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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯27〜CANOPUS MO Snare Drum〜

  • Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

第27回CANOPUS MO Snare Drum(oil finished MO-1455/MO-1465)

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、CANOPUSのロング・セラー・スネア=MO Snare Drumをピックアップ!

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 中古や新品で新入荷が重なったのか、CANOPUSのロング・セラー・スネア・ドラムが目に止まったので、今回は周辺の楽器を交えつつ紹介してみます。

今月の逸品 【CANOPUS MO Snare Drum】

CANOPUS MO Snare Drum(oil finished MO-1455/MO-1465)

CANOPUSと言えば、ブランドの哲学を体現するR.F.M.や、メイプル・スネア・ドラムのスタンダードとしての、The Maple Snare Drumなど、より著名な中核を成すモデルが存在します。また、近年は、YAIBA IIのような、コスト・パフォーマンスを強く意識した製品にも注力しており、このモデルが注目されるきっかけが少なくなっているようにも感じていました。

個人的なお気に入りモデルとしては、Zelkovaや、廃番となってしまったAlphonse Mouzon Signatureなどがありますが、このMOは、学生時代から好きな楽器の1つです。

スペックとしての厚みは明言されていませんが、説明文の中で”厚手のメイプル・シェル”と言及されていたり、10プライ・メイプルと記載されていることから、8プライ・メイプル5mmのThe Maple Snare Drumに比べて、やや厚めの仕上がりとなっているはずで、実物のシェル断面にもその厚みが感じられます。なお、プライ数はあくまで使用されている板の枚数、合板としての構成を示すものであり、厚い6プライもあれば、それより薄い9プライの楽器も存在します。厚みそのものを示すとは限らない点に注意してください。

サウンドのキャラクターに関係する各要素を見ていきましょう。まずはシリーズ名にもなっている、シェル材とフィニッシュです。Oil Finished Mapleということで、メイプルで作られたシェルに対して、オイル・フィニッシュが施されています。メイプルは、明るくヌケの良いサウンドとされることが多い材で、その明るさは、豊富な高域の倍音成分によるものと言えるでしょう。

ヌケの良さは少々複雑です。素材の硬質さによるシンプルな音量の大きさ/音圧の高さによるものや、倍音の豊富さによって、複数の楽器から発せられて重なった音の隙間を縫って、飛び出してくる成分の量が確保されることにも由来してきます。

倍音の作用は、まったく正反対の傾向にあるにも関わらず、聴こえた印象を言葉にした場合に、同じような表現に収斂する場合があります。例えば、ハードにミュートを施して、倍音をカットした状態の音色は、他の楽器と混ざりにくく、分離が良いため、倍音が少ない原音を増幅すると、はっきりとした存在感のあるサウンドになり得ます。音色の言語化は、ポイントが明確になる作用により、実態を捉える助けになり得ますが、キーワードが先行すると、言葉が示す意味を履き違えるおそれがあります。実際の音を確認しながら、整理することが大切です。

オイル・フィニッシュは、薄い塗膜が特徴です。油分により、シェルのピッチは低い方向に、振動の時間は短い方向へと進む場合もありますが、厚いラップや、硬い塗装と比べた場合、味つけの少ない、自然な方向に仕上がることが多いようです。塗装と比べて、工程が少ないので、メイプルのように高価ながら歩留まりが良い材を用いる場合、コストの削減に大きく貢献してくれる仕上げです。

1点留めのブラス・チューブ・ラグも、注目すべきポイントです。ガスケットを介さず、シェルの中央に取りつけられており、特にエッジ付近の振動を妨げにくいため、ラグとシェルに由来する高域の出方が素直な方向に作用します。このような構造でシェルの剛性が不足する場合、一定のテンションを超えると、シェルの振動がチョークされる傾向も出てきますが、MOは厚めで硬い材のシェルであり、チューニング・レンジは広く確保されています。また、キャスト・タイプのラグと異なり、体積あたりの質量が大きいため、サウンドの芯を引き締める効果もあります。このラグの質量による傾向は、亜鉛製のダイカスト・フープともマッチしており、異素材の組み合わせによる倍音成分の多彩さも、個性を生み出す源泉になっています。

レザーを用いた独自構造のテンション・ボルト・ワッシャー、ボルト・タイトの影響も考慮する必要があります。このパーツはフープを中心とした高域の成分を大きくカットする作用があるため、ファットでマイルドな、太い音像に変化します。高域のコントロールは、マイク乗りの観点で重要なポイントで、各社がさまざまな取り組みを行ったり行わなかったりしています。どの部位からどのような成分を引き出して、最終的な音として組み立てるか、という設計の観点で、チューニングの緩みという課題も含めて対応したモデル・ケースの1つと言えるでしょう。

シンプルな外観で、扱いづらい癖もなく、汎用性が高いので、実用品として幅広くお勧めできますし、さまざまな工夫が凝らされているため、各要素がどのように影響し合うかを体感するにも、良い教材になります。流通も安定しているので、ぜひチェックしてみてください。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

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