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    礒本雄太[Laura day romance]が語る、多彩なプレイ・スタイルへの挑戦と“好奇心”【Interview】

    • Interview & Text:Shinichi Takeuchi Photo:Ayumu Kosugi(live)、Tetsuro Sato(gear)

    あくまでも楽曲のため、
    観に来てくれる人のために演奏しているけど
    自分が苦しい思いをすることもある
    ただ、“楽しい”とか“気持ち良い”だけでは
    伝わるものってあまりない気もするんです

    2017年結成の3ピース・バンド=Laura day romanceが、2月に発表された『合歓る – walls』の後編にあたるニュー・アルバム『合歓る – bridges』を12月24日にリリース。打ち込みとアコースティック・ドラムを融合させたような、不思議な温かみを伴うビートでノスタルジックな楽曲を支えるドラマー=礒本雄太がドラマガWEBに初登場。学生時代から、多彩なジャンルを習得してきたという礒本が語る、“リズム”という役割のみに捉われない独自のドラム観とは?

    楽器は舞台装置
    リズムである必要もない

    礒本 2年くらいですね。もともと“Black Oyster”がすごく好きで。ラディックを象徴するカラーだと思うんですよ。それでずっと憧れがあったんです。あるとき、楽器店に行ったら、奥の方にちらっと見えて(笑)。「あれは何ですか?」って聞いて、引っ張り出してもらって、気づいたら買っていました。一目惚れです(笑)。バスドラは20″なんですけど、当時、22″だとちょっと使いづらい感じがあって。バンドの音楽性に合わないなと。

    ▲礒本の愛用ドラム・セットは、“ブラック・オイスター”のカバリングが印象的な60年代ラディックのDown Beat(20″BD+12″TT+14″FT)に、16″FTを加えた2フロア・セッティング。
    詳細は後日公開!

    礒本 そうですね。今の自分にとっては、すごく魅力的な音だと思っています。

    礒本 メインの411(70s Ludwig Super Sensitive)はきちんとバランスのとれた音作りをしていて、どの楽曲にもしっかりマッチするようにチューニングしています。サイドのLS908(JAZZ FEST Snare Drum)はしっかりミュートして、飛び道具的というか、パッド的に使っていますね。

    礒本 必要になると迫られて(笑)。今回のアルバムをライヴで再現するにはどうしても必要なんですよ。

    礒本 ライドの位置によって自分のプレイ・スタイルが変わるんです。身体の開き具合いで、同じフレーズでも音が変わる……気持ちの問題っていう気もするんですけど。通常のライドの位置からちょっとずらして、身体が開いて演奏できるようにしています。その方が、マインドがオープンになって、ダイナミクスがより出せる気がして。

    ハイハット側のライドは身体を絞るようにして叩くので、よりタイトになる気がしますね。ミドル・テンポからスローな曲で、金物で重厚感を足したいなっていうときに使っています。

    タイトに演奏すべきところと、ルーズに演奏すべきところが共存するバンドなんですよね。英語も日本語も話せる人って、英語で話すときと日本語で話すときでは性格が変わるなんて言われますけど、そんな感覚ですかね。

    礒本 「プラトニック|platonic」や「肌と雨|skin and rain」は、自分のセットだったと思います。あとは、ドラムテックで北村優一さんがついてくださって……この人だったら何をされてもいいと思えるくらい尊敬している方なんです。北村さんが用意してくれたヴィンテージの機材なども組み合わせて録りました。

    礒本 北村さんと僕らの楽曲制作から携わってくれているディレクターの方が、どういう音像がいいのかを話し合って、実際に北村さんが音を作ってみて、そこに僕の演奏方法が加わる……ヘッドの中心を叩いた方がいいのか、中心を外して叩くのか、リムはかけるのか、かけないのか、熱量はどのくらいがいいのか。そんなことを加味しながら音を決めていきます。

    録り自体はあまり時間がかからないんですよ。多くても3~4テイクくらい。でも音作りには数時間かかりますね。

    ▲New ALBUM『合歓る – bridges [橋盤]』
    ポニーキャニオン
    PCCA-06451 

    礒本 打ち込みにしか出せない非人間的な部分は打ち込みなんですけど、逆に無茶なフレーズでもちゃんと手触りがあった方が良いってことになったら、何としてでも生で叩きます。

    今回もロールのようなフレーズが出てくるんですけど、DTMで曲を作ってくるので、デモには電子音みたいなのが入っていたんですよ。でも、絶対に生の方がいいということで、無理やり自分で叩きました(笑)。

    礒本 打ち込みよりも生でやった方が、楽曲を近くに感じてもらえるというか、温もりが感じられるというか、そういう話になって、“これ、どうしよう”と思いながら叩きました。

    礒本 コンポーザーの鈴木 迅です。「『このフレーズはできない』って言ってはいるけど、でもほぼほぼできるよね」というようなことを言われました(笑)。ドラムンベースなんてやったことがなかったので、「まずは練習します」って(笑)。そんなふうに自分の文脈にないフレーズが、『bridges』には多かったですね。

    あと、レコーディング当日にフレーズが変わることもあって。1発増やしてみたり、減らしてみたり、思い切ってガラッと変えてみたり。今回も試行錯誤しながらやりました。「肌と雨|skin and rain」に関しては僕に丸投げでしたけど。ジャズっぽいフレーズが出てくるんですけど、僕は、ジャズは好きで聴いているだけで、プレイしたことがまったくなくて。この曲を録る1ヵ月前からジャズ以外を聴かずに過ごしました(笑)。

    ジャズだとソリストがいて、それに対してドラムもアプローチしていきますよね。ローラズ(Laura day romanceの略称)の場合だと、ヴォーカルがソリスト的な立ち位置だと思うので、じゃあ、歌を際立たせるためには、どこに音を置くべきかを考えました。ただ、これって決め込んでしまうと、曲のスケール感が落ちてしまうので、当日のテンションで演奏しようと思って、何も決めずにスタジオに入ったんですよ。押さえるべきところだけはイメージしていましたけど。

    ▲Laura day romance(L→R)
    礒本雄太(d)、井上花月(vo)、鈴木 迅(g)

    自分の外から持ってきた感覚というか、自分の手の届く範囲ではないところにある演奏だったので面白かったですね。以前はガチガチにフレーズが決まっていることもあったんですけど、最近はこんなふうに自由度が高くなりました。

    礒本 だいぶ慣れました(笑)。自分の中では、ドラムがリズムを刻む楽器という考え方は、崩れてしまっている感じなんですよね。よく言うんですけど、楽器は舞台装置だと思っていて、舞台装置なんだから、リズムである必要もない。ヴォーカルが物語を演じている人だとするならば、楽器はそれを照らす照明であり、場面を切り替えるカメラである。そんなふうに捉えています。

    自分の守備範囲ではないものばかり
    そこが面白いんです

    礒本 ドラムを始めたのは中学1年なんですけど、吹奏楽部が全国大会に出るような学校だったんですよ。それで一度吹奏楽部を見学してみようと思って向かっている途中で、軽音楽部の先輩にさらわれました(笑)。初めてドラムやギター、ベースを見て、聴いて、こっちの方が楽しそうだなって思ったんですよね。中学に入るまでは音楽をまったく知らなかったので、直感なんですけど。

    だから用語もわからなくて、パートを決めるときに「ヴォーカルやります」って言ったんです。家に帰ったら母親に「ヴォーカルって歌だけど大丈夫なの?」って言われて。ヴォーカルを知らなかったんです(笑)。翌日「歌はちょっと恥ずかしい」って駄々をこねて、無理やりドラムにしてもらいました(笑)。

    礒本 楽器というよりは、演奏していた先輩ですね。すごくカッコ良かったんです。そんなきっかけで何もわからずに始めましたけど、やっているうちに奥深さに魅せられたというか、身体の感覚みたいなところがすごく大事だったり……もともと運動が好きなので、身体の変化とかを見つけるのが好きなんですよ。野球選手のピッチング・フォームとかバッティング・フォームを解析するのが好きで(笑)。

    “こうやって身体を動かすと、思っている以上のパワーが出るんだな”っていう力学的なところにも興味があったんだと思います。今思えばですけど。

    礒本 難しいですね。1人挙げるとすればジェフ・ポーカロ。プレイももちろんですし、ドラマーとしての在り方というのかな、それも影響を受けました。僕はあまり目立ちたがり屋ではないと思っているので、バックに徹してストイックに演奏することで、楽曲が200点にも300点にもなるっていうのが理想なんです。ドラムはそれができる楽器でもあると思うし。

    礒本 それまではロックをやっていたんですけど、大学生になって、いい機会だからまったく知らないジャンルをやってみようと思って。ジャズやルーツ・ミュージック、フュージョンとかいろいろなサークルに顔を出して、一番カッコいいなと思ったのがブラック・ミュージックだったんです。ただ、中南米系のレゲエやカリプソをやっているサークルや、フュージョンをやっているところにも所属していました。

    礒本 ストイックにそう考えていたわけではなくて、単純にいろいろなことに興味があっただけだとは思うんですけど、結果、今のプレイ・スタイルに全部つながっているとは思いますね。

     このバンドの楽曲って、自分の守備範囲ではないものばかりなんですけど、そこが面白いんです。例えば、90年代のUKインディーの雰囲気って、僕の文脈にはないものなので、そういう曲を自分が演奏したらどうなるんだろうって好奇心を刺激されるからこそ、ずっとやっているんだと思います。

    知らないことが自分の前に現れて、それを少しずつ自分の人生に加えていく……少し大げさかもしれないですけど、そういう感覚でやっていますね。とはいえ、自分の文脈にないドラムを演奏するのは大変です。けっこう辛いなと思うこともあるんですよ(笑)。でも、これができるようになったら違う世界が見えるかもって思うんです。

    あくまでも楽曲のため、見に来てくれる人のために演奏しているんですけど、そのためには自分が苦しい思いをすることもある。ただ、“楽しい”とか“気持ち良い”だけでは、伝わるものってあまりない気もするんです。苦しみながらも、何とかものにして演奏しているからこそ伝わるというか。

    聴いている人が、自分がそうやって変化していることに気づいてくれたらいいなと思って演奏しています。自分の変化をドラムで伝えられたらいいですね。

    ◎Release Information

    『合歓る – walls or bridges[二部作完全盤]』
    3CD+Blu-ray Disc+ブックレット
    PCCA-06449
    合歓る – walls[壁盤]』
    PCCA-06449
    合歓る – bridges[橋盤]』
    PCCA-06449