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“ドラムの材”が丸わかり!スネア材質図鑑 -木材編- その2

  • Text:Kazuaki Yokoyama、Takuya Yamamoto、Rhythm & Drums Magazine

魅惑のルックス=Exotic Wood材

特徴的/めずらしい木材を
化粧板として利用する

80年代頃から、複雑な木目を持つものや、外国から買いつけられためずらしい木材を、ドラムの表面に貼りつけて使用することが増えてきました。いわゆる化粧板としての利用です。代表的なものを挙げると、古くはソナーのローズウッドやエボニー、TAMAのコルディア、近年ではYamahaのタモ(アッシュ)、 DWやラディックではエキゾチック(フィニッシュ)と銘打って、世界中から集められた数え切れないほど多くの樹種が採用されています。

  • DRUMMERS BASEのElite Series Purple Heart(ソリッド・パープルハート)。

化粧板と言うと、外観を整えたり、個性を持たせるための手段のようなイメージがありますが、実際にはサウンドに対しても大きな影響があり、各社で創意工夫されたドラムが作成されています。また、近年は資源の枯渇に対する対策として、新たな木材の研究や調査も活発になっており、パープルハートやココボロ、パドウク、オリーヴ・ウッドなど、化粧板にとどまらず単一の木材でシェルが作成されることも増えてきています。中でも、パープルハートに関しては、複数のメーカーで採用される兆候を見せており、今後さらに普及して、一般的な材として扱われる可能性もあります。しかしながら、ココボロのように、ドラム材としての高いポテンシャルが判明するとほぼ同時に、ワシントン条約により厳しく制限されることになってしまった材も存在しており、限りある資源の大切さを痛感する事態にもなっています。

British Drum Co. SUPER 7
最近ではBritish Drum Co.がパープルハートを贅沢に使用した13″×7″サイズのスネアを発売。

サウンド面に関してですが、コストや安定供給といった流通における課題などを無視した場合、硬質な材は発音の効率において有利であることは疑う余地がなく、柔らかな材も他の材と組み合わせることで、マホガニーのような柔らかく温かい音色を加えるといった働きをすることがあり、まさに無限の可能性を秘めた材と言えるでしょう。

音は価格じゃない!
ハイコスト・パフォーマンス材

“アコースティック”で威力を発揮しやすい材

メランティ(ラワン)はYamahaが初期から近年まで主にエントリー〜ミドル・クラスのモデルに長年使用してきた、東南アジアに分布する樹木。やや赤みがかった軽く柔らかい材で、幹が通直、大径で材質が均一、しかも大量に得られるため、日本の木材工業の原料として重用されてきました。高域の伸びはあまりなく、どちらかといえばドライで中域においしさがある印象。バーチなどと貼り合わせて使われることも多かったです。

ヤマハのYD20(バーチ+メランティ)。

バスウッドは主に北米に分布。色味は白っぽく、軽く柔らかく、入手しやすく加工しやすい材です。アルダーの代替材としてギターに使われてきたことで知られ、エントリー・クラスのドラムのシェルに使われることもあります。

グレッチのブラックホーク・シリーズMighty Mini Auxiliary Snare(バスウッド6プライ)。

アガティスは近年NEGIが使い始めて注目されるようになりました。産地は東南アジア〜オーストラリア、木目が緻密、赤みがかった軽く柔らかい材です。スプルースに似た傾向の柔らかくライトなトーンで、低域の膨らみに特徴があります。アコースティックなシチュエーションで威力を発揮しやすい材かもしれません。

NEGIのSoft Winter2012(アガティス5mm厚+スリット入りレインフォースメント5mm厚)。

ルックス?サウンド?“内面塗装”の謎

塗料の種類や硬さ、塗りの厚みなどでトーンは変化

アメリカン・ヴィンテージ・ドラムの謎の1つである、グレッチの“シークレット・シルバー・インテリア”に代表される、シルバーやグレーや白の何やら意味ありげなシェルの内面塗装。インナーへの塗装は湿度の影響をある程度抑えるという役割もあるが、塗り潰している点に関しては使用している木材がわからないように、または、木目があまり綺麗ではない部位を使用しても見栄えが良く仕上がるように、という目隠し説が有力(メーカーや時期によってはクリア・ラッカーのものもある)。ちょうど、段々と楽器の大量生産が始まる時期と重なるため、手間とコストを省き、効率良く、というのが真相であろう。

  • グレッチのシークレット・シルバー・インテリア。

70年代までは各社とも一部のモデルを除いてシェル材は特に公表しておらず、現代のように材の違いによるサウンドの違いを謳うことはほとんどなかった。そのため、この内面塗装がシェル材に関する謎を深める要因になっていたわけだが……。また、微々たる差ではあるが、その塗料の種類や硬さ、塗りの厚みなどによってトーンは変化する。例えば、特徴的なものとして70年代に流行したゾラコートがあるが、この塗料はアクリル樹脂であり、ラッカー塗装と比べると少しドライで硬め。本来、目隠しが目的ではあったものの、そのミステリアスさが今となっては一周回って現代のスペック至上主義に警鐘を鳴らしているような気もしてくる。シェル材特集でこんなことを書いてしまっては元も子もないのだが……。