NOTES
3.
90年代は音楽界のメジャーとアンダー・グラウンドの垣根が徐々に取り外されていった時代とも言える。形骸化したロックに反発するような動きも活発化し、ヘヴィ・メタルではより過激なデス・メタルなどのジャンルが誕生。自由な表現によるオルタナティヴ・ロックやジャム・バンドが台頭し、さらに80年代に産声を上げたヒップホップも、ブレイクビーツの進化を背景にテクノ/ハウス、ジャングル、ドラムンベースなどのエレクトロニック・ミュージックへと発展、クラブ/ダンス・ミュージックに影響を与えるなど新たな多様化が急激に進んでいった。リンプ・ビズキット、311らを筆頭に、ラップとロックを融合させたミクスチャー・ロックも流行し、それらのバンドが使用した、オレンジ・カウンティ・ドラム・パーカッション(OCDP)の大きなベント・ホール(穴)つきのドラムも注目を浴びた。
エレドラの分野では電子パッドの普及と共にヤマハがDTX、ローランドがV-Drumsと、それぞれのメーカーが現在につながるシリーズを開発。自宅でアコースティック・ドラムに遜色なく練習ができるということで、アマチュア・ドラマーを中心に一気に普及。そしてエレクトロニック・ドラムはその後、さらに発展を遂げることとなる。
サウンド面ではエヴァンス社を中心に、ノーミュートのバス・ドラムでも音色をコントロールできるヘッドが開発されるなど、ドラムの“鳴り”を重視した設計にシフトした時代とも言える。そんな影響からか80年代には厚/深胴によるパワー指向だったのが、パールのクラシック・メイプル、TAMAのStarclassicシリーズの薄/浅胴など、“ダウン・サイジング”傾向が強まったことも注目すべき点である。
セッティング面では、オラシオ・エルナンデスらによるカウベルやウッド・ブロック、さらに左足クラーベに対応した機材の組み込みなど、パーカッションを取り入れたセッティングが一般的にも普及。また、ボンゴを組み込んだビリー・マーチンなども登場。ある意味、オーガニックなセッティングが進んだ時代でもある。そういったテクニックやテクノロジーを集約したスタイルで世界的に注目を浴びたのが神保 彰で、ドラム・トリガーを駆使し、メロディも演奏する”ワンマンオーケストラ“を実現するドラム・セットは時代の象徴と言えるだろう。
4.
2000年代になると楽器の開発がさらに進み、その選択肢はほぼ飽和状態の様相を呈してきたとも言える。そんな中で、90年代中頃から古き良き時代の楽器が再び注目を浴び、プロ、アマを問わずヴィンテージ人気が高まっていった。その温かみのあるトーンを研究し、現代の技術で再現するメーカーも登場し、いわゆる“ヴィンテージ・サウンド”は、現在では若いドラマーにも1つのスタイルとして定着したと言えるだろう。
音楽的な傾向としては、90年代に活性化したヒップホップ/エレクトロニック音楽のブレイクビーツを生のドラムでプレイするドラマーが出現。アダム・ダイチはジョン・スコフィールドとのセッションで、複数台のスネアを同時に使った驚くべき“人力ドラムンベース”を披露。またクリス・デイヴはヒップホップとジャズを融合させ、フロア・タムの代わりにスネアを置くなどユニークなセッティングで話題を集めた。その極めつけと言えるのがジョジョ・メイヤーで、マルチ・ハイハット、マルチ・スネアを駆使した変幻自在なプレイはドラムの可能性を広げたと言える。また自身が開発したソナー製のペダル=Perfect Balanceや、ライドとクラッシュを兼ね備えたセイビアンのOmniも話題を集めた。そういったクラブ・シーンの隆盛、さらにカフェやバーなど、コンパクトなスペースでのライヴ人気の高まりもあってか、小口径セットも数多く発表されたのも00年代の特徴で、カホンの爆発的なヒットもその流れの1つだ。
2010年代に突入し、ドラム・テクノロジーの進化に伴うセッティングのユニーク性を示すのが、エレクトロニック・ドラムとアコースティック・ドラムを合体させたハイブリッド・セットだろう。アコースティック・ドラムのタムをローランドV-Drumsに置き換えた山木秀夫や、スネア・ドラムを含めてタイコ類をすべてパールのe/MERGEで統一したLUNA SEAの真矢など、アイディア溢れるセットが話題を集めた。
シンバルではEFXやO-Zoneシリーズのような”穴空き”のエフェクト・シンバルの流行が特徴的で、2000年代以降のドラム界を席巻するゴスペル系ドラマーのドラムの多くにセットされている点も興味深い。表面に加工を施したドライ仕様のシンバルや、音量を意図的に抑え、自宅練習にも使えるシンバルなども登場している。
※本記事は2017年3月号の記事に加筆/修正を加えたものになります。
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