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高浦“suzzy”充孝スペシャル・ドラム・セミナー@神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校【Report】
数々のプロ・ミュージシャンを輩出している神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校と、リズム&ドラム・マガジンのコラボレーション企画が今年も開催! 去る6月29日に高浦“suzzy”充孝によるドラム・セミナーが行われた。この日は高校生を対象とした“泊まらない音楽合宿”=ミュージックキャンプも直前に行われ、その参加者も多く詰めかけた。現在はマカロニえんぴつのサポートをメインに横浜スタジアム公演も経験している高浦だが、これまでのミュージシャンとしての変遷や自身のドラミングについて、詳細に、そして濃密に語ってくれたセミナーの模様をお届けしよう。
脱力、クリック、そして音楽への情熱
ドラムを通して語られたミュージシャンシップ
6月29日、神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校にて、高浦“suzzy”充孝スペシャル・ドラム・セミナーが行われた。こういった自分メインのセミナーはほとんど経験がないという高浦。貴重な機会に自分の普段思っていることや経験してきたことを伝えたいというメッセージとともにさっそく演奏してくれたのは、自身がサポートするマカロニえんぴつから「愛のレンタル」。

4つ打ちやファンキーなアプローチ、ダブルタイムやレガートといったビート・パターンが目まぐるしく変わる1曲で、高浦はリラックスしているような涼しい顔で叩いているが、ダイナミックなフォームから繰り出される速いショットは、とにかく生音がデカい。決して叩きまくりのような手数的に難易度が高い曲ではないと思うが、生でそのドラミングを目の当たりにすると、一筋縄ではいかないテクニックが満載であることに気づかされる。
セミナーのトークはそんな高浦のドラミング・スタイルに関する話題から幕を開けた。ストロークの大きさがありながら力まず、脱力してショット・スピードを上げることでドラムを“鳴らす”ことを意識していることや、グリップもほぼ握り込まず、親指と中指で軽く留めておく程度の力でキープしていること、スティックの選び方まで、高浦流のドラミングについて細かに語ってくれた。

彼のスタイルが十二分に明かされた上で始まったのは、参加者が実際に演奏し、高浦に直接アドバイスをもらうというアドバイス・コーナー。20名以上の参加者が注目する中、勇気を出して手を挙げてくれた男性のお悩みは“キット・バランス”について。バス・ドラム/スネア・ドラム/ハイハットの音量バランスをどのようにするべきかという、プロでも壁にぶつかりがちな内容だ。高浦はセミナー開始時のコメント通り、自身の経験から辿り着いた解決法を提案。バスドラム>スネア・ドラム>ハイハットの順で音量を意識しているといい、特にバス・ドラムは力に任せて踏んでしまうとアタックだけが強くなってしまうのだそう。ここでもやはり脱力がキーワードで、力を使うのは脚を上げるときだけ、あとは自重で落とすだけで十分に鳴ってくれるため、そこに合わせてスネアとハイハットを調整していくとのこと。演奏している側では音量はわかりにくいので、ライヴや個人練習で実際に録音し、客観的に確認していくことが大事だと述べた。
その後は、高浦がセミナー前にサプライズで登場したミュージシャンズ・キャンプ(初心者から経験者まで音楽仲間の交流を目的とした、参加者同士でバンドを組んで演奏発表をする同校でのイベント)での課題曲となっていた「ブルーベリー・ナイツ」を演奏。これまでのレクチャーや本楽曲の演奏のポイント解説もあり、参加者にとってはよりいっそう実りのある演奏になったに違いない。

「ブルーベリー・ナイツ」が終わると、このセミナーの2週間前に行われた横浜スタジアム2Daysの話題へ。マカロニえんぴつにとっても最大規模となったワンマンだったが、ライヴ・ハウスやアリーナ、夏フェスなど、さまざまな会場で演奏してきたことに関連してモニター環境を聞いていく中で、驚きの事実が発覚。それは、現代のドラマーにとって切っても切れない存在、“クリック”を、マカロニえんぴつのライヴではほぼ聴いていないということ。どうしてもオケが必要な場合や、高浦の中で基準が欲しいときは使うこともあるようだが、ヴォーカルのはっとりをはじめ、メンバー全員がクリックを聴いていないというのは、スタジアム・アーティストとしては異例だろう。もちろんレコーディングのときにはクリックを使用するが、それほどまでに正確なリズムを刻み出せるように練習すること、そしてクリックも大事だが自分の中で確固としたテンポを持つことが重要だと、とうとうと語られた。
テンポ・チェンジがある曲もライヴではクリックを聴かないそうで、その例として演奏されたのは「生きるをする」。通常のライヴとは異なりオケに合わせなければいけないセミナーでも高浦のテンポ感はバッチリ。さらにBPM220という高速ナンバーを、やはり脱力しながら高速のショット・スピードで叩ききる姿は圧巻であった。

Q&Aコーナーを挟み、ソロ・ブロジェクト=Blue Ladderから高浦の優しいヴォーカルが心地良いピアノ・ロック「アフターオール」も演奏。フィルインを削ぎ落としたビートを聴かせるような楽曲で、会場のレンタル・セットながら確かに“自分の音”を奏でる姿が印象的だった。ソロ活動について聞かれた高浦は、「バンドとして頑張りたかったが20代前半で解散してしまったものの、今はマカロニえんぴつのサポートとして活動できている。ただ今の活動の中でソロ・プロジェクトは、“マカロニえんぴつのサポート・ドラマー”だけでなく、ミュージシャンとしての自分を表現できて、精神的にも今の自分の支えになっている」と感慨深げに、言葉を噛み締めるように話してくれた。そして「専門学校という専門的な場で学ぶにあたって、生涯音楽に関して切磋琢磨できる仲間ができることはとても大切なこと。その仲間から刺激を受け、どんな形でも大好きな音楽を続けていくというのが大事」と、バンド/サポートどちらも経験してきた高浦らしい言葉でセミナーを総括。
この言葉は、ドラマーとしての今後の活動に悩む者や、ミュージシャンとして自分の目指すべき姿に悩む学生にはとても心強いものになっただろう。最後は6/8拍子に載せたドラマチックな展開が印象的な「ミスター・ブルースカイ」を披露。3拍子系の転がり進む感覚もありながら、地に足がついたどっしりとしたビート、流れるようなフィルが美しい、締めくくりにふさわしいドラミングであった。


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