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ダイアナ・クラールの来日公演を支えたマット・チェンバレンのロック・スピリット【Report】

  • レポート:村田誠二 撮影:土居政則/ヤマハ(機材) 取材協力:ウドー音楽事務所
マット・チェンバレン

憂いを帯びた音遣いで歌うダイアナに対し
マットは長い1拍の中でさまざまなフィールの
ノート、タイミング、音色でレスポンス

前日のTOKYO DOME CITY HALLのステージ上の様子がSNSにアップされていたので事前にチェックすると、マットのセッティングは、Yamaha PHXの20”BD、12”&13”TT、16”FTに、スネアはRecording Customのブラス14”×6.5”、シンバルはパイステ Mastersをメインとした組み合わせ。フロア・タムの右横に、同じくRecording Customの14”×5.5“スネア(バーチ)をセットしているのもマットらしさが感じられるし、シンバルも、左手側におそらくMasters Swishをセットし、右手側の Masters Dryの硬めでピッチの高いライドと場面によって使い分けるという周到さがまた、実に“らしい”。

Yamaha PHX(20″×16″BD、12″×8″TT、13″×9″TT、16″×15″FT)。スネア・ドラムはRecording Customでメインがブラス(14″×6.5″)、サイドがバーチ(14″×5.5″)。
シンバルはPAISTEで、Mastersシリーズを中心に構成。シンバルをセットするハードウェアはYamahaのHW3 Light Weight Hardwareで、フット・ペダルはFP9C。

定刻の19時を少し過ぎたところで、まずはマットとトニーが、広いステージの中央に集約された“トリオ”セットに着き、ベースが鳴り始めるとダイアナが袖から登場し、最新作『ディス・ドリーム・オブ・ユー』から「オールモスト・ライク・ビーイング・ラヴ」を、まずはベース&ヴォーカルでスタート。マットもブラシ・スウィープで合流すると、2コーラス目からスティックに持ち替えグッド・スウィング。このトリオがオーディエンスの前で音を出すのは前日が初だというが、そんなことを微塵も感じさせない心地良いヴォーカルとスウィング感に包まれる。

と、ここで突然ダイアナが席を立ち、ピアノから離れて袖に向かって行った。何が起こったのかと案じていると、マットとトニーも“?”の表情で顔を見合わせつつも演奏は止めずに状況を見守る。ダイアナはすぐにローディーと共に現れ、椅子をしっかりと固定すると、場の盛り上がりと共に演奏にもさらなる勢いとリラックス・ムードが加わり、マットもチェイス・ソロでは強弱を生かしつつ音数の多い迫力のプレイ。

ダイアナ・クラール
トニー・ガルニエ

MCでは「このままだと椅子が落ちていくに違いないと思って」と笑いを誘うと、早くも2人を紹介し、続いて、97年『ラヴ・シーンズ』収録の「オール・オア・ナッシング・アット・オール」へ。クローズド・リムをバック・ビートにタムを加えたパターンでスタートし、メロによって4ビート・スウィングと交互に展開するが、右手側の硬めのライド・レガートに対して、上述の左手チャイナは、もちろんボウでレガートもするが、柔らかく低めのアクセント・クラッシュで会場の空間を包み込んでいく、その使い方がいい。このアコースティックな鳴りの会場ならではチョイスだったのかもしれない。そして早くもドラム・ソロへ。

タムのハイからローまでを駆使した怒濤のようなタム回しと多彩な音色で、まさに1人オーケストラ状態。すると突然のブレイク! 少し長めで緊張感が走ったところでスッとターン・オーバーして、曲のエンディングへ。3人の笑みがこぼれる。ここから2曲はスロー・ダウンし、たっぷり聴かせる「オール・オブ・ミー」と「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」へ。ルバートで、少し憂いを帯びた音遣いで歌うダイアナに対し、マットは長い1拍の中でさまざまなフィールのノート、タイミング、音色でレスポンス。スローでもまさに“らしさ”を感じた部分だ。

続く、17年『ターン・アップ・ザ・クワイエット』収録「ライク・サムワン・イン・ラヴ」でのチェイス・ソロでも、ストレート16分でまくし立てたり、次はさまざまなパーツで細かい6連を全部埋めてヴォーカルへバトンタッチする場面も。なかなか味わえないソロだ。

対して、続く「P.S.アイ・ラヴ・ユー」(99年『ルック・オブ・ラヴ』収録)では、たっぷりした1拍の中で、ハットが触れ合い、ブラシによる極小のスネア・タップの1粒1粒が実に楽曲に色彩を加えていく。それは、続く「ザ・ガール・イン・ジ・アザー・ルーム」(04年)のような物語性のある曲でも、実に生き生きと表現されていると感じた。押し引きがとっても巧みだ。そしてトリオ演奏の最高潮となる「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」へ。

再び最新作『ディス・ドリーム・オブ・ユー』からだが、ベースのトニーはオリジナルでもプレイ。ちなみにオリジナルのドラムはカリーム・リギンスで、ギターはマーク・リボウ、フィドルがスチュワート・ダンカンという豪華メンバー。カリームもブラシで軽快なソロを聴かせていたが、今回、マットの低音の効いた立体感のあるソロも素晴らしい。何しろ音のツブ立ちがいいのだ。もうこの時点で、”ダイアナ・クラールでマット・チェンバレン?”という当初の心のザラつきがまったくなくなっていたことに、筆者自らが驚いていた。

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