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    マックス・ローチ−Modern Jazz Drummingの開拓者−

    モダン・ジャズ・ドラミングのパイオニア的存在で、ジョン・ボーナムを筆頭にロック・ドラマーにも多大な影響を与えた巨人、マックス・ローチ。8月16日は彼の命日ということで、日本を代表するジャズ・ドラマーの大坂昌彦氏がその凄さを語った2017年11月号の記事を公開!

    スウィング・エラ〜ビバップ・エラと
    時代が変わる分岐点を作ったドラマー

    僕が初めて生で観たドラマーってエルヴィン・ジョーンズなんです。でも当時は小学生だったからハッキリ言って巧いのかヘタなのかわからなくて(笑)。それに対してマックス・ローチは……誤解を恐れずに言えば、“何てクリアな演奏なんだ”と子供心ながらに思いましたよ。簡単にいうと、難解なエルヴィンのドラムよりもローチの方が明瞭でわかりやすいドラムだったんですね。彼の生演奏は日本ではないですけど、バークリー音楽大学に行ってから向こう(アメリカ)で何度か観たこともあります。よく“ビフォー・エルヴィン、アフター・エルヴィン”という言い方をしますけど、マックス・ローチにも同じような表現があって。でも彼の場合は“マックス・ローチ”という言葉は使わず、“ビバップ前、ビバップ後”。スウィング・エラ〜ビバップ・エラと時代が変わる分岐点を作ったのがマックス・ローチと言われているんですよね。

    ローチの何がイノベイティヴで、のちに出てくるフュージョン・ドラマーにどう多大な影響をおよぼしたかというと、アプローチがメロディックだったところなんじゃないかと僕は思うんです。バップ前……スウィング期のドラマーは、シングル・ストロークのアプローチが中心で、ちょっとしたルーディメンツが入っても、スネア・ドラムから平行移動がほとんどのソロ構成で、ドラム・ソロになると、単純な“ドラム・ソロ・コーナー”というか、スタンダードな曲であっても、(ドラム・ソロになった)途端に曲と分離したものになっていたと思うんです。ところがマックス・ローチは、“音楽の中にドラム・ソロが入る”という、アプローチ/在り方を提示したというか。ローチは“モチーフ”があるロックに通ずるドラム・ソロも特徴的で、例えば、彼がそういうドラムだけを詰め込んだアルバム『Drums Unlimited』(邦題:限りなきドラム)に収録されている「For Big Sid」という曲があるのですが、これはスウィング時代の偉大なビッグ・バンド・ドラマー=シド・カトレットがよく叩いていたフレーズをベースにしていて。今でこそ、そういうアイディアも普通に思えるのかもしれないですけど、当時のドラマーにはそう言った発想自体がなく、「Sing, Sing, Sing」のようにバーッと叩いて、“どうだ!”と叩くのが当時のドラム・ソロだったのに対して、ローチが「For Big Sid」だったり、「Mr Hi-Hat」の“魅せ技”とも言えるトリック・プレイ的なドラム・ソロを楽曲に仕立て上げたんです。今は当たり前になっている、スネアのアプローチでのソロ……スナッピーをオフにして激しく叩いたり、効果的にリム・ショットを使ったり、そういうアプローチやテクニックは彼がやったことですからね。そんなふうに考えてみると、彼は現代音楽的な奏者なんですよね。というのも実は彼には現代音楽の素養もあって──ちなみに彼の娘さんは現代音楽奏者なんです──変拍子もいち早く取り入れてましたし。

    でも、当時のコンテンポラリーなアプローチを取り入れていた故に、世間的には“学者っぽい、真面目な人”っていうイメージがあって、僕もまさにそういう印象だったし、実際に生で観たときもそう思っていました。だけど、YouTubeにアップされている、ローチがジャズ・フェスティバルでドラム・ソロを叩いている動画を観ると、けっこうぶっ飛んでいて(笑)。お客さんに手を叩かせたり、笛を吹いてみたり、話し方とか、自分が思っていたより全然ファンキーでラフな人なんだなと思いました。やっぱりどんなに研ぎ澄ましたアプローチやプレイをしていても、黒人プレイヤーの根っこにあるファンキーさは絶対に溢れ出るものなんだと思います。

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