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    トニー・ウィリアムス – 時代を変えた“天才”をシンディが語る

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Translation & Interpretation:Akira Sakamoto

    9歳でドラマーを志し、17歳でマイルス・デイヴィス・クインテットのメンバーに抜擢、時代の寵児となった天才、トニー・ウィリアムス。自身のグループでも数々の名演を残し、その死から20年以上経った現在も、世界中のプレイヤーに大きな影響を与え続ける伝説のドラマーである。本日12月12日は彼の生誕記念日ということで、トニーの熱心なフォロワーとしても知られるシンディ・ブラックマン・サンタナがその魅力を語った2017年11月号の記事を公開!

    太く大きなサウンドだけどトーンはものすごく美しい
    小さな音量でも大きな音量でも自由自在に演奏できる

    (そもそもシンディがトニー・ウィリアムスを知ったきっかけは……?)—姉の友達だったギタリストから、「ドラマーになりたいのなら、史上最高のドラマーを聴かなきゃ。明日僕の家に来たら、聴かせてあげるよ」と言われて、聴かせてもらったレコードに圧倒されてしまったの。当時15歳くらいだった私はトニーのことを全然知らなくて、始めはかなり年長の人だと思っていたのだけれど、最初に聴いたそのレコードはマイルス・デイヴィスの『In Europe』で、トニーが16〜17歳頃の演奏だと言われて、びっくりして。それで、「もっとびっくりさせてあげるよ」と言って聴かせてくれたのは『Four & More』。もうその日から私はトニーに首ったけで、会う人みんなに私が聴いたレコードとトニーの話をするようになったわ。

    それから2〜3ヵ月経って、ある友達が「あなたが言っていたドラマーがクリニックをやるそうよ」と教えてくれたの。私はどうしても参加したくて「そのクリニックを受けなきゃならないの、何でもするからお願い!」と母に言って連れて行ってもらったわ。クリニックにはトニーとベーシスト……確かバニー・ブルネルだったと思うんだけど、どんな演奏をしても素晴らしかった。サウンドもコンセプトも、テクニックはもう圧倒的だし。デモ演奏は確かジャズ・ロック風で、ベースとギタリストが2人いて、今から思えば『Believe It』や『Million Dollar Legs』のスタイルだった。私はそのとき、“自分もこうなりたい”と決心したわ。私にできるかどうかはわからないけれど、“これを目指さなきゃドラムをやる意味がない”とさえ思ったの。演奏が終わってトニーが「何か質問は?」と言うので、私が最初に手を挙げたんだけど、一言も口が利けなくて(笑)。みんなは“何てバカな娘だろう”と思ったでしょうね(笑)。それでもクリニックが終わってから、彼に会いたいと思って、みんなが帰った後も私は残っていたの。トニーはパイロットが着るような茶色い皮のジャケットを羽織って、大きな革製のカッコ良いスティック・ケースを持ってた。私は自己紹介だけでもしようと思ったけど、また言葉が出てこなくて(笑)、「ハーイ……」と言うのが精いっぱいでした。トニーは「ヘイ!」と応えて行ってしまって。私とトニー最初の会話はそれで終わり(笑)。

    私がニューヨークに移ってからは、トニーに何度も会う機会があったわ。当時の彼氏だったウォレス・ルーニー(tp)がトニーのクインテットのメンバーだったから、クインテットの演奏はいつも観に行っていたし、それ以前にもV.S.O.P.とか、あらゆる機会を見つけてトニーの演奏を聴いていたわ。

    (トニーのドラミングのどんなところに惹かれましたか?)—最初に惹かれたのは彼の美しいトーン。太く大きなサウンドだったけど、トーンはものすごく美しかった。それと完璧なテクニック。何をやっても明解かつ正確で、ダイナミクスのコントロールも素晴らしかった。小さな音量でも大きな音量でも自由自在に演奏できる人。バンドの一員としては、ドラマーとしての役割の領域をさらに広げて、後ろでただタイムをキープするだけでなく、ソリスト同志の会話に参加していたし、彼はタイム・キーパーとしても素晴らしかったけれど、ドラム・キットすべてを使ってタイム・キープしていた。だから何をやってもタイム感は完璧だったわ。彼は音楽的な面においても革新的だったけど、ドラム・キットの使い方も革新的で、ソック・シンバル(ハイハット)で4拍子を刻むのもトニーの発明だったし、アート・ブレイキーやエルヴィン・ジョーンズ、ロイ・ヘインズ、マックス・ローチ、フィリー・ジョー・ジョーンズといった偉大なドラマー達のリズムを、ライドやベース・ドラム、ソック・シンバル、スネアといったキットのいろいろなパーツに振り分けて、独自の方法で組み合わせるというやり方もトニーの発明。たった1人でこれほどのことを成し遂げたのは驚異的だと思う。

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