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    たたきびと ♯10 曲の印象を決定づけるバック・ビート

    • Photo:Takashi Yashima Analysis:Yusuke Nagano

    2014〜16年にお届けした玉田豊夢と朝倉真司による連載セミナー=“たたきびと”をドラマガWebに転載! 打楽器の魅力、楽しさを伝えることを主軸に置いており、ドラム&パーカッションを初めてみようという方に最適な内容です。第10回は、スネアの“バック・ビート”にフォーカス。ドラマーの個性が発揮され、曲の印象をも左右するドラミングの“核”について考察していきます。中〜上級者も必見です!

    これからドラムを始めてみたいという方は「ビギナーお助け記事まとめ」をチェック!

    豊夢君のスネアは
    皮が鳴って、胴が鳴って、響き線が響いて
    それがどう混ざって、どうマイクに残るのかを
    把握している音 (朝倉)

    朝倉さんのスネアの音は
    とにかく明るくて笑顔が見える
    パーカッション特有の
    倍音の出し方みたいなものも感じる (玉田)

    ●今回はカッコいいバック・ビートの鳴らし方をテーマに話をお聞きしたいと思います。

    朝倉 バック・ビートは大事ですよね。曲のほとんどはバック・ビートが占めているわけで、スネアのタイミングと音色、あとはバック・ビートとフィルの関係で曲の根幹の印象が決まってくるというか。

    玉田 本当にそうですよね。バック・ビートの音色とタイミングで曲の印象やクオリティが全然違ってくるので、重要だと思いますね。ドラマーの個性が出るところでもあるし……とにかく朝倉さんのバック・ビートがビックリするくらい特徴があるんですよ!

    朝倉 何を急に(笑)。

    玉田 朝倉さんは何を叩いても朝倉さんの音がするじゃないですか(笑)。

    朝倉 バック・ビート、確かに私は結果的に何でも同じ感じかも……(笑)。変えているのは何というか、がっついている感じかそうでないか、オープンな感じかクローズな感じかくらいかなあ。

    文化的なものやデザイン的なもの…… “これはあれっぽいな”とか、“あの人があの曲で叩いたあれみたいな感じ”とか、いろいろなイメージを持ちつつ、自分の中でそれを煮詰めていった結果、だいたい同じ感じになっちゃう、というか自分の1つの感じで押し通したいという。

    でも豊夢君もすぐわかるよ。豊夢君はスネアの音やタイミングなんかを、他の楽器との兼ね合いも考えてビシッと寄せる感じで。本当に変幻自在なんですけど、それでも音源とか聴いたら“これ絶対豊夢君だな”ってわかる何かがやっぱりありますよね。

    ●そういうのは、やはり叩き方によるところが大きいのでしょうか?

    玉田 それは大きいと思いますね。朝倉さんが僕のスティックで僕のスネアを叩いても、笑っちゃうくらい朝倉さんの音でしたから(笑)。

    朝倉 ほんとにそう。でも本当に楽器って結局叩き方とかタッチなんだって思いますね。例えば私がカースケ(河村智康)さんのセットを叩いても私の音しかしなくて、カースケさんの音とは全然違う。豊夢君の楽器も、豊夢君が叩いていて“なるほど!”と思って叩くと、別に全然私の音で……(笑)。

    玉田 性格とかも出ますよね。何か朝倉さんのスネアの音って、笑顔が見えるんですよ。あと、パーカッション特有の倍音の出し方みたいなものも、ドラムに感じますね。とにかく明るいんです、音色が。イメージで言うと絶対痛くない、いわゆるコンガとかの“ポン”っていう、ふくよかな成分みたいなものを何か感じるんですよね。

    朝倉 自分ではあんまりわからないなあ。“何叩いてもやっぱりこの音しかしねぇな”みたいな(笑)。

    豊夢君はドラムの音色に関して、いつも明確なイメージを持ってそれを実現する方法も研究して持っている人だから、録ったときに“パスッ”っていう皮を触った音と楽器が響いた音がバランス良くきちんと聴こえる。

    皮が鳴って、胴が鳴って、響き線が響いて、それがどう混ざって、どうマイクに残るのかっていうことをちゃんと研究して把握しているというか。そのバランスが豊夢君の音になっているんだと思う。とにかく必ず“パスッ”って感じ。

    玉田 リムに多く当たり過ぎちゃうと“カチッ”って成分が増えるじゃないですか? それがすごく苦手で。ちゃんと鳴っているんだけど、バシャバシャしたのも嫌だし……すべての要素が一体になりつつ、それをマイクにちゃんと乗せるにはどうすればいいのかっていうのは、常に研究していますね。

    ●では叩き方で意識していることはありますか? ヒット・ポイントは決まっていたり……。

    朝倉 私は手前のちょっと右側かな。

    ●その位置をヒットする理由は何ですか?

    朝倉 スティック(の持つ位置)が短いからじゃないですかね(笑)。あんまりスティックを奥に入れると手が当たって怪我しちゃうから。でもど真ん中だと倍音とかがなくてちょっとつまらないかなというのはあると思う。本当はもうちょっと奥に入れた方が良い音がするような気はするんですけどね。

    玉田 カースケさんのヒット・ポイントに、わりと近い位置ですよね。

    朝倉 カースケさんは多分もっと奥にスティックを入れてるんじゃないかな。もっと真ん中寄りの右側だと思う。豊夢君は?

    玉田 僕は朝倉さんとは逆というか、真ん中よりちょっと左くらいの位置で、そのあたりでいろいろと調節している感じですね。

    ●その位置をヒットする理由は?

    玉田 僕も真ん中を叩いてちょっと詰まっちゃうのが苦手で、あんまり広がりがないというか。特に普通のチップのあるスティックで叩くと、カチカチしちゃう感じがして。

    スティーヴ・ジョーダンやカースケさんの倍音の出方を見て、一時期はマネをして手前側を叩いていたこともあったんですけど、僕的には手前よりも、今の位置の方が自分好みの倍音が出るように思うんです。あとはマイクに打点が近いっていうイメージで、ヘッドの鳴りもありつつ、エッジが立つような感じもあって。スナッピーに対してスティックが縦に入っているからか、自然とスナッピーが“バシッ”とよりふくよかに鳴るというか。そんなイメージが自分の中にあるんです。

    たたきびとの“バック・ビート”

    ここでは玉田&朝倉それぞれのバック・ビート・スタイルを写真でチェックしていこう。ストロークの軌道、打面のポイントの違いが、それぞれの音色、グルーヴとなってハッキリと表れている。ぜひ実際に彼らが参加した音源を聴いてみてほしい。

    玉田のバック・ビート・スタイル

    • 写真1

    玉田のフォームは前腕から手首への柔軟な連動が美しく、腕〜手首〜スティックへと力が波及するように伝わっていく。そのため写真1〜2の流れでは、朝倉と比較して前腕の上下移動の幅が少なく見えるが、音色はスナップの効いた躍動感があり、スネアの鳴りを効率よく引き出している印象を受ける。そして強いショットのときは、人差し指を伸ばしたグリップになることが多いのも特徴的。写真3から見る打点は、わずかに中心を外しているが、この微妙な位置の違いが音色に与える影響は大きい。スナッピーのライン上に打点が位置するのもポイントだ。

    朝倉のバック・ビート・スタイル

    • 写真1

     朝倉のフォームは写真1〜2の流れからもわかるように、前腕の重さを効率的にスティックに乗せたア—ム・ショットが美しい。手首のスナップはヒットの瞬間のみ効かせる印象で、グリップもショットの前後でほとんど変化せず無駄な力みを感じない。肩から肘にかけての上腕がブレないのも注目で、抜群の安定と力強さを兼ね備えたショットを実現している。写真3から見る打点はかなり手前側であり、明るく伸びやかな倍音を得やすい位置と言える。その軽快な音色とショット自体の重さのバランスに朝倉のバック・ビートの秘訣があると感じる。

    ※本記事は2015年6月号の連載セミナーを転載した内容となります。

    朝倉真司●音楽家、ドラマー、パーカッショニスト 。1996年にLOVE CIRCUSのメンバーとしてデビュー。その後、ヨシンバ、パーカッショングループ ”Asoviva!”のメンバーとして活動しながら、森山直太朗、一青窈、くるり、秦基博、あいみょん、Superfly、ONE OK ROCK、岸谷香、いきものがかり、レキシなどのさまざまなアーティストのライヴ/レコーディングに参加している。
    2017年9月には森山直太朗劇場公演「あの城」(本多劇場・2018年3月映像作品化)、2019年7月には20th century(V6) TWENTIETH TRIANGLE TOUR「カノトイハナサガモノラ」
    (グローブ座、北九州劇場、梅田芸術劇場・2020年3月映像作品化)にそれぞれ役者としても出演している。
    玉田豊夢●1975年生まれ。20歳の頃からサポート活動をスタート。100s、C.C.KINGのメンバーとしても活躍。これまでに中村一義、小谷美紗子、斉藤和義、レキシ、いきものがかり、Superfly、フジファブリック、ポルノグラフィティ、宮本浩次など数多くのアーティストのライヴ/レコーディングに参加。13年には自身のシグネチャー・スネアを発表した(生産完了)。

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