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木暮栄一[the band apart]が実演を交えて『HIKAWADAI NIKKI』を全曲解説|“Must-listen Songs Special”レポート
- Text:Isao Nishimoto/Photo:Tetsuro Sato
the band apartの木暮栄一が、ドラマガWebで連載している有料会員向けコラム『Must-listen Songs』。そのスペシャル版となるリアル・イベントが9月12日に御茶ノ水RITTOR BASEで開催された。8月にリリースされたthe band apartの最新作『HIKAWADAI NIKKI』を1曲ずつ聴きながら、制作の背景やドラムのアプローチなどを解説するという内容で、ポイントとなる箇所では木暮自身のドラム・セットを使った実演も披露。終始和やかな雰囲気で進行した当日の様子をレポートしよう。

“連載最終回”から生まれた
『HIKAWADAI NIKKI』全曲解説

木暮がドラマー/コンポーザー視点で“私的”ヒット・チューンを紹介する連載『Must-listen Songs』。そこで取り上げてきた楽曲が開場BGMとして流れる中、あっという間に完売したチケットを手に入れた熱心なファンが開演を待つ。
やがて拍手で迎えられて木暮が登場すると、まずはイベント開催の経緯に関する話からスタート。そもそもは今年4月で連載に区切りを打とうということになり、しかしアルバム制作とライヴで多忙を極める日々が過ぎ、最終回の原稿に手をつけられないままアルバムが完成。それなら最終回ではなく、アルバムを題材にしたイベントを、というドラマガWebの提案から実現の運びとなったそうだ。そんな話が、『HIKAWADAI NIKKI』の内容に繋がっていく。
「アルバム制作の終盤はかなり疲れていて、“連載をフェードアウトしたい”というメールを送ったり、ちょっと後ろ向きな時期がありました。M1の「Intro(Hikawadai Line)」は、そんな疲れた自分を癒すための、完全に俺の趣味の世界です」
the band apartの作品では、作詞/作曲/アレンジはバンド名義になっているが、実際は各メンバーが元ネタを提供し、全員で発展させていく。イベントでは1曲ごとに本来のクレジットが明かされ、「完全に俺の趣味」という「Intro(Hikawadai Line)」はすべて木暮が担当したと説明。
「俺の場合は結構デモを作り込むんですけど、制作が押し詰まってくるとデモを聴かずにうろ覚えでスタジオに来るメンバーもいて(笑)、レコーディング当日にプリプロみたいなことをやっている……メジャーのクリエイションではありえない進め方です。「氷川台DAYZ」はまさにそうでした」
そんなM2「氷川台DAYZ」(作詞/作曲は木暮、アレンジはバンド全員)では、楽曲が流れ始めると木暮がドラム・セットに移動し、1コーラス丸々CDに合わせて演奏。ライヴとは違う距離感で木暮の生のプレイを浴びる観客が、思わず身体を揺らす。このように、曲を聴きながらドラムを叩く場面は他の曲でも多く見られた。
会場に持ち込まれたドラム・セットは、木暮が長く愛用しているDWのコレクターズ・シリーズ(メイプル)。ハイハット側に細かくレイアウトされたエフェクト・シンバルやタンバリンも駆使して、捻りの効いたリズム・パターンを飄々とプレイする姿を間近で見ると、解説の説得力がさらに増す。
「みんな勝手なことをやっている」
楽曲を形作る木暮流リズム・メイク

原 昌和(b)が作詞/作曲を手がけ、原と木暮がアレンジしたというM3「約束は緑色」では、the band apartのアンサンブルの本質を突くような、こんな説明があった。
「これは本当に原独特の感覚だと思うんですけど、ドラムに注目して聴いた後に、リード・ギターを聴いて、リズム・ギターを聴いて、ベースを聴くと、みんな本当に勝手なことを勝手なタイミングでやっているように聴こえる。でもなぜか楽曲としてはすごく一枚岩になっていて、これを成立させるのは本当に難しいんですけど、そこに注目して聴いてみてください」
ここで木暮が「このスピーカー良いですね」と感嘆していた再生システムも、イベントを支えた影の主役と言っていいだろう。RITTOR BASEが誇る高解像度のサウンドが、発売されたばかりのアルバムへの没入度をより高めたのは間違いない。
作詞/作曲/アレンジを木暮が手がけたM4「やぶ忠/YABU-CHU」のタイトルは、彼が以前よく通っていた蕎麦屋さんの名前。今は閉店してしまったその店の跡地に、イベントの進行を務めた編集部が“聖地巡礼”し、撮ってきた写真を木暮に見せる。「これ聞いてなかった(笑)。やばくないですか?」。そんな盛り上がりからの楽曲解説では、リズム・パターンを打ち込みで考える利点が語られた。
「俺の曲はそういうのが多いんですけど、打ち込みで考えると自分ができる/できないを無視して作るので、いざやってみると苦手なフレーズを練習して克服するという、そんな新しいことができるのがいいですね。この曲では、ドラムをやっている人からするとちょっと変なタイミングにキックが入っているんですけど、普通に聴くと別に変な感じはしない。これは打ち込みのダンス・ミュージックからの影響がすごく大きいと思います」
ドラムのフィルインは古いディスコやソウルを参考にしたというM5「昼下がりのボヤージュ」の解説では、「アース・ウインド&ファイアーとかビル・ウィザースとかを聴いていると、ドラムの人が余計なことを全然しないんですね」とコメント。
「この曲で一番出てくるフィルは、EW&Fの「セプテンバー」でもよく出てくるやつ。今まではこういうシンプルなフィルってあまり得意じゃなかったので、良い経験になりました」
4本のマイク+iPhone、2組のハイハット
『HIKAWADAI NIKKI』を支えるアイディア

アルバム後半の解説も同じペースで続き、2024年にドラム・マガジンが行った誌上ドラム・コンテストの課題曲として木暮が提供した「Your Town To Everywhere」のコード進行を“魔改造”したというM6「中毒」は「ドラムのレコーディングは最少のマイク4本にiPhoneで拾った音を混ぜています」。原のアイディアだというサンバ・キックとタムを重ねたパターンを叩いてみせたM7「妄人街」は、「立ち上がりと切れ味がすごく良いのでコンプ要らずです」とemjmodのハイハットを愛用している木暮が、この曲のハイハットだけは「オープンの連打を抑えめにするためにKジルジャンを使いました」と説明。

川崎亘一(g)の作曲による予想外の展開が特徴的なM8「かなしい」に関しては「途中の“フッフ”というハミングが、ドラムを叩きながらだと難しくて、今一生懸命練習しているところ」。ドラムで始まりドラムで終わるM9「Tuesday Night」の解説では、右足の不調から使い始めた2組のハイハットが「今ではフレーズの新しい引き出しを増やしてくれてもいます」。
あっという間に時間が進み、解説はアルバムのラストを飾るM10「Footsteps in the Snow」。この曲は2025年の『Festival e.p.』収録曲をバンド・アレンジしたもので、「もともと前傾(前のめり)だったリズムが曲調と合っていない気がしたので、スネアの位置が少し重く感じるところまで持っていくのに時間がかかりました」と木暮は語る。こうしたエピソードは一見ドラマー向けの細かい話のようでも、木暮のわかりやすい解説と実演のおかげで、ドラムを演奏しないリスナーにもしっかり伝わったのではないだろうか。
なお、今回のイベントは各曲に関して木暮が事前にメモ的なテキストを用意し、そこから抜粋したものをスクリーンに投影しながら進められた。その全文は、連載『Must-listen Songs』特別編として公開中だ(有料会員限定)。また「Must-listen Songs」は、“連載コラム”としてはこれが最終回となるが、今後イベントへと形を変えて不定期で開催される予定だという(編注:第二弾の構想について木暮さんと相談中)。こうした演奏つきのトーク・イベントが、今後いろいろなドラマーで実現することを期待したい。
the band apart|New Album『HIKAWADAI NIKKI』

『HIKAWADAI NIKKI』the band apart
asian gothic label/ASG-065
2026年8月26日発売
◉収録曲
01. Intro (Hikawadai Line)
02. 氷川台DAYZ
03. 約束は緑色
04. やぶ忠 / YABU-CHU
05. 昼下がりのボヤージュ
06. 中毒
07. 妄人街
08. かなしい
09. Tuesday Night
10. Footsteps in the snow
↓アルバム/ツアーの詳細はこちら↓
https://asiangothic.net/news/2026/07/07/2886