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    エル・エステパリオ・シベリアーノ – 怪物ドラマーの練習法とドラムへの向き合い方【Interview|後編】

    • Interview:Mark Griffith Translation:Tomohiro Moriya Photo:Mariano Regido/Redfernsr©Getty Images
    • Reprinted with Permission of Modern Drummer ©2025 https://www.moderndrummer.com/

    成長しようとする人間なら、一生をかけてでも
    さまざまなバリエーションを練習し続けることに価値がある

    スペイン発の超人ドラマー=エル・エステパリオ・シベリアーノへのインタビューのアナザー・パート後編では、エルが実践している練習方法や自信のプレイの強み、またドラムとの向き合い方について語られたセクションを公開! WEBでお届けした前編、そして発売中の2025年7月号に掲載している本編と併せて読むことで、彼が現実的な視点で物事を考え、ストイックにクリエイター活動に励んでいることがわかる内容となっている。

    ◯ひょっとしたら間違っているのかもしれないけど、俺の一番の強みはすでに作曲されたものをドラムで再現したり、エミュレートしたりする能力だと思っている。これはもうずっとやってきたことだから、何かを聴いたらすぐに叩いてレコーディングする準備が簡単にできてしまうんだ。それが、俺が大量のコンテンツを作り出せている理由でもある。俺はこれが得意なんだ。特定の何かに長けているわけじゃなくて、いろいろなジャンルをプレイするのが好きだから、俺のドラミングはド真ん中にいる感じなのだけど、おかげで多くの人に好かれるさまざまなタイプのプレイができる。

    ◯よくやっているよ。特にウォームアップのときなんかにね。思いついたことをそのまま叩くのが日課になっていて、毎日少なくとも40分はやっている。さまざまなアイディアを出そうとトライすることは良いことでもあるんだ。

    ◯なんてグレイトな質問だ! 俺は今4つのスティッキングにめちゃくちゃハマっている。パラディドル、インバーテッド・パラディドル、パラディドル・ディドル、それから6ストローク・ロール。この4つをいろいろな順番で組み合わせて、1万通りくらいのスティッキングを作るようにしている。これが今の練習方法の1つなんだ。

    1つのスティッキングをやっていても、実際にプレイするたくさんの音によって変わってくる。ビートの中のどの位置からスティッキングを始めることだってできるんだけど、これを実際にやっている人って意外と少ないんだよね。例えばパラディドルだと、アクセントを変えずに始められるスタート位置が4つ(もしくは8つ)ある。で、アクセントを変えると、そのたった1つのスティッキングだけでも何千通りもの可能性が広がっていく。

    俺はそういったことを意識して、ビートの中のいろいろな位置から始めるバリエーションを練習しながら、この4つのスティッキングを駆使している。それに、ダブルとかシングルの一部をキックに変えたりして、どんなサウンドになるのか試している。もし良いサウンドならそのアイディアをリストに追加していく感じだね。

    ◯6ストローク・ロールは本当に美しくて、右手をクラッシュ・シンバルに移動させてめちゃくちゃ速くプレイしている。6ストローク・ロールは6連符としてどんなグルーヴにも自然にハマるし、かなりグッドなサウンドになる。俺がプレイできる中でお気に入りのルーディメントと言えるだろう。面白いルーディメントで、2つのダブルと2つのシングルで成り立っているんだけど、これをしっかりマスターすればかなりの速さでプレイできるようになるんだ。

    ◯コントロールの達人を見たいなら、エロイ・カサグランデを見ればいい。彼がライヴでプレイしているところを見れば分かる。究極的にはスピードっていうのはコントロールの1形態だから、スピードよりもコントロールを優先するべきだ。

    ▲2024年、スリップノットに加入したエロイ・カサグランデのライヴ映像。

    多くの人が、速さ重視でバス・ドラムのペダルをセッティングしているように感じるけど、ビーターをしっかりとコントロールできなければ、結果的にドラミングがすごく乱れることになる。速く叩けても、遅く叩けないドラマーがいるって話をしたけど、それと同じことだ。俺は常にその中間を目指していて、そのためにはビーターをしっかりとコントロールする術を身につける必要がある。俺はべつに一番速いドラマーではないかもしれないけど、自分のビーターが今どこにあるかは常にわかっているつもりだ。

    ◯基本的にはそう、同じことだ。手のテクニックってけっこう切り替えやすいから、俺は使い分けている。スネアをプレイするときはできるだけ指を使うのがオススメだが、ブラスト・ビートやキット全体で速いロールを叩くようなときは、手首のリバウンドが必要になる。タムはあまり跳ね返ってこないから、モーラー奏法みたいな手首の動きを使う必要があるかもしれない。

    多くの人は挑戦することを怖がっているけど
    本当の失敗っていうのは挑戦しないことなんだ

    ◯ちょっと残念な答えかもしれないけど、正直あまり音楽は聴いていない。仕事が多過ぎて、ドラム・セットから離れているときは音楽すら聴かなくなってしまった。昔はトレーニング中とか掃除しているときに音楽を流すのが好きだったんだけど、最近は聴くとしてもドラムが入ってない音楽ばかりだ。エレクトロニック・ミュージックにすっかりハマってしまって、BPM=120くらいでバス・ドラムが鳴っていると心が安らぎ、1日がすごく楽に感じられるんだ。

    普段から音楽をあまりにもたくさんプレイしているから、いつも同じ3曲くらいを何度も叩いている。たとえば「Toxicity」は何百回も演奏した。そのせいで、ああいった曲には正直もう飽きてしまっていて、音楽自体をあまり聴かなくなっているんだ。自分でも残念な答えだとは思っているさ。

    ◯それは面白い質問だ。正直なところ、最近は少しドラムから距離を置くようにしている。俺のチャンネルには登録者が400万人いるけど、実際に稼いでいる額は本来得られるはずの半分にも満たない。もし著作権のある音楽を演奏していなければ、もうとっくの昔に何百万ドルも稼げていたはずだ。でも現実はそうなっていなくて、それは、自分が演奏している曲はほとんどが著作権のある音楽で、その収益はすべて他の誰かに行ってしまうからなんだ。

    だから今は別のビジネス・モデルを作ることに集中し始めていて、インタビューを撮影している。自分が尊敬する人達をインタビューしていて、それをコンテンツとして収益化していくつもりだ。自分にとって、それが今は重要なことと考えている。

    ◯以前、スペインでOrquestra Monte’ Carloというバンドでプレイしていた。このバンドはいろいろな曲をやるカヴァー・バンドで、4時間のショウをやっていた。スペイン中を回ってプレイしていたんだ。スペインでは常にパーティーがあって、こういうバンドの需要がめちゃくちゃ大きい国だから、何千という数のカヴァー・バンドが存在している。たぶんアメリカも似たような感じかもしれないけど、こういうバンドだけで、少なくともちゃんと生活できていた。そのバンドには4年間在籍していて、その間はほとんどお金を使うことがなかった。俺はかなり倹約家だから、稼いだお金は全部貯金した結果、6万ユーロを貯めることができた。スペインはアメリカより物価がずっと安いから、月に1000ユーロもあれば快適に暮らせるんだよ。

    バンドを辞めたあとはいくつかサイド・ビジネスを始めたけど、正直うまくはいかなかった。Patreonでドラム・アカデミーを立ち上げたり、YouTubeで少しずつ収益を得たりしていた。当時のYouTubeのポリシーだと、収益の50%を手数料として取られていたんだよね。あとはウェブカメラでドラム・レッスンをしたり、Twitchで演奏したりもしていた。でもそういう道を進んでいると、ちゃんと物事に目を向けていればいろいろなチャンスが見えてくるものだ。俺には巨大な収入源っていうのはないけど、生活を支えるための手段はあちこちにある。

    それと、自分のドラムの技術向上についてなんだけど、今はツイン・ペダルを使ってもっと上達したいと思っている。でも、それが本当にいいアイディアなのかは正直わからない。ツイン・ペダルを使い始めると、ドラミングの大事な部分を忘れてしまいそうになるんだよね。実際、ここ何か月間もハイハットでグルーヴをプレイしてない。ただ速くなりたい一心でやっているけど、越えられない壁があるような感じがしている。それを何とかしようと取り組んでいるのだけど、“いろいろなものを犠牲にしているんじゃないか?”と思うこともあって、このままそのルーティーンを続けるべきかどうか悩んでいる。今はまさにそんなことに向き合っているところなんだ。

    ◯面白いことに、最初は上級者向けのコースにするつもりだったんだ。俺は多くの人が上級者向けと感じたものを書いたんだけど、最終的にはそれを半分にカットして、今では初心者と中級者の中間くらいの内容になっている。よく言われるのが、「まだプレイできないけど、どうすればいいですか?」っていう質問で、答えはシンプルだ。続ければそのうちできるようになるってことだ。そこまで複雑なことじゃないし、ただやり続けることが大事なんだ。ほとんどの人が躓くのはエクササイズ自体じゃなくて、それに対する見方にあると思っている。

    10分間のワークアウトっていう売り文句で出してはいるけど、それはあくまで目安だ。ある人には1分でできるかもしれないし、別の人には1年かかるかもしれない。でも多くの人は、10分で結果が出ないとパニックになり、そのあまりの難しさに何をしたらよいのかわからなくなってしまう。だからこそ、一番大事なのはプロセスを信じることだ。どれくらい時間がかかっても絶対に辿り着ける。信じて続けろ!ってことだ。

    それと、俺がかなり早い段階で学んだのは、多くの人が“自分自身から学ぶこと”を正しいと思っていないってこと。これはとっても変なことだと思う。ドラマー達の崇拝気質もあると思うけど、偉大なドラマー達を神様みたいに崇め、彼らの言うことの方が正しいと思ってしまい、自分達の知識を一切塞ぎ込んでしまうんだ。でも、それが大きな間違いだと思う。

    「何を練習すればいいですか?」、「どんなエクササイズが効果的ですか?」ってよく聞かれるけど、俺はその人を知らないし、何歳なのか、背が高いのか低いのか、どんな音楽を聴いているのかも知らないから答えようがない。実際、最高の先生っていうのは、自分自身だったりする。そのためにはまず自分自身をちゃんと認めて、信じることが必要なんだ。

    他にも「あなたのエクササイズにこのハイハットの音を足してみたけど、それってアリかな?」って聞かれるけど、新しい選択肢が見えたならそれを試すべきだし、どんどん深堀りしていくのが大事だ。成長しようとする人間なら、一生をかけてでも、そういったさまざまなバリエーションを練習し続けることに価値があるってことを理解するべきだと思っている。

    ◯プロセスを信じることだね。これは人生のあらゆることに通じる話で、人々をちょっと失望させるかもしれない。だって、これは音楽の話じゃなくて、哲学とか人生観の話になってしまうからさ。誰もが5分で速くなれる練習法を知りたがるけど、その障害となっているものはたいてい自分自身の中にあって、もっと自分自身をよく理解する必要がある。もしかしたら世界の見方そのものを変えないといけないのかもしれないし、もしプロセスを信じて何かに一生懸命取り組んできたなら、その結果だけで物事を判断したらダメだ。

    やっていることを続けて、その努力に満足していれば、その中にちゃんと力や勝利が見えてくる。そこに喜びを見出せるはずなんだ。努力は必ず報われるって信じるべきだし、たとえ報われなかったとしても、少なくとも挑戦したんだからそれだけで意味がある。多くの人は挑戦することを怖がっているけど、本当の失敗っていうのは挑戦しないことなんだ。失敗は学ぶチャンスで、たとえ失敗しても挑戦したっていう事実は残る。それってすごく怖いことかもしれないけど、もし80歳になって死ぬ間際に“ドラマーになればよかった”とか“画家になればよかった”って思いたくないんだ。トライしてみたいんだよ。何かが起きたら最高な気分になれるだろうし、もしダメでも、後悔するよりはずっとマシなんだ。

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