プランのご案内

PLAYER

UP

ビル・ブルーフォードが奇跡の演奏活動再開! ピート・ロス・トリオ公演で魅せた貫禄のドラム・プレイ

  • Photo:Ryoji Fukumasa Text:Satoyasu Shomura Special Thanks:Billboard Live Tokyo

2025.06.25|Pete Roth Trio featuring Bill Bruford@ビルボードライブ東京
日本のファンが待ち望んだ21年ぶりのドラム・パフォーマンス

マジだった。本当だった。2009年の引退宣言から15年以上、まさか本当にビル・ブルーフォードのドラムを体験できることとなろうとは、である。もともとは教え子だったというギタリスト、ピート・ロスのトリオのドラマーとして2022年に演奏活動を再開しステージへの復帰を果たすも、当初イギリス国内以外の公演の予定はないとのことだったが、そちらも撤回し、去る2025年6月25日、ビルボードライブ東京に降臨。ドラマーとしては2004年のEarthworks名義での来日以来21年ぶりのこととなる。こちらではその模様をお届けしよう。

客席のテーブルを縫う形でピート・ロス(g)、マイク・プラット(b)、ビル・ブルーフォード(d)の3名が登場するや否や、オーディエンスからは大きな拍手が。3名がそれぞれの立ち位置にスタンバイし手を広げ拍手に応えると、今度は大きな歓声が飛び交う。そりゃそうだ。みんな待ってたんだもんなあ。ビル・ブルーフォードのキャリア、ドラミングがどれだけ愛され、そして復帰がどれだけ待ち望まれていたかを痛感する感動的(まだトリオは1音も出してないのにも関わらず/笑)なオープニングであった。

▲ピート・ロス・トリオ(L→R)
マイク・プラット(b)、ピート・ロス(g)、ビル・ブルーフォード(d)

息を呑むようにそのスタートを見守るオーディエンスの元に、ボリューム奏法でゆっくりとギターの音が立ち上がる。1曲目としてプレイされたのは「Full Circle」。ドローン・ミュージックのようなエフェクティヴなギターが場内を支配する中、ビルはフロア・タムに引っかけたスティック・ケースから、悠々と今宵の1打を任せる2本を吟味している。その余裕綽々な仕草までも、優雅でカッコ良く見えてしまう(笑)。ファンキーな8ビートに乗ってどこか不協和音気味なフレーズを奏でるギターには、思わず“ミニマル編成となったキング・クリムゾン”なんて形容をしたくなってしまった。

ミュートのアルペジオに、何とビルはスティックではなくフィンガー・クラップ(この仕草もとっても優雅でカッコ良かったです笑)でカウントを取り、マイクと共に変拍子のリズムを刻む。少々の人懐っこさすら感じるメロディのギターに、軽快なレガートと柔らかなベースで応酬。曲はアントニオ・カルロス・ジョビン作曲の「How Insensitive」であった。変拍子を保ったままビートを8に移行させた後には、ビルのドラム・ソロ。その復帰を待ち望んでいた筆者含む場内のオーディエンスに、クロス・スティッキングまでをも駆使して存分にそのプレイを魅せ、聴かせてくれる。

トリオはその後、ビルが1997年に発表したアルバムのタイトル・トラック「If Summer Had Its Ghosts」をプレイした後、ビルがブラシで打面以外のありとあらゆるところをカサカサと擦ったりするアブストラクトなフリー・ジャム(おそらく)から、ドヴォルザークの「新世界より」へつなげるといった斬新なアプローチや、「LFLB」と名づけられた楽曲ではドラム、ギター、ベースそれぞれがアグレッシヴなソロをつないでいくなど、圧巻のプレイを連発。

後半では、Earthworks時代の楽曲「Original Sin」を、ギター・トリオの編成で鮮やかにアップデートさせたバージョンを聴かせてくれる。ここでのピートのスウィープ奏法なども織り交ぜたソロのテンションが凄まじく、そちらに呼応したのか、はたまた元教え子に煽られたのか、いつの間にやらビルのドラミングも鬼気迫るものに。そして演奏が熾烈を極めんとすればするほどに浮き立ってくるのは、そんな2人の均衡をしっかり保つマイクのベースだ。トリオ編成の醍醐味を最も味わうことができた当曲は間違いなく、今宵のハイライトの1つであったことだろう。

その後の「Dancing with Grace」では、いったんビルがスローンから立ち上がり、ステージ奥で佇み、たおやかに爪弾かれるピートのアルペジオと、オクターバー(おそらく)を駆使してベースでメロディを担うマイクの演奏に身を任せるというリラックスしたムードも見られ、ラストは再びハイテンションなグルーヴでジョン・コルトレーンの「Mr. PC」をプレイし、ライヴは終了。オーディエンスからのスタンディング・オベーションに包まれながら、ビルは満面の笑みを浮かべつつ、投げキッスを客席に何度も送ってくれていた。

長年のブランクをまったく感じさせないビルの素晴らしいプレイに加え、曲によっては、先述の通り本番中にドラム・セットから離れるなどのアクションや投げキッスなど、それまでのイメージになかった(少なくとも筆者には)お茶目な一面をたびたび覗かせてくれたことや、そんなビルを含むトリオの3人が終始笑顔を交えつつ、ここ日本での演奏を心から楽しんでくれているであろうことが何よりうれしかった。後日ライヴ盤とか出ねえかなあ。超聴きてえなあ。需要もあると思うんだけどなあ。

ってことで、ここは1つドラマガ様のお力でなんとか音源化への働きかけを、何卒(笑)。

◎ビル・ブルーフォード 関連記事

▲【有料会員記事】本公演でビルが使用した機材を紹介!

*会員プランはこちら

▲発売中のドラマガ2024年10月号では、20年以上ぶりのインタビューが実現!

*会員プランはこちら