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    ドラム・セット誕生と発展の歴史【前編】

    • Text:Cozy Miura

    6. スタイルの多様化とサイズ仕様の変化

    1930年代中期頃から40年代にかけてのスウィング・ジャズの黄金時代を経て、ミュージシャン達が大編成によるビッグ・バンドでの制約された演奏よりも、少人数での演奏形態でより個人というものの自由な演奏を求めるようになった。その結果誕生したのが“ビ・バップ”と呼ばれるスタイルだ。

    “ビ・バップ”のドラミングを確立したのはケニー・クラーク(1914〜1985)だと言われているが、この1940年代末から50年代にかけての“モダン・ジャズ”の時代にはマックス・ローチ(1924〜2007)やアート・ブレイキー(1919〜1990)といったドラマー達が活躍し、技巧や芸術性を競い合った。

    ▲1954年のグレッチのカタログより。マックス・ローチはアート・ブレイキーとは対照的に知的なプレイでビ・バップ期をリードした。
    https://youtu.be/fQt2QMtDDiI
    ▲アート・ブレイキーがグレッチのキットで豪快なパフォーマンスを披露しているドラム・ソロ映像。

    この時代にはバンドが小編成(コンボ)で繊細なプレイを求められることもあったことからバス・ドラムは20″程度のやや小ぶりなものを用いられることが多くなり、シンバル類は20″や18″、ハイハットは14″程度の大きさのものが主流となった。

    7. ポップ/ロックンロールからロックの世代へ

    スウィング・ジャズは個人の演奏を主体としたビ・バップへと発展し、それはやがて芸術性を追求するミュージシャンと、あくまでも大衆路線を歩もうとするミュージシャンに分かれていった。

    芸術性を追求するミュージシャン達は50年代ハード・バップの時代を経て60年代のモード・ジャズフリー・ジャズへと突き進んでいくが、大衆路線を歩んだミュージシャンはジャンプ&ジャイヴの時代を経て50年代のR&Bへとつながっていく。

    この時代には楽器としてのドラムの変化や発展はあまり認められないが、バンド全員がイーヴンの8分音符を基本に演奏する8ビートロックン・ロール)が生まれたことと、フェンダー社がエレクトリック・ベースを発売したことにより新たなるスタイルが登場した。エレクトリック・ベースをいち早くバンドに取り入れたのはシカゴで活躍していたマディー・ウォーターズのバンドだったそうで、ブルース・ハープはマイクとアンプを通して音を増幅し、エレクトリック・ベースの使用によりバンドが大音量化していったのである。

    1957年にはレモ社がプラスティック・ヘッドを開発し、それまでのように天候や湿度などに左右されることなく安定したプレイが可能となり大きな革新をもたらすことになった。

    ポップスやロックンロールが主流だった1960年代中期頃までは、3点セットにシンバル類はハイハットの他にライド兼クラッシュのシンバルが1枚のみというドラマー達もいたが、時代が進むにつれて当時のポップ・ロックではめずらしかった2タムのキットを使用するドラマーも現れ始め、1960年代末頃にはアメリカ西海岸のセッション・ドラマー、ハル・ブレイン(1929〜)が使用したことで知られるようになったシングル・ヘッド・タムをフィーチャーした“モンスター・ドラム”も出現し、以降、ドラム・セットは大型化、多点化、多様化の道を歩むこととなる。

    ▲50年代にレモが開発したプラスティック・ヘッド=“WEATHER KING”。気候に左右されないプラスティック・フィルムのヘッドは、その後のドラムの世界を一変させることになった。
    ▲ドラムの世界に革新をもたらしたハル・ブレインの“モンスター・キット”。写真はNAMM Showで展示された本人のシングル・ヘッド・タム。