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ピーター・アースキンが伝授する至極のブラシ・テクニック

  • Interview:Seiji Murata
  • Translation:Akira Sakamoto
  • Photo & Movie:Yukitaka Amemiya
  • Special Thanks:Blue Note Tokyo

ウェザー・リポート、ステップス・アヘッドなどの活動でその名を轟かせ、現在はボブ・ミンツァーを筆頭に数々のアーティストとの活動と並行して、後進の育成にも精力的な名手、ピーター・アースキン。彼はブラシ・マスターとしても有名で、近年も自身のプロジェクトであるThe Dr. Um Bandを筆頭に、さまざまな作品で味わい深いサウンドを披露している。ここでは2015年4月号で実現したアースキン流ブラシ・テクニックのレクチャーをテキスト化して転載! 新型コロナの感染再拡大予防のために、自宅にいる時間が増えた今、あらためてブラシ・テクニックに磨きをかけてみるのはいかがだろうか?

名手が語るブラシ・テクニックの奥義

多くの人達は(ブラシを使うときに)こんなふうに、何かをかき集めるというか、たくさんの子犬を抱き寄せるみたいな感じでブラシを動かすけれど(笑)、僕はブラシを平泳ぎみたいな感じで動かすんだ。スティーヴ・ガッドやエルヴィン(ジョーンズ)もこの方向でやっていたと思う。つまり、右手は時計回り、左手は反時計回りで、最も基本的なのはこうやって円を描くような動きになる。でも、これに合わせて踊ったりビートを感じたりすることはできない。ただのホワイト・ノイズみたいな音だからね。そこで、一番シンプルなのは、ブラシを1本ずつこうする方法になる……(叩く動作と擦る動作が)1つの動きになるようにするんだ。そして、より長いストロークは、ブラシをヘッドにつけたまま、回すようにする。回すときには、手首のスナップを利用することもある。よく冗談で言うのは、ブラシを使っているところに、ハエが飛んでくる。ジ~~~~~~ッってね。で、ここに止まったのを……パシッとやる(笑)。そんなわけで、ワン、ツー、スリー、フォー……ブラシがタップ・ダンスみたいな動きになっているところに注目してね。

リズムをプレイしても、ブラシはドラム・ヘッドにつけたままにする。ブラシは常にヘッドにつけたままにするんだ。その気になれば、基本的なルーディメンツで練習することもできる。練習するときに意識してもらいたいのは、スピードは重要ではなく、ヘッドの上でブラシをどう使うかが肝腎だということなんだ。ヘッドの上から下まで長いストロークをつなげていく。リズムは出さない。僕はこれを“ニンジャ奏法”って呼んでいるんだ。そして、そこにパルスを加える……叩くときのサウンドを揃えるようにして……動かす方向も変えてみる……横方向や……斜め方向……いろいろと方向を変えて……。これを曲に合わせてやりながら、自分のパターンを作っていく。リラックスしてブラシを持っているところにも注目してね。

(ブラシを引きずる感覚をつかむコツは何ですか?)……ブラシを持つ角度とヘッドに押しつける圧力に気をつけるんだ。個人的に、鞭を使うようにしてビートを出すのは好きじゃないけれど、そのやり方で素敵なブラシ・ビートを出している人もいるから、僕もそういった、よりトラディショナルなパターンができるようになればいいなと思っているんだ。ジェフ・ハミルトンやジョー・ラバーバラなんかのプレイを見るとすごいなと思うからね。僕の場合、ブラシのテクニックはどちらかと言えば自己流で、レコードで聴いた音を出すにはどうしたらいいか、試しながら身につけていったんだ。

ビッグ・バンドでツアーをしていた頃には、バラードをやるときにどうやってブラシの音を遠くまで響かせるかを研究したよ。スタン・ケントンのバンドはかなりの大編成だったけれど、パルスやアーティキュレーションを明確に出しながらも、優雅さを失わないように心がけたよ。ブラシというのは可憐にやるべきで、英語で言うところの“乱暴者”にならないように気をつけなきゃならない。表現力豊かに、より詩的に演奏するんだ。

ブラシとはいえ、それはスティックを使うときに重要なことと同じだよ。ドラマーというのは、リズムに関する情報をバンドに提供しなきゃならない。ただし、ブラシの問題は、ある種のテクスチャーを表現できても、人によってはリズムのパルスを表現できていないという点にある。だからブラシを使うにあたって重要なのは、第一にリズムに関する情報をバンドに提供すること。第二にブラシの利点を生かすこと。それはより優しいサウンドが出せて、テクスチャーの表現ができて、レガートでの演奏ができるということになる。長い音符が表現できるし、グリップの角度を変えることでサウンドに変化がつけられる。それにブラシをヘッドに当てた後でリバウンドさせない、いわゆるデッド・スティックを組み合わせることで、より太くて豊かなサウンドが出せるんだ。

あと、僕がブラシを使うときの秘訣は、自分で思っているほどブラシを速く動かす必要はないということかな。ブラシのコツを掴みたかったら、YouTubeでフレッド・アステアがタップダンスを踊るのをじっくり観察するといいよ(笑)。あくまでもエレガントに踊ることが肝心なんだ。

ピーター・アースキンの愛用ブラシ

ピーター・アースキンが愛用しているブラシはヴィックファースのHB