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    横山和明によるジャズの音作り考察〜楽器選びとチューニング〜|連載『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』 #2

    • Text:Kazuaki Yokoyama

    ジャズ・アンサンブルの中でのドラム演奏を楽しめるようになることを目指すガイド本『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』(横山和明 著)。その貴重なレッスンの一部をお届けしていくミニ連載! 第2回では、チューニングや楽器の口径によって変化する音色の違いを比較しながら、ジャズにおけるドラムのサウンド・メイクについて考察していきます。

    #2 ジャズの音作り考察〜楽器選びとチューニング〜

    どんな楽器でも、そのサウンドは演奏の内容を大きく左右する重要なものです。そしてドラムの音作りは、楽器自体のチョイスからチューニングまでさまざまな要素が絡み合っています。今回は、デモ音源を聴きながらジャズ特有の音作りについて考えていきましょう。

    〜レッスンの目的〜
    ☑︎ジャズ・アンサンブルにおけるチューニングを知る
    ☑︎ベース・ドラムのサイズ違いによる音の違いを知る
    ☑︎ライド・シンバルのサイズ違いによる音の違いを知る

    音の作り方や楽器のチョイスのおよぼす影響について考えてみましょう。まぁ、ごちゃごちゃ説明するよりも、実際に音を聴いていただき、いろいろと感じていただきたいのですが……。

    ドラム・セット全体の印象に大きく影響をおよぼしそうな要素を3つ選びました。チューニングベース・ドラムライド・シンバルです。

    まずはチューニングから。 ジャズ・ドラムのチューニングと言えば、ハイ・ピッチでオープン、タッチが硬め、といったイメージが一般的に強いでしょう。音楽的な結果さえ良ければ、どんなチューニング、どんな音作りであれ、何でも構わないと個人的には思っておりますが、一応、ジャズのアンサンブルにおいてハイ・ピッチなチューニングが定着している理由について考えてみました。

    1つ目は、本皮ヘッドを張っていた時代の名残り。本皮ヘッドはロー・テンションで使用すると皮がダメージを受けやすく、ある程度テンションをかける必要がありました。1950年代後半以降はプラスティック・フィルムのヘッドが普及していき、本皮ヘッドと同じように扱わなくても良くなったわけですが、昔の慣わしが残り、それがその音楽ないし文化の音となってしまった説。

    2つ目は、タッチレスポンス。デロデロのロー・ピッチではしっかり打ち込みにいかないと鳴らしにくく、ピアニッシモの繊細なタッチを拾わず、反応が鈍くなります。なので、テンションをかけ、感触をパリッとさせ、軽いタッチでもアタックと響きを出せるように調整する必要があります。硬いものに対して柔らかいタッチで扱うイメージでしょうか。ロー・ピッチ(というかロー・テンション)の場合は、逆に柔らかいものに対して硬いタッチです。ロック・ドラマーの話ですが、カール・パーマーはチューニングに関して、フロア・タムでダブル・ストローク・ロールができる程度のテンションで、と話していたそうです。イアン・ペイスに関しても似た話を聞いたことがあります。つまり、彼らはそういうタッチで演奏しているのですね。

    3つ目は、倍音のブレンド。アコースティックなアンサンブルとエレクトリックなアンサンブルでは、ブレンドもしくは分離の仕方が違うように感じます。収まりの良いレンジが違うと言いましょうか。アタックと倍音の出方はチューニングによって変化します。一概にピッチの話だけでは片づけられない部分ではありますが、ハイ・ピッチにしたときの倍音の出方の方が、他のアコースティック楽器の倍音の成分と混ざりが良いように感じ、アコースティックな環境でサウンドさせやすいように感じる場合が多いです。ベッタリしたロー・ピッチにベッタリとミュートしたドラムのサウンドがアコースティックなアンサンブルの中で浮いてしまうのは、そういうことでしょう。楽器同士のサウンドをブレンドさせるた
    めに必要な倍音があり、そこをカットし過ぎずオープンなトーンにしておく必要があるのです。

    世間一般的な感覚としてはいずれも張り気味とされるでしょうが、アコースティックなアンサンブルを想定した範疇でのハイ、ロー、ミッド、と3段階にチューニングを変えてみます。同じ楽器でも、重心の位置が変わっていくのがわかるでしょう。ちなみに、このトラックのドラム・セットの口径はベース・ドラム20″、スネア・ドラム13″、タム12″、フロア・タム14″です。

    ●ハイ・ピッチ・チューニングによるデモ演奏

    ●ロー・ピッチ・チューニングによるデモ演奏

    ●ミディアム・ピッチ・チューニングによるデモ演奏

    次に、ベース・ドラム。ベース・ドラムの口径が変わることでドラム・セットのレンジが変わるという話はすでにしておりますが、実際に聴いていただきましょう。1つ前に聴いていただいた音源のチューニングのまま、ベース・ドラムのみ入れ替えておりますが、ドラム・セットごと入れ替えたかのように印象が変わって聴こえると思います。15″と24″を用意しました。先ほどの20″と比較して聴いてみてください。

    ●口径15″のベース・ドラムを組み込んだデモ演奏

    ●口径24″のベース・ドラムを組み込んだデモ演奏

    最後に、ライド・シンバルです。アンサンブル全体をリードしていく楽器であり、基本的にずっと鳴り続けるものなので、その支配力は強く、ライド・シンバルが変わればバンドのサウンドやカラーも変わってしまうかもしれないほどです。

    ▲シンバルの口径比較写真。左から24″、20″(リベットつき)、18″。

    20″の毛色の違うシンバルを4枚、そして、18″、24″の計6枚を順に聴いていただきましょう。ピッチの高低、トーンの明暗、レンジの広狭により、タイコ類との混ざり方がどのように変化するのか、耳を傾けてみましょう。

    ●20″ライド・シンバル(1)

    ●20″ライド・シンバル(2)

    ●20″ライド・シンバル(3)

    ●20″ライド・シンバル(4)

    ●18″ライド・シンバル

    ●24″ライド・シンバル

    この項目全体に言えるのですが、楽器の音色の変化に触発され、ほぼ同じテンポ、同じ尺で演奏しているにも関わらず、筆者のタッチやフレージングはかなり変化しております。これは意図したことではなく、まったくの無意識で起きていることであり、楽器から受ける影響が大きいことの証明でもあります。そのあたりも含めてお楽しみいただけたら、と思います。

    Check!!『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』

    『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』
    横山和明(著)

    定価:2,750円(本体2,500円+税10%)
    仕様:A4変形判/112ページ/CD付き
    ISBN:9784845638789

    商品情報はこちら→https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3122232001/

    ▲山本拓矢によるYouTubeチャンネル「Yamamoto Drum Lab.」でも、本書の内容を詳しく紹介!
    横山和明(Kazuaki Yokoyama)

    Profile●1985年⽣まれ、静岡県出⾝。3歳からドラムを始める。中学⽣の頃に地元での演奏活動を始め、師である本⼭⼆郎のグループを中⼼に多くのミュージシャンと共演を重ねる。⾼校3年の春、渡辺貞夫カルテットのツアーに参加。海外アーティストとの共演も多く、これまでにJunior Mance、Barry Harris、Red Holloway、Sheila Jordan、Eddie Henderson、Wess Anderson、Steve Nelson、Gene DiNovi、Lew Tabakinなどと演奏。現在もさまざまなグループで活動する傍ら、尚美ミュージックカレッジ専門学校、昭和音楽大学で後進の指導に当たるなど、多岐に渡る活動を展開している。
    X: @yokoyamakazuaki