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    【Interview】江島啓一[サカナクション]

    バンドの音数がドンドン減ってきて
    今はその分、1つ1つの楽器の説得力が
    重要になっているように思う

    変わったっていう実感があるとやっぱりうれしい

    ●プレイヤーとして今回の作品でチャレンジしたことは何かありましたか?
    江島 特に新しいことはしてないんですけど、人間っぽさを重視しようと思ったので、リプレイスやエディットはほぼしていないですね。ちょっとハシったり、モタったりもしているんですけど、それも修正せずに残してるんです。それがチャレンジになるかはわからないですけど、人間味のあるドラムになっていると思います。

    ●「シャンディガフ」はマイク3本でドラムを録ったそうですね?
    江島 これはビートルズをイメージしました。できるだけ古い感じにするにはどうしたらいいのかっていうことを、エンジニアの浦本(雅史)さんと話しながら、いろいろ試していく内に、段々と立てているマイクのフェーダーが下がっていって、最終的に3本だけ生かす形になりましたね。だからマイク3本で録ろうと思ってやったわけじゃなくて、結果としてマイク3本になったという感じです。

    ●この曲のハイハット・オープンの伸ばし方が絶妙だと思います。
    江島 あれはダラっとした感じというか、カッチリしない感じを出したかったんです。昔に比べると、最近はバンド全体の音数が減ってきて、例えば「アイデンティティ」や「アルクアラウンド」なんかを出していた頃は、ドラムのスペースがそんなになくて、細かいニュアンスを聴かせられなかったんですけど、バンドの音数がドンドン減ってきて、今はその分、1つ1つの楽器の説得力が重要になっているように思うんです。隙間があるから、それぞれどんなことをやっているのかが見えやすいので、メンバー全員がより高い意識を持つようになっているとは思いますね。

    ●そうなってくると自分の演奏に対するジャッジも厳しくなってきますよね?
    江島 そうですね。新しい試みという意味では、レコーディングだと、ギターのバッキングとベースとドラムの3人で録ることが多いんですけど、使うテイクを決めるときのジャッジをドラムだけでやるようになったんです。他の楽器と一緒に演奏したテイクでジャッジすると、ちょっとしたミスなんかはマスキングされて目立たないからいいやってなるんですけど、今回はそれをなしにしようと思って、3人で録ったテイクと、それをソロで聴き直すことの両方やって、OKだったテイクを生かしているんです。

    ●長谷川浩二さんもドラムとクリックだけチェックする作業をやっていて、“地獄聴き”とおっしゃっていました(笑)。
    江島 ミックス前の状態で、自分のドラムだけを聴くっていうのは、まさに地獄ですね(笑)。でもドラマーはみんなやった方がいいと思います。機械的に直すこともなくなりますし、そのままの状態で大丈夫だと思えたら、アレンジやミックスでその後、どんなに変わっても気にならないんです。土台さえしっかりしていれば、上からどんな被せ物をしても、大丈夫と思えるようになりましたね。

    ●めちゃくちゃ大きなチャレンジじゃないですか!
    江島 確かに大きな変化かもしれないですね。でも新しいことに挑戦しようとしてそうなったわけじゃなくて、バンドのやりたいことが変わってきて、自然とそうなったという感じなんです。

    ●「エウリュノメー」はドラムをフィーチャーした曲で、生ドラムかと思いきや、これは打ち込みだそうですね。
    江島 本当は生で録るつもりだったんですけど、レコーディングのタイミングでコロナにかかってしまって、スタジオに行けず、録れずだったんです。

    ●アルバムの『アプライ』は、サンレコでの山口さんのインタビューでは、エレクトロ回帰の作品になるとのことですが……。
    江島 予想です。コロナ禍でクラブ・カルチャーが止まっていたこともあってか、エレクトロ方向で流行り廃りみたいなものがなかったように思っていて。今っぽい音というのが、そもそもない気がしているんです。だからノンジャンルというか、時代感みたいなものがあまり感じない作品になるような気もしますね。

    ●アンダーワールドとのダブルヘッダー・イベントも控えているので、今のサカナクションが放つエレクトロニック・サウンドを楽しみにしている人も多いように思います。
    江島 僕も楽しみですね。最近90年代の音楽を聴くと、すごく懐かしい気持ちになるんですけど、アンダーワールドはその当時からバリバリに活動しているアーティストなので、イベントのときは、アンダーワールド仕様のアレンジ/セットリストにしようと思って、考えているところです。

    ●マーク・ジュリアナが90年代のエレクトロニック作品はハードウェアで作られていて、制約があるからこそ面白さがあって、サウンドにも個性があったと話していたのですが、アンダーワールドはその最たる例の1組のような気がします。
    江島 理論的にはハードでやっていることをソフトで再現できないわけではないんですけど、例えばタムが10個並んだセットがあったとして、ドラマーがそのセットに座ったら、とりあえずタムを叩いちゃうと思うんですね。タムが必要ない曲だったとしても、10個も並んでいたらやっぱり叩いちゃうじゃないですか? ソフトにも同じようなことが言えて、何でもできるが故に、無駄なことをしちゃうんですよ。ハードはできることが限られているのが前提にあって、だからこそ割り切ることもできるし、できる範囲の中で個性を出そうと思うから、工夫が生まれるんですよね。そこに違いはあるんだろうなとは思います。

    ●サカナクションの場合も、楽器を演奏できた上で、ソフトで音楽を作るからそこに個性が生まれるんでしょうね。
    江島 アルペジエーターでやればいいことを、わざわざ手で弾いているから、ハードですらないんですけど(笑)、でもそうすることでソフトでは作れない音楽が生まれたらいいなと思ってはいます。僕らの場合はマシンっぽいものよりも、人間味を感じるものの方が好きっていうのもありますね。

    ●変な質問になりますけど、ドラマーとしてこういう部分のスキルアップをさせたいと思っていることってあるんですか?
    江島 めちゃくちゃありますよ。周りのドラマーの方が全然うまいと思っているので、日々勉強というか、練習しています。初歩的なところですけど、ハイハットで刻む場合と、ライドで刻む場合で、スネアの音量って変わるじゃないですか。腕がクロスしないぶん、ライドを刻んでいるときの方が、スネアを綺麗に鳴らすことができるんですけど、その差をなくしたくて。そのためには左手のショット・スピードが重要だなと思って、タップ(ストローク)を鍛えていたら、ゴースト・ノートにも影響があって、音のツブ立ちが変わったんです。今さらではあるんですけど、でも変わったっていう実感があると、やっぱりうれしいんですよね。

    【Information
    ●SAKANAQUARIUM 2024 “turn” →HP