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【芳垣安洋のドラム・ノーベル賞!第180回 】ビル・ウィザース/ハル・ウィルナー/アンディ・ゴンザレス
- Text:Yasuhiro Yoshigaki
【第180回】ビル・ウィザース/ハル・ウィルナー/アンディ・ゴンザレス
リズム&ドラム・マガジンの季刊発行に伴い、コラム「ドラム・ノーベル賞」をWebページで掲載することになりました。こちらでもよろしくお願いします……という再スタートになったのですが、今、世の中大変なことになってしまいましたね。みんなで集まって音楽をやることができなくなり、音楽に携わる人々の仕事の場が閉ざされました。社会というものが大きく変わってしまい、大きな戸惑いをみなさん感じていると思います。
何はともあれ、この状況の収束のためには感染しないようにすることがまず基本姿勢です。みなさんも意思を強く持って「うつらない、うつさない。」ような生活を送ってください。必ずまた楽しく音楽に関われるときは来るはずです。その日まで自分のことに責任を持って、人に思いやりを持っていきたいものです。
このような状況ですので、私もなかなか落ち着いてコラムのために音楽を選ぶことができずにいます。新型コロナウイルス感染のせいだけでなく、このひと月に亡くなった音楽家も非常にたくさん出ました。
今回は、この場を借りて彼らの追悼と気持ちが明るくなるような音楽を紹介するページにさせてもらいたいと思います。音楽家のことを偲ぶだけでなく、みなさんにアルバム探してもらったり、YouTubeで見てもらったり、と持て余す時間を少しでも楽しく過ごす手伝いができればと思います。
ビル・ウィザース
DISCOGRAPHY
『Just As I Am』 | 『Still Bill』 |
Bill Withers | Bill Withers |
『Winelight』 | 『Rhapsody & Blues』 |
Grover Washington Jr. | Crusaders |
まずは、実はかなり前に引退されていたのですが、先月末に亡くなったアメリカのシンガー・ソングライター、ビル・ウィザースさん。多くのシンガーがカヴァーしている「Lean On Me」、80年代初頭に大ヒットしたサックス奏者、グローヴァー・ワシントンJr.の「Just the Two of Us」などの曲の作者でシンガーでもあり、これらの曲によってグラミー賞を受賞しています。「Lean On Me」は今の生活を強いられているみんなの心に強く響くような歌詞です。
「Just the Two of Us」は、スティーヴ・ガッドやリチャード・ティーら“スタッフ”のメンバーから、マーカス・ミラーなど当時のトップ・クラスのスタジオ・セッションマンが参加している80年代のNYシーンを代表するような曲です。
作曲家のうちの1人であるパーカッショニスト、ラルフ・マクドナルドも参加していて、この時期はいろんなレコーディングやサポートにスティーヴ・ガッドとの組み合わせで参加しています。この時期を代表するセッション・チームの1つです。
YouTubeにもいろいろとあるので探してみてください。80年にリリースされたクルセイダーズのアルバム『Rhapsody & Blues』の「Soul Shadows」という曲もビル・ウィザースのヴォーカルをフィーチャーしてヒットしましたね。
ハル・ウィルナー
DISCOGRAPHY
『That’s The Way I Feel Now: A Tribute to Thelonious Monk』 | 『Lost in the Stars:The Music of Kurt Weill』 |
『Stay Awake:Interpretations of Vintage Disney Films』 | 『Weird Nightmare:Meditations on Mingus』 |
ユニークな音楽プロデューサーとして名を馳せたハル・ウィルナーは、4月の頭に、まさに新型コロナウイルスに感染して亡くなってしまいました。彼は歌手のマリアンヌ・フェイスフル、ルー・リードなどのプロデューサーでもありましたが、彼の仕事のメインだったのは、ある特定の作曲家の作品を、いろいろなジャンルのミュージシャンを起用して、さまざまなアレンジを施し、オムニバス形式で1つのアルバムにまとめるというスタイルの制作でした。
1981年、ビル・フリゼール、カーラ・ブレイらが参加したニーノ・ロータのトリビュート・アルバム『アマルコルド – ニーノ・ロータ・メモリアル・アルバム』をプロデュースして、豪華な参加ミュージシャンと、ジャズ、クラシック、ポップスまで多様なスタイルによる演奏で、高い評価を受けました。
以降次々と、
『セロニアス・モンクに捧ぐ/That’s The Way I Feel Now: A Tribute to Thelonious Monk(84年発表)』、
『星空に迷い込んだ男 – クルト・ワイルの世界/Lost in the Stars:The Music of Kurt Weill(85年発表)』、
『眠らないで – 不朽のディズニー名作映画音楽/Stay Awake:Interpretations of Vintage Disney Films(88年発表)』、
『メディテイションズ・オン・ミンガス – ナイトメア/Weird Nightmare:Meditations on Mingus(92年発表)』
と素晴らしい作品をリリースしています。
まとめて書きますが、上記以外にも、主な参加アーティストにドクター・ジョン、ジョン・ゾーン、スティング、エルヴィス・コステロ、フィル・ウッズ、スザンヌ・ヴェガ、チャーリー・ヘイデン、サン・ラ、リンゴ・スター、ニック・ケイヴ、トッド・ラングレン、エルヴィン・ジョーンズ、スティーヴ・レイシーなどがおり、大物からアンダーグラウンドまで幅広く人が集っています。
これらの製作時期に、NYのTV番組「ナイト・ミュージック」でアドバイザー/音楽プロデューサーとして関わっていて、YouTubeで観れるその内容は、世界中のさまざまなジャンルのミュージシャンが繰り広げる素晴らしいコラボレーションとなっています。ぜひこれは見てほしいと思います。
アンディ・ゴンザレス
DISCOGRAPHY
『Ya Yo Me Cure』 | 『Ritmo,Sonido y Esteilo』 |
Jerry Gonzalez | Conjunto Libre |
『In Concert Live at University of Puerto Rico』 | 『Canciones del Solar de los Aburridos』 |
Eddie Palmieri | Willie Colon & Ruben Blades |
そしてもう1人やはり4月に入って亡くなった偉大なベーシスト、アンディ・ゴンザレス。サルサ、アフロ・キューバン・ジャズの分野では最も偉大なベース奏者でした。エディー・パルミエリ、ジェリー・ゴンザレスらの音楽からトティーコそして多くのキップ・ハンラハン作品まで、ラテンとジャズの両方の分野でグルーブとメロディーともに表現できる稀有な存在でした。彼の演奏もいろんな動画で観る音ができます。探してみてください。
というところで、今月はこの3人の追悼ということで筆をおきます。またみんなが笑顔で再会できる日が来ることを祈って、音楽を楽しみながらこの生活を乗り切っていきましょう。
◎Profile
よしがきやすひろ:関西のジャズ・シーンを中心にドラマーとしての活動を始める。渋さ知らズなどに参加しキャリアをスタートさせた後上京。民族音楽/パーカッションなどなどにも精通し、幅広いプレイ・スタイルで活躍している。菊地成孔やUA、ジョン・ゾーン、ビル・ラズウェルなど数多くのアーティストと共演し、自身のバンドであるVincent Atmicus、Orquesta Nudge!Nudge!をはじめ、ROVOや大友良英ニュー・ジャズ・オーケストラなどでも活動している。ジャンルやスタイル、国籍などを取り払い、ボーダレスに音楽を紹介するレーベル=Glamorousを主宰している。
◎Information
芳垣安洋 HP Twitter