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初心者のためのイヤモニ入門! feat. 響[摩天楼オペラ]

  • 試奏/レビュー/映像制作:響[摩天楼オペラ] 撮影:八島 崇 製品解説:竹内伸一

Chapter 2 そもそもイヤモニってどういうもの?

“モニター”を知ることで見えてくる
“イヤモニ”の利点と可能性

今や当たり前の存在になったイヤモニ。その役割や利点をあらためて説明したドラマガ本誌2018年2月号の掲載コラム「今さら聞けないイヤモニのこと+ドラマーのための“SAFE LISTENING”を考える」と共に、“そもそもイヤモニってどういうもの?”という基本に立ち返り、理解を深めていこう。

Ⅰ 今さら聞けないイヤモニのこと

文:西本 勲

■“モニター”って何だろう?

PAのあるライヴで演奏したことがある人なら、モニターがいかに大切かは自明のことと思います。しかし、そうした経験のない人にとっては、そもそもモニターとはどういうもので、なぜ必要なのか、いまひとつイメージできないのではないでしょうか。そこで、まずモニターとは何かを説明します。

スタジオでバンド練習している様子を思い浮かべてください。編成はドラム、ギター、ベース、ヴォーカルです。ドラムは叩けば目の前で生音が鳴ります。ギターとベースはそれぞれアンプ(キャビネット)から音が出ます。ヴォーカルはマイクに向かって歌い、スタジオにあるPAシステムを通ってスピーカーから音が出ます。このスピーカーは部屋のどの位置でも聴こえるように設置され、メンバー全員がお互いの音を聴きながら普通に演奏することができます。【図1】

▲PAスピーカーやギター・アンプ、ベース・アンプは壁に沿って部屋の真ん中に向けられている。ドラムの生音も含め、メンバー全員が特に違和感なくお互いの音を聴いて演奏できる。

一方、ライヴではステージと客席があり、PAスピーカーは観客の方を向いています。ギターやベースのアンプも観客に向けて置かれ、ごく小規模なライヴ以外はマイクがセットされます。ドラムにもマイクが立てられ、ヴォーカルも含めた各パートの音がPAミキサーでミックスされ、スピーカーから出力されます。この音は、観客にとってバランス良く聴こえるように調整されています。

このような状況でミュージシャン側に聴こえてくる音は、スタジオ練習のときとは大きく異なるバランスで、それを聴きながらプレイするのはかなり難しくなります。そこで必要になるのが、演奏者に向けて置かれるモニター・スピーカーです。【図2】

PAスピーカーの音が観客用に調整されているのに対し、モニター・スピーカーからはミュージシャンがプレイしやすいように調整された音が鳴らされます。

▲PAスピーカーやギター・アンプ、ベース・アンプは観客側に向いているため、自分達が聴く(=モニターする)ためのスピーカーが別に必要となる。その役目を果たすのがウェッジ・スピーカーやサイド・フィルで、イヤモニはこれらに代わって活用される。

モニター・スピーカーには、それぞれの演奏者の足下に置かれるウェッジ・スピーカー(通称“転がし”)と、ステージの両脇に置かれるサイド・フィルがあり、前者は各プレイヤーの好みに合わせて調整された音を、後者はある程度大きなステージで全体の音をバランス良く聴くために使われます。これらの音はPAミキサーから送られる場合と、モニター専用のミキサーが別に用意される場合の2通りがあります。

モニターからどういう音が返ってくるかによって、演奏のクオリティが大きく左右されることは容易に想像がつくでしょう。ドラマーは自分のすぐそばで生音が鳴っているため、モニター音ではドラムのバランスを下げたり、まったく返さないという人もいます。

■イヤフォンでモニター=“イヤモニ”

このモニターを、スピーカーではなくイヤフォンを使って行うのが、今回の企画で取り上げているイヤモニという手法です。“イヤモニを耳につけて演奏する”とか“新しいイヤモニを買った”などのように、イヤフォン自体をイヤモニと呼んだりもします。テレビという言葉がテレビ放送そのものを指していたり、機器としてのテレビを指していたりするのと同じです。

スピーカーでモニターする場合、それぞれの演奏者がよく聴こえるように音量を上げると周りにも影響を与え、客席に聴こえる音のバランスも変わってしまいます。また、マイクで拾った音がスピーカーから出て、それを再びマイクが拾ってしまうことによるハウリングという現象も起こりやすくなります。さらに、ヴォーカリストやプレイヤーがステージ上を動き回る場合、スピーカーから離れると正確な音でのモニターができなくなります。

しかしイヤフォンを使えば、そういった問題をすべて解消できます。イヤフォンには耳栓のように周りの音を抑える効果もあるため、そもそもモニターの音量を必要以上に上げなくてもよくなります。それ以外にも、ステージ上の機材をシンプルにできる、会場の規模や環境に関係なく安定したモニター音が得られるなど、イヤモニの利点はいくつもあります。

こうした手法は、歴史と共にコンサートの規模が拡大してPAの音量が大きくなり、音楽シーンの多様化に合わせてライヴで扱うサウンドが複雑になっていく中で、システムとして少しずつ完成されてきました。

シーケンスに合わせた演奏でクリックを聴く用途にも、イヤモニは合致します。そして、ユーザーの耳型に合わせて作られるカスタムIEM(イン・イヤー・モニター)の登場も、イヤモニの普及を大きく後押ししました。今ではごく当たり前のように、耳にイヤフォンをつけて歌ったり演奏したりするミュージシャンの姿を見ることができます。

▲いわゆるイヤモニが登場する前から、ヘッドフォンやイヤフォンをステージ・モニターとして使うケースは存在していた。そこへ、ユーザーの耳型に合わせて作られ、遮音性に優れたカスタムIEMが登場したことで、イヤモニの利点が最大限に生かされるようになり、大きな普及につながった。写真はFitEarのカスタムIEM、MH335DW。

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