の街』
2009年リリースの『そしてもう一度夢見るだろう』では、前述ヴィニーに加えて、屋敷豪太と河村“カースケ”智康の2名が初参加しているのもトピック。屋敷はロックンロール・チューンの「黄色いロールスロイス」におけるプッシュ感溢れる8ビートで鮮烈な印象を残し、カースケはミドル・テンポの楽曲「人魚姫の夢」にて包容力のある8ビートを聴かせてくれる。カースケの起用は、その後2020年にリリースされた目下の最新オリジナル・アルバムの『深海の街』まで継続され、その信頼の厚さがうかがえる。
その『深海の街』には、渡嘉敷祐一と小田原 豊も起用され、久しぶりの日本人ドラマーだけのアルバムとなっている。現在、ユーミンのツアー・サポートを務めている小田原は、ミドル・テンポの楽曲「Good! Morning」を存在感のあるバック・ビートで躍動させ、渡嘉敷は『時のないホテル』(80年)以来40年ぶりに、最多の6曲を担当。バラエティに富んだ楽曲を、ダイナミクス豊かなグルーヴと幅広い表現力で彩る貫禄のプレイを披露している。
前後編に渡ってユーミンの50年の歴史をドラマー視点で辿ってきたが、初期の作品から聴き直してみて、これほど充実度の高い作品達を、50年間リリースし続けてきたユーミンの才能&バイタリティに感服すると同時に、物語の色や匂いまで伝えるような鮮やかな音楽世界を具現化するには、一流の演奏家たちのスキルが不可欠であったとあらためて感じた。また常に時代の最先端を歩んできたユーミンの音楽を、70年代から現在まで聴き比べることで、時代ごとのサウンドの傾向や、ドラムのプレイや音色の流れを知ることができたことも、とても意義深かった。今回リリースされた50周年の集大成『ユーミン万歳!~50周年記念ベスト・アルバム~』をきっかけに、ドラマーのみなさんには、ユーミンの数々の名作に浸りながら、ポップス・シーンのドラムの変遷をチェックしてみることをお薦めしたい。
本日10月13日発売のギター・マガジン2022年11月号では「ユーミンとギタリスト」と題した表紙特集を展開。そのサウンドを彩ってきた鈴木 茂、吉川忠英を筆頭に、市川祥治、遠山哲朗らギタリスト達のインタビューを掲載。さらに松任谷由実本人もギター・トークを繰り広げる、永久保存版の内容となっている。詳細はこちら→HP