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山口智史[RADWIMPS]✖️藤井進也 [慶應義塾大学 環境情報学部 准教授]
- 撮影:八島 崇
- 取材:リズム&ドラム・マガジン/編集:竹内伸一
ドラマーと研究者が“ミュージシャンズ・ジストニア”について語り合う!
[Alexandros]を勇退した庄村聡泰を筆頭に、ここ数年症状を公表するドラマーが増えている“ミュージシャンズ・ジストニア”。現在演奏活動を休止しているRADWIMPSのドラマー、山口智史もその症状を抱える1人で、現在彼は脳科学/身体科学の視点からドラムを研究する慶應義塾大学 環境情報学部 准教授、藤井進也先生と共に、その研究を行っている。ミュージシャンズ・ジストニアの原因究明に向け、ドラマーへのアンケートを実施することになったこのタイミングで、この“ミュージシャンズ・ジストニア”について語り合う特別対談を行った(アンケートは22年6月末をもって終了いたしました)。
自分の音楽人生を奪われてしまうような
ものすごい絶望感がありました(山口)
●まずは山口さんと藤井先生の出会いから教えていただけますか?
山口 2020年の11月に、共通の知人を介してお会いする機会があったんです。僕は2009年に右足にミュージシャンズ・ジストニア(以下MD)を発症して、その後6年間は症状とつき合いながら活動を続けていたんですが、最後は続けられないほど悪化して、ドラムから離れざるを得なくなってしまって。その後、数多くのミュージシャンが同じ病気を発症しているというニュースを見て、僕も本当にもどかしい気持ちになりました。
直接相談にきてくれる方もいて、何か自分にできることはないだろうかと思っていたんです。この症状の真実を解明したり、より良い対処法とか治療法を探ったりはできないだろうかって。ミュージシャンの仲間内では、ディスカッションの場を設けたりしていたんですけど、やっぱり限界があって。
別の角度から物事を捉えられる人というか、ジャンルが異なる人との共同作業みたいなのが必要なんだろうなと漠然と考えるようになっていったんです。そんなときに、「ドラマーの研究者がいるのでぜひご紹介したい」という方が現れて。僕も「えっ! ドラムの研究って、そんなのあるんだ!」と思って、ならば、ぜひお話をうかがいたいと、藤井先生を訪ねました。
藤井 山口さんのお名前はもちろん存じ上げていました。でも、直接お会いできるなんて思ってもみなかったので、ご連絡をいただいたときはとてもビックリしました。お話する前は、けっこう緊張してましたね(笑)。
山口 えっ、そうなんですか(笑)。
藤井 実は(笑)。山口さんからご連絡をいただけるなんて、驚きでしたし、本当にうれしかったんです。大学生のときからずっとドラマーを研究してきたんですが、学術界ではすごくマイナーなトピックで、キワモノといった感じでした(苦笑)。だから、まさか、あの山口さんが、私に興味持ってくださるだなんて思ってもみなかったですし、驚きました。でも、実際にお話ししたら、一気に緊張がほぐれました。会話がグルーヴしたというか……。
山口 話、めちゃくちゃ盛り上がりましたもんね(笑)。
藤井 そうですね。ずっとキワモノとして孤独に研究してきたんですけど、研究を続けてきてよかったと思いました(笑)。
●山口さんはどうでしょうか? 藤井先生と出会ったときは、まさか一緒に研究することになると思ってはいなかったわけですよね?
山口 最初はまったく想像していませんでした。だけど、話してる間にどんどんグルーヴがかみ合っていく感じがあって。藤井先生の授業の中で、MDについても触れているというお話を聞いて驚きましたし、脳科学や身体科学の観点から、どういう現象かという説明もしていただき、病気に対する理解が深まったという喜びもありました。
そこで、実は僕だけじゃなくて、多くのドラマーが苦しんでる状況なんですという話をしたら、藤井先生は「ドラマーを愛するドラム研究者として、見過ごすことができない」って、自分のことのように話を聞いてくださって。その初めて会った日の終わりくらいにはもう「山口さん、一緒に研究しましょう」みたいなテンションになっていました。
藤井 山口さんとお会いする前から、授業でMDの話を取り上げて、その現状と社会的な課題を大学生達に伝えていたんです。音楽は、私達の身の周りに、あたりまえのように存在していますが、ふと音楽とは何かと真剣に考えてみると、実は科学的にはわかっていないことだらけです。
例えば音楽のトレーニングを積むと、脳や身体はどう変わるのか、音楽家の脳や身体の特徴について、1990年代以降、ようやくいろんなことが、少しずつ科学的にわかってきました。MDに関する脳や身体の研究も、その頃から徐々に進められてきましたが、クラッシック音楽家に関する研究が多くて、ドラマーに関しては圧倒的に研究が不足しています。
ドラマーのMDについては、なおさら研究が足りません。実際のところ、ドラマーのMDは何が原因なのか、ドラマーの脳と身体はどうなっているのか、そもそもどれくらいのドラマーがMDに悩んでいるのかなど、ドラマーのことについて、まだまだ科学的によくわかっていないことがたくさんあります。その一方で、MDに悩むドラマー達がいる。これは大きな問題だと思い、その現状と課題について、授業で伝えたりしていました。
●山口さんは発症した当時は、MD自体がまだよく知られておらず、「自分が何の病気なのかわからなかった」とおっしゃっていましたよね?
山口 当時はただただ謎の現象で、とにかく練習すること以外に何も方法が思いつきませんでした。結局、医療機関に診察してもらったのは2014年なんですけど、それまでの5年間はそもそも病気っていう疑いもなくて。自分の中に住んでいる悪魔か何かが、予期してないところで突然身体が動かなくしてしまう、本当にそんな感じだったんです。そういうことがたびたび起こるようになって、“これは一体何なんだろう”っていう恐怖心と、自分の音楽人生を奪われてしまうような、ものすごい絶望感がありました。
とはいえ、当然、今の状況をどうにかしたいっていう気持ちはあって、また、バンド・メンバーも僕をサポートしたいって向き合ってくれて、何とか5年間くらいは、RADWIMPSのドラマーとして活動を続けることはできたんですけど……LIVE中に突然再発したり、徐々にどんどん悪くなるみたいな感じがあって。でも、どう対処していいかはわからなくて。
1つフェーズが変わったのは、2014年に氣志團の白鳥雪之丞さんが、バンドを無期限活動休止されて、それは職業性ジストニアというものが原因であるっていうニュースをたまたま知ったことでした。調べてみたら、思い当たることが多くて、“もしかしたら僕はこれなのかな”って、ここで初めて気づくんです。
それで神経内科に行くんですけど……そこで言われたことが、「あなたは職業性のミュージシャンズ・ジストニアです。非常に難しい症状で、基本的に良くならないので、バンド活動を辞めてください」ということでした。「良くなりたいんだったら、まずは演奏活動をストップすることです」と言われて。正体がわかったっていうちょっとした救いはあるものの、治すのは難しいって言われて、茫然としてしまいました。
でも、大好きなバンドをやめられるわけない。とにかくやれることをやるしかないという思いで、2014〜15年にかけて、新しい知識も取り入れながら、病気と向き合っていたんですけど、自分の気持ちとは裏腹にどんどん悪化してしまって、最終的には叩けない状況になってしまいました。それで、バンドを休ませてもらうことにしたんです。ただその後も、この症状は一体何なのか、どうやったら良くなるのかということへの関心はずっと持っていました。やっぱり活動中だと、切迫感がありすぎて余裕がなかったので、休養することで持てる視点もあるのかなと思いながら病気と向き合ってきたという流れがあって、そこでついに、2020年に藤井先生と出会うことができたんです。