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生と打ち込みをどのバランスで混ぜるのか
アルバムごとにいつも考えるけど
今回はアコースティック寄りというか
人間っぽさを全体的に重視しました
今春リリースしたアルバム『アダプト』を引っさげて、「SAKANAQUARIUM アダプト NAKED」と題したツアーをスタートさせる予定だったサカナクション。ご存知の通り、ヴォーカル山口一郎の体調不良によりキャンセルとなってしまった。実はツアーに向けて5月末にドラムの江島啓一へ取材を行っており、今日、明日と開催されるアンダーワールドとの共演イベントに合わせて、その幻のインタビューを公開! アルバム、そしてツアーへの想いが伝わるだろう!!
ツアー終わってからレコーディングするのは
初めての経験で、でも健全な感じがしました
●今回は『アダプト』の発売前にツアーを行うというスタイルを取ったわけですが、ツアー前にどのくらい作品は完成していたのでしょうか?
江島 まぁまぁできてましたね。レコーディング自体も7〜8割くらい終わっている状態で、歌詞ができてない、ミックスが終わってないっていう曲はいくつかありましたけど、まったく手をつけてないのは1曲だけという感じでした。
●ライヴを重ねることで、アレンジも固まってくると思うのですが、その状態でレコーディングし直したい曲もあったんじゃないですか?
江島 アレンジが変わった曲もあったので、それは録り直しました。単純に演奏することに慣れたということもありますし、やっていく中で、アレンジを変えたいねってなった曲もありましたね。
●そういうやり方は今回が初めてですか?
江島 アルバムの発売前にツアーをやったことは過去にもあるんですけど、そういうコンセプトではなくて、単純に間に合わなかったんです(笑)。
●(笑)。でも順番が逆だったからこそできた曲もあるんじゃないですか?
江島 ゼロから作った曲はなかったですけど、ツアー終わってからレコーディングをするのは初めての経験で、でもすごく健全な感じがしました。ライヴで何回も演奏したあとにレコーディングするっていう流れの方が作業もスムーズでしたね。(演奏が)身体に入っているし、メンバー間で共通言語ができているので、あとは録るだけという感じで。昔の人はみんなそうやっていたわけですからね。
●昨年11月のオンライン・ライヴでは、ラディックとYamahaの2セットを稼働させていましたが、ドラム・サウンドのイメージは頭の中にあったんでしょうか?
江島 イメージはできてました。生と打ち込みをどのくらいのバランスで混ぜるのか、アルバムごとにいつも考えるんですけど、今回はアコースティック寄りというか、人間っぽさみたいなものを全体的に重視して、ヴィンテージ系の音をよくチョイスしました。オンラインのときは、昔の曲も混ざっていたので、その場合に幅広く対応できるYamahaのドラムを使って、最近の曲はラディックのドラムを使いました。
●「キャラバン」、「フレンドリー」、「シャンディガフ」の3曲は、今おっしゃった人間っぽさみたいなものがよく表れているように思うのですが、サンレコのインタビューによれば、この3曲はゼロからのセッションで生まれたそうですね?
江島 そうですね。もう2〜3年くらい前になるんですけど、レコーディング終わりって、男のメンバーだけスタジオ残ることが多くて。ギターの岩寺(基晴)はベースもキーボードも弾けるので、ドラムとベース、ドラムとキーボードという感じでセッションをして、曲の“種”を作っておいて、そこから仕上げていった3曲になります。
●そのセッションの雰囲気を生かしたアレンジになっているわけですね。
江島 大枠はセッションの段階からほとんど変わっていなくて、あとは味つけをどうするのかっていうところでした。
●この3曲は共にリズムが16系で、両手ではなく、片手で刻んでいるんじゃないかなと思ったのですが、いかがでしょう?
江島 そうです、まさに片手で刻んでいます。最近、そういう曲が多くて、僕自身もそうだし、メンバーも好きなんですよね。ネイト・スミス的な感じというか。
●ネイト・スミスの影響かなと思っていたので、予想が当たっていてちょっとうれしいです(笑)。
江島 (笑)。最近の好みの傾向で、ややハネ気味というか。一応、両手刻みでも試してみたんですけど、全然グルーヴが変わっちゃって、ギターからも「違う」って速攻で言われて、頑張って片手で刻みました(笑)。
●片手刻みの16となると、ある程度テンポ感も決まってきますよね?
江島 90前半くらいが自分の限界ですね(笑)。テンポ100を超えると、必死になっちゃうので、楽しくできないと思います。
●16のノリを出すためにクリックの聴き方に秘密があったりしますか?
江島 昔はライヴのとき、ウラ(オフビート)だけを鳴らすようにしていたこともありましたね。それはオモテ(オンビート)が揃ってなくても、ウラで合っていれば気持ちいいよねっていう曲が多かったからなんです。この前、15周年のスタジオ・ライヴを配信でやったときに、その当時の曲を久しぶりにやったらクリックがウラだけ鳴っていて、“こういうこともやっていたな”って思い出しました(笑)。
でも当たり前のようにオモテで聴いていると、そこに合わせようとしちゃうので、ウラが若干ルーズになってしまうので、曲によってクリックの聴き方は違いますね。で、今回のレコーディングで言うと、そういうことは意識せず、(クリックを)4分で鳴らしていたと思います。メンバー間のグルーヴが気持ち良くないなと感じるときは、鳴らし方に工夫を施したりするんですけど、特にツアーが終わってから録り直した曲は、もうグルーヴが出来上がっていたので、特に気にすることなくできました。
●「シャンディガフ」はタンバリンがリズムの核になっていると思いますが、これは誰が振っているんですか?
江島 誰だろう? ちょっと曲を聴き直してもいいですか?……(確認しながら)多分、ベース(草刈愛美)じゃないかな。
●ヴォーカルがタンバリンを振ることで、歌にグルーヴが合うようにしているという話を他のバンドで聞いたことがあったので、サカナクションの場合はどうなんだろうと気になったんです。
江島 なるほど。ただヴォーカル(山口一郎)に合わせたことはないですね(笑)。そしてヴォーカルがタンバリンを振ることもないです(笑)。でもあらためて聴いてみると、確かにタンバリンが目立ってますね。これはドラムを撮り終えたあとに、入れたものだと思います。
●「ショック」もパーカッションがフィーチャーされていて、一緒にリズム、グルーヴを構築している曲が多い印象を受けました。
江島 「ショック」のパーカッションはラティール(シー)にやってもらったんですけど、あれはパーカッションを聴いてからドラムを録り直したんです。ラティールのグルーヴがすごく良かったので、後ノリさせてもらいました。そっちの方が本物っぽい感じがするなと思ったんです。
●この曲はアフロ・ビートをイメージしたんですよね?
江島 そうです。でもイメージしたのは、トニー・アレンじゃなくて、トーキング・ヘッズの方で、テンポ的にもそっちの方が合うと思ったんです。ベッタベタではないけど、アフロ・ビートっぽさは感じられるというところをねらってみました。
●この曲が先行配信されたときに、チャレンジングなことをするなと驚きました。
江島 (笑)。でもそんなに気にならないと思うんです。そのあたりのバランスはけっこう考えましたね。
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