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【Product Review】NATAL Zenith Drum Kit〜ヴィンテージの美学に現代技術を融合させた最新モデル〜
- Text:Takuya Yamamoto
1965年に創業されたイギリスの老舗ブランド=NATAL(ナタール)。個性的なラインナップを誇るドラム・セット・シリーズに新たに加わったZenithは、ヴィンテージ・ドラムの美学とサウンドを継承し、現代技術による信頼性/耐久性をも兼ね備えたニュー・モデル。高いコスト・パフォーマンスも実現したこのZenithの真価をドラム博士=山本拓矢がレビュー!
Introduction 新たな個性を獲得したVintage & Modern
ヴィンテージのサウンドやスペック、ある程度楽器に触れてきた方であれば、特定のキーワードに対して浮かんでくるイメージがあることでしょう。しかし、この楽器はそういった楽器たちのリイシューや、レプリカの類ではありません。すでにオリジナルのヴィンテージ・ドラムをお持ちの方にも、新たに導入を検討している方にも、体感してもらいたい、新たな個性を獲得しています。
まず紹介の中で用いられている「レトロ・リバイバル」、「60年代のドラムへのオマージュ」、「オーセンティック・ヴィンテージ・サウンド」といった言葉について。それを最も象徴するポイントはシェルの構造でしょう。現代のドラムは、主に6枚から10枚程度までの合板で作られていますが、1970年代頃までは、より少ない枚数で形成されており、3枚から6枚程度までが主流でした。
●Spec
【シェル】3プライ(メイプル+アッシュ+メイプル)w/メイプル・レインフォースメント・リング
【サイズ】22″×16″BD、12″×8″TT、16″×16″FT
【付属品】チューニング・キー、メモリー・ロック
【カラー】Forge Black/Forge Blue/Forge Red/Pink Frost/Silver Frost
※写真のスタンド類、シンバル、スネア・ドラムは別売。
※Pink FrostとSilver Frostは受注生産となります。
このZenithは3枚重ね……3plyであり、ベース・ドラム・スパーの機構や取りつけ位置、フィニッシュのバリエーション、レイン・フォースメントの採用などからも、参照元となったであろう特定の楽器が思い浮かびます。しかし「過去からインスピレーションを受けて、現在のために作られた」、「レトロな外観、現代的な耐久性」とも謳っているように、アッシュ材をセンターに据えた独自のシェル・レシピや、60年代というよりは90年代にルーツを感じるラグ、伝統的なオイスター・パターンを彷彿とさせる、ウーツ鋼の断面のような鍛流線/メタル・フローをモチーフとしたカバリング、機能的で洗練されたデザインのバッジなど、新たな設計が盛り込まれています。スペックとサウンドに齟齬はありませんが、イメージと印象には、乖離が生じるかもしれません。詳しくみていきましょう。
Review ブランドの歴史に名前を残す可能性を秘めたドラム
方向性としては、音量が豊かで、チューニング・レンジが広く、3ply系らしさが感じられる、ヴィンテージ・サウンドです。低質量チューブ・ラグと言えど、コンパクトなセパレート・ラグに比べると重量はあり、広めの幅が確保されたレインフォースメントと、その近くにネジ留めされた台座の影響もあって、ヘッドのテンションをしっかりと受け止めて、ロスなく振動させられるだけの質量と剛性が確保されています。
エッジは頂点がはっきりした現代的な形状で、ヘッドの振幅への干渉が少なくなっており、剛性に由来して、テンションボルトを回した時の応答性も素直なことから、ローピッチからハイピッチまで、無理のない音作りが可能です。ヘッドはEVANSブランドの品ですが、安価なアジア・メイドのタイプなので、USA製のスタンダードなものに張り替えることで、より多くの倍音を引き出せると思われます。
エッジ付近はタム類で8.4mm、ベース・ドラムで10.8mmと、それなりの厚みがありつつ、大部分を占める中央の薄いエリアは6mmの薄さなので、線の太めなハッキリとしたアタックと、ふっくらとした柔らかなレゾナンスが共存しています。しっかり鳴らしつつキレの良いリリースを実現するレッグのクッション構造、ペダルの選択を正確に反映させるスパー、別売りではありますが、位置決めのしやすいメタルボール・クランプなど、一切の妥協が感じられない設計です。
使いたくなるシーンが想像しやすいキャラクターで、想定される競合機種とのコスト差を鑑みると、ブランドの歴史に名前を残す1台になるかもしれません。
●製品ページ→HP
●問い合わせ→ヤマハミュージックジャパンお客様コミュニケーションセンターギター・ドラムご相談窓口(0570-056-808)