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ダイアナ・クラールの来日公演を支えたマット・チェンバレンのロック・スピリット【Report】

  • レポート:村田誠二 撮影:土居政則/ヤマハ(機材) 取材協力:ウドー音楽事務所

今回の来日公演はむしろ
マット・チェンバレンでなければ
ならなかったと痛感

ここで2人がステージを去り、ダイアナのソロ・コーナーへ。「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」、そして01年『ルック・オブ・ラヴ』から「アイ・ゲット・アロング・ウィズ・ユー・ヴェリー・ウェル」、さらに18年にトニー・ベネットとのデュエットも実現した「ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ」を、ダイアナ1人でトリオのようなピアノ・アレンジで歌い上げると、2人がステージに戻り、「イースト・オブ・ザ・サン(アンド・ウェスト・オブ・ザ・ムーン)」でテンポ・アップ。

ヴォーカルとぴたり並走するダイナミクスも見事だが、また、感じているフィールを表現する/しないによって空間をさまざまな景色に見せる歌心が、自由で音楽的。そして一気に表現するときの“ラッシュ”が、まさにロック・ドラマーのそれという印象だ。

ここからはそんなロックのカヴァー・コーナーとも言えるセクションへ突入。トム・ウェイツ「ジョッキー・フル・オブ・バーボン」(85年)では、メイン・スネアのスナッピーを外して、ハイ・ピッチのオープン・リム・ショットをタム的に多用するため、フロア右のスネアをバック・ビートとして使用していた。

続くボブ・ディラン「シンプル・ツイスト・オブ・フェイト」(75年)は、ボブ・ディランのデビュー50周年コンピレーション『チャイムズ・オブ・フリーダム』でダイアナがカヴァーし、また、マットが新メンバーとして加わったディランの“Never Ending Tour 2019”で披露された曲でもある。さらに、バッファロー・スプリングフィールド「ミスター・ソウル」のカヴァーでは、これまで同様、“立体的”に絡みながら巧みな押し引きを加える、トリオならではのプレイが冴え渡った。

そして、06年『フロム・ディス・モーメント・オン』収録の「デイ・イン、デイ・アウト」、さらに、ダイアナ90年代からのレパートリーでもある「ルート66」で本編を締め括った。アンコールでは、99年『ホエン・アイ・ルック・イン・ユア・アイズ』収録の「レッツ・フェイス・ザ・ミュージック・アンド・ダンス」を、オリジナルのボサノヴァとは異なるアフロ・キューバン・アプローチでプレイ。とにかく、感じているフィールの中から出す音/出さない音のチョイスが自由。だからこそ個性的で非常に音楽的だ。

ラストは、夫でもあるエルヴィス・コステロが、“&ジ・アトラクションズ”名義で82年『インペリアル・ベッドルーム』に収録し、ダイアナが04年『ザ・ガール・イン・ジ・アザー・ルーム』でカヴァーした「オールモスト・ブルー」へ。ブルーな感情表現は次第に力強さを増していくが、ピアノ・ソロの激しいタッチに対して、マットは大きく揺るぎない8ビートでサポート。今回の来日公演は、むしろマット・チェンバレンでなければならなかったのだと痛感しながら、講堂を後にした。

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