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藤本夏樹が「Naked 4 Satan」で追求した“Tempalay流”ドラム・サウンド&グルーヴ【Interview】
- Interview & Text:Drums Magazine WEB
人間が叩いているのか
機械なのかがわからない感じの世界観が好き
サンプルのような質感に近づけつつ
人力のグルーヴ感が両立するビートに仕上げている
目くるめく展開を見せる楽曲や多彩なサウンド、そして独特の“歪み”をもたらす不思議なグルーヴ感で聴く人を引き込む3ピース・バンド=Tempalay。新たな試みとして用意したホーム・スタジオにて、1ヵ月間かけて制作されたという最新EP「Naked 4 Satan」には、より実験的で斬新さに磨きのかかった収録曲が揃っている。デジタル×生音を織り交ぜたタイトなビートでボトムを支える藤本夏樹に話をうかがい、独自のドラム哲学を掘り下げた。
展開の多い曲のどのセクションでも
全部おいしく聴こえるような音を追求した
●Tempalayの音楽は、コラージュ作品のような展開やサウンドの多彩さ、独特のグルーヴ感が印象的です。メンバーとはどのように楽曲を作っていくのでしょうか?
藤本 基本的には、デモが出来上がってきたら、どんな曲にするかというのを考えながら録っていくという方法ですね。ドラム・キットやチューニング、マイクやコンプの設定、録り音によっても叩きたいアプローチはかなり変わるので、フレーズは事前に決めずに、ヴォーカルからのざっくりとした要望に対して、ベースとドラムで一緒に案を出しながら組んでいくことが多くて。
イントロを作ったら、次はAメロを……というふうに、セクションごとにレコーディングしながらイメージを固めていっています。こういう作り方が、Tempalayの音楽の独特な“気持ち悪さ”みたいなところにつながっているのかなと思いますね。
●なるほど。今作「Naked 4 Satan」は、新たな試みとして、約1か月間スペースを貸し切って用意されたホーム・スタジオで制作されたそうですね。
藤本 これまでは、デモがレコーディングの直前に上がってきていたのもあって、その場で作ったものを翌日聴き直すと“やっぱり変えたい”と思うこともよくあるんですよね。それで、エンジニアの奥田(泰次)さんが“今回は、いつでも戻ってやり直せるような環境を用意して、1ヵ月かけて作っていったらまた違うものが生まれるんじゃないか”と提案してくれたのが始まりです。
これまでのドラム録りでは、その後に重なる別のパートのことを考えてあまり叩きすぎないようにしていたんですけど、今回は“多すぎたらまた叩き直せばいい”という安心感があったので、引き算しすぎることなく、より自由な発想でレコーディングに臨めました。

SPACE SHOWER MUSIC
PECF-3301

AAAMYYY(syn、cho)、小原綾斗(g、vo)、藤本夏樹(d)
●ドラム・アレンジにも良い影響があったんですね。レコーディングではどんなドラム・セットを使いましたか?
藤本 今回は、64年製のRogersのホリデイ・シリーズがメインでした。ただ、1曲目の「Magic」みたいに空間を感じるような曲では、キックだけトリガーをかけた70sラディックのビスタライトの22”に替えて、そこにTR-808っぽい音を重ねたりもしています。スタジオはかなり音の反響がある環境だったので、コンパクトなセッティングにして、かなりタイトなチューニングでレコーディングしました。
●今作の収録曲はこれまで以上に実験的な構成で、曲調や音色もさまざまですが、作品として統一された世界観を感じられるのが印象深かったです。
藤本 そうですね。今までは“ぐちゃぐちゃでカッコ良ければいい”と思っていたんですけど、今回は、作品としてのまとまりも出したいというのがテーマにあったんです。Tempalayではある程度“何をやってもいい”っていうところまで来たとは思うんですけど、その中でも統一感はきちんと持たせたくて。そのために一貫した音像を出したかったので、展開の多い曲のどのセクションでも、全部おいしく聴こえるような音を追求していきました。
特にM1「Magic」は、生音に重ねるトリガーのキックの音色決めだけで何時間もかけました。ドラマーとしてはこのEPで一番挑戦になった曲でしたね。結果的に、音の質感の面白さと、今のシーンに出しても劣らない迫力もある“Tempalay流ポップス”に仕上がったと思っています。そのとき気が向いた曲に手をつけるような感覚で並行しながら磨いていったので、収録曲全体のサウンドの質感もかけ離れることなく、作品としてもまとまったように思います。
●「かみんち」は、より斬新で、予測できない展開や、デジタルと民族風サウンドのパラドックス感が面白いなと思いました。
藤本 この曲は、展開に正解がなくてもいいくらいの感覚でやっていたと思います。“宗教観”をテーマとして、“自分達が全力で陶酔できるようなものって何だろう”と考えたときに、今バンドで没頭しているエレクトロニックな表現を、古くからある民族的なフォーマットとうまく融合させて作ろうということになったんです。
最初に入るクラップ音や、その後のすごく低音のキックなんかはリズムマシンで作ったんですけど、これも数時間かけて微調整を繰り返しました。良い感じに日差しが入る爽やかな空気のスタジオなのに、ベルリンのクラブみたいな(キックの)音がずっと鳴っていて、頭がおかしくなりそうでしたね(苦笑)。
●(笑)。「動物界」はポップス色が強く、空間の広さを感じる牧歌的な世界観と、温かみのあるオープンなドラム・サウンドが印象的でした。
藤本 この曲のドラムは4つ打ちのキックだけ打ち込みで、スネアはスナッピーをオフにして、マレットで演奏しました。最初こそ、ドラム全体が近い距離感で聴こえるような音像をテーマにしていたんですけど、逆にキックの音さえ近くに置いておけば、ドラムは遠くでポコポコ鳴っているくらいで良いなと思ったんですよね。他の曲と比べてもパーカッシヴなドラムになったかなと思います。
●「Bye」のドラムは、歌に寄り添うことに徹したプレイでありつつ、小気味良いフィルインもフックになっている楽曲ですね。
藤本 この曲のフィルは、俺が影響を受けたリンゴ・スター的なアプローチですね。個人的にこの曲のドラムはすごく気に入っています。ベッドルーム・ポップ感というか、昔よく聴いていた感じのいなたいインディー・ミュージックみたいな雰囲気があるので、今回録ったスタジオの空間にも一番合っている音楽だと思いますね。
“叩いている”とも言えないくらい
繊細に演奏するようになった
●EQや打ち込みのような質感と生音が混ざったビートの構築や演奏について、ドラマーとして意識していることは何ですか?
藤本 基本的には、生々しいドラムも好きですし、必要な場所ではトリガーやリズムマシンに頼るっていう考え方なんですけど、Tempalayで担っているドラムについては、人間が叩いているのか機械なのかがわからない感じの世界観が好きで、あまり聴いたことがないようなグルーヴに挑戦してみている感じですかね。
機械には人間みたいなことをさせたいし、人間には機械みたいなことをさせたいみたいな……だから、レコーディングで実際に叩くときは、あまり人が叩かないようなアプローチにしたり、サンプルなのか演奏しているのかわからないような音色を試したりしているのかもしれないですね。
でも、“音はサンプルみたいな質感だけど、このビートは人が叩いてるな”と最終的には気づけるからこそ面白いなって。ドラムはできるだけ他のパートと共鳴しないような音量感で演奏することで、サンプルっぽい質感に近づけつつ、人力のグルーヴ感が両立するようなビートにしています。

●ライヴについてもうかがいたいのですが、去年、武道館という大会場での初ワンマンを経験されて、意識面で変化したことはありますか?
藤本 武道館以前はZeppクラスのキャパが最大だったので、開催までの1ヵ月間で、とにかく音を飽和させないことをテーマに全体の音作りをメンバーと見つめ直していったんです。
大会場では音の反響が大きいので、ドラムみたいな生楽器は音が暴れないように、ライヴでもレコーディングと同じくらいタイトに叩くことを心がけるようになりましたね。もちろん演奏していると熱量は上がってくるんですけど、その勢いや力任せにしないように意識していました。
●Tempalayの音楽には、展開が複雑な中でも、自然に身体を揺らしてしまうグルーヴ感があると思います。ドラムで人をノらせるために工夫していることはありますか?
藤本 音楽的には、まあまあ意味のわからないことをやっているはずなんですけど(笑)、ノれるならうれしいですね。ノらせたいからこそ、本当はあまりドラムで難しいことはしたくないんです。何しろ曲自体が複雑なので、ちゃんとノってほしい場所でノれるように、ドラムでストーリーを持っていかないといけないというのはありますね。
セクションの切り替わりでガラっと変えていくというよりは、その接着剤としてのフィルインをきっかけに、ぐにゃぐにゃと展開が変わっていくような演出で、盛り上がる場所まで持っていく仕組みは作っているつもりです。
意識していることとしては、“グルーヴが見えるように叩く”っていうところですかね。ドラム・セットの中でも、どの音が大きいと気持ち良く聴こえるビートなのかを考えて演奏することで、そのビートに合うグルーヴが出せるんじゃないかと思っています。
●なるほど。ドラムをプレイするときの音量バランスはどのように考えていますか?
藤本 高校生の頃は、“ドラムの音は大きければ大きいほどいい”っていう感覚があったんですけど、今はまったくそう思わなくなりました。ライヴでの音量感はPAさんにお任せして、自分はより綺麗な音で鳴らすことを大事にしています。
他の楽器とも反響し合わないように気をつけていることもあって、できるだけ金物はソフトに、スネアはゴーストがちゃんと立つように意識しています。リム・ショットは滅多にしないですね。レコーディングやライヴを重ねていく中で、叩いているとも言えないくらい繊細に演奏するようになったと思います。
●ライヴでは、他のパートとどのようにバランスをとっていますか?
藤本 サポートで参加してくれているパーカッショニストの松井(泉)さんとは、リハの時点でかなり話し合いますね。
具体的には、「この曲はここで盛り上がるんですけど、ドラムはあえて一定のテンション感で行きたいので、パーカッションの方で広がる感じを出してください」とリクエストをしたりとか。松井さんはそもそも音楽をめちゃくちゃ聴いている人で、周りの音と被らずにうまく隙間を埋めるような、飽和感のないプレイをしてくれるんです。
他のみんなのパートが曲を盛り上げる役目を担ってくれるようになって、ドラムはビートを刻むことに集中できるような仕組みが出来上がったのは僕にとっても大きいですね。そういう役割分担こそ、踊りやすさにつながる気がしています。
●実験的なサウンドの追求や、変則的なフレージングなど、聴いていて飽きさせないアイディアも豊富な印象がありますが、引き出しはどのように増やしてきたのでしょうか?
藤本 自分でトラックを作ったりしていることは、ドラムのアイディアにもかなり影響しているんじゃないかと思います。ドラマー/コンポーザー的な脳みその両方を使っていると思っていて、例えば、エレクトロ・ミュージックを聴いていると“これ、生ドラムでやるとしたらどういう感じだろう”っていうことを昔からすごくよく考えるんです。
レコーディングでは、シンバルは素材録りだけしておいて、自分では叩かない曲もあるんですけど、コンポーザー的な目線になると、シンバルがなくても盛り上がる楽曲であれば、無理に入れない形が一番美しいと思ったりもします。
トリッキーで面白いビートなんかも、グルーヴを変えるときのここぞという役割で使ってこそ意味のあるアプローチかなと思っていて。逆に、グルーヴが変わらない曲なのであれば、(セクションが切り替わっても)同じビートを一貫して叩いていても良いと思うんです。最初に始めた楽器がドラムではなかったからこそ、より引き算に近い感覚になっているのかもしれませんね。
●興味深いお話をありがとうございます。最後に、ドラムをプレイする楽しさや、モチベーションとなっているものについて聞かせてください。
藤本 定期的にレコーディングがあると、純粋にそのときしたいと思っていることに挑戦できますし、失敗しても次のアイディアが生まれてくるので、楽しい気持ちになります。それがモチベーションの1つですかね。
録り方やマイクにも興味が湧いたりして、いろいろと試す中でも“生ドラムにしかない良さってあるよな”というところに立ち返ってきたりするので、やっぱり自分は“ドラマー脳”だなと思います。コンポーザー目線でも、リズムは圧倒的に大事なものですしね。
ドラムをやめることはまずないと思いますけど、自分を活き活きさせてくれるものが音楽の中にいくつもあることが、飽きることなく続けられる秘訣かなと思います。
◎Information
Tempalay “Naked 4 Satan” Tour 2025
JAPAN TOUR
11月5日(水)神奈川・KT Zepp Yokohama
11月13日(木)大阪・Zepp Osaka Bayside
11月18日(火)愛知・Zepp Nagoya
11月20日(木)福岡・Zepp Fukuoka
11月27日(木)東京・Zepp Haneda
詳細はこちら→Tempalayオフィシャルサイト
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