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横山和明が語るジャズ名盤6選〜“音楽の会話”を体感しよう〜|連載『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』 #1

  • Text:Kazuaki Yokoyama

ジャズ・アンサンブルの中でのドラム演奏を楽しめるようになることを目指すガイド本『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』(横山和明 著)。その貴重なレッスンの一部をお届けしていく連載がスタート! ジャズの世界への導入となる第1回では、スウィング、ビバップ、ハード・バップ……と、時代と共に進化し、多彩な表情を見せてきたシーンを音で味わえる名盤を紹介します。

#1 横山和明が語るジャズ・ドラム名盤6選〜“音楽の会話”を体感しよう〜

“今すぐスティックを持って楽器に向かいたい!” ……もちろんそれでも良いと思いますが、まずはジャズを楽しんでいただきたく、歴史に残る名盤たちを聴いてみましょう。ここで語られているように音楽はコミュニケーション。筆者の解説する“音楽の会話”から間違いなくジャズの世界が広がっていくはずです。LESSONとも言えない本項、読み/ 聴き進めてみてください。

まず、これから取り組もうとしているものがどんなものなのかを知るべきです。つまり、何が言いたいかというと、何はともあれ、まずジャズを聴いてみましょう。サウンドやフィールに対するイメージが湧かないまま勉強を進めたところで、早々に行き詰まってしまうことでしょう。音楽はコミュニケーションです。例え、どれだけ多くの言葉を覚えてみても、その言葉をどう使うのか、また、どう会話を進めていくのかがわからなければ意味を成さないわけです。とはいえ、何を叩いているか、どうなっているのか、だなんて難しく考えるのは後回しにして、まずは音楽を聴くことを楽しんでみませんか? 

というわけで、いくつかサンプルとして音源を紹介していきますので、そちらを順に聴いていきましょう。

d:ソニー・ペイン

スウィング・フィールを語る上で、カウント・ベイシーの存在を避けて通るわけにはいかないでしょう。難しいことは考えず、ひたすら4分音符の気持ち良さに身を委ねてみてください。 この曲はベイシー・オーケストラの代表的なレパートリーの中の1曲であり、当時のメンバーであったテナー・サックス奏者のフランク・フォスターのペンによるものです。

もともとはインストゥルメンタルの楽曲ですでに1950年代にレコーディングされていましたが、今回ご紹介したのはエラ・フィッツジェラルドが歌詞をつけ再録したヴァージョン。ベイシーによる6小節のイントロに続き、リズム・セクション+ヴォーカルで本編に入ります。あえてエラのヴァージョンを選んだのは、歌のニュアンス言葉のリズムも感じ取ってほしいから。そして、特筆すべきポイントは、ギタリストのフレディ・グリーンによる4分音符のカッティング。この刻みがベイシー・オーケストラのグルーヴの要だとも言われており、真偽のほどはわかりませんが、フレディとリズムの息遣いが合わないメンバーはクビにされたのだとか……。

1コーラス32小節で成り立っており、8小節ごとに展開が変わっていくのを感じられると構造が見えやすいです。まず最初の8小節で雰囲気を提示し、続く8小節では広がりを見せ、どこに向かうのかと思えばまた最初のセクションに戻り、最後は2番目のセクションと似ていますが、こちらはしっかりと着地に向かう……と、基本的にはこの繰り返しとなり、その中でソロがあったり、最初のテーマとは違ったリフが現れたり、というように展開していき、最後のテーマで再びメロディに戻りエンディング、というのがざっくりとした全体的な流れです。1コーラス目の終わりからホーン・セクションが入ってきて、広がりと厚みが増していき、段々とダイナミックになっていきますね。

さらに比較として、こちらも聴いてみましょう。

d:エルヴィン・ジョーンズ

先ほどのゴージャスなビッグ・バンド・サウンドに対し、こちらはテナー・サックス、ベース、ドラムという最小限のトリオ編成。こちらも作曲者本人が吹いております。コード楽器のいない、ある種音楽的にリスキーな編成ではありますが、縛りが少なくなるぶん、非常に自由度の高い演奏となっています。エルヴィン・ジョーンズのブラシが炸裂。いや、しかし、すごいアルバム・タイトルですね……。

スウィング・ビッグ・バンドが栄えた1930年代が終わり、40年代に入るとビバップと呼ばれる新たなスタイルが誕生、モダン・ジャズの時代へ移り変わっていきます。50年代に入るとビバップはハード・バップと呼ばれるものに進化していき、50年代末から60年代にかけて、よりファンキーなもの、モーダルなもの、スピリチュアルなもの、というように細分化されていきます。

この時代には、後世のジャズ・コンボのアンサンブルにおけるモデルとされてきているバンドがたくさん生まれました。今度はそれらのバンドの音源を聴いてみましょう。なお、ここから先に挙げる音源の楽曲はすべて4小節+4小節+4小節の1コーラス12小節からなる、いわゆるブルース形式(進行)のものです。通常、テーマは2コーラス分演奏されることが多いです。ブルース(もしくはブルーズ)はBlueの複数形なのだと言われており、楽曲の形式としてのブルース、音楽そのもののジャンルやスタイルとしてのブルース、フィーリングとしてのブルース……と複数の意味を持ち合わせています。

補足をしておくと、スウィングにも複数の意味があります。1つは、音楽のスタイルとしてのスウィング。もう1つは、リズム・パターン/ビートの種類、また、それらのフィールを示す言葉としてのスウィングと、大まかに2種類。話のつながり方からどちらなのかを判断してください。

d:アート・ブレイキー

泣く子も黙るモダン・ジャズ黄金期を代表する名コンボであり、リーダーのアート・ブレイキーが亡くなるまで若手ミュージシャンの発掘、育成の場としてもジャズ界に貢献し続けたジャズ・メッセンジャーズ

この音源はアートがピアニストのホレス・シルヴァー(後に独立)と共にバンドを立ち上げたばかりののもので、ハード・バップ期を代表する名プレイヤー、ならびに名コンポーザー達が揃ったスーパー・グループでありながら、しっかりと練られたアンサンブルとライヴならではの熱気を楽しめます。

スウィング以前のスタイルから変化してきたものとして、“言語の進化” という点が最も大きいと思います。ハーモニーもリズムもより細分化され複雑になるのと同時に、メロディやソロのラインも細かく滑らかに紡ぐようなものとなりました。アンサンブルの仕方に関しても、ソリストに対するリズム・セクションの関わり方がより緻密で積極的なものになってきたと感じることでしょう。

ソロのラインに対して呼応したり、逆にリズム・セクション側から仕掛けに行ったり、対比を作るようなアプローチをしたり……アートとホレスの2人が手を組んで、彼らのコンピングによってバンド全体をどのように刺激したりコントロールしたりしているのか、という点に意識を向けると、きっといろいろと面白い発見があるのではないでしょうか。

d:マックス・ローチ

アート・ブレイキーと並びバップ期を代表するドラマーであり、メロディックなアプローチで改革を起こしたマックス・ローチ。彼がクリフォード・ブラウンと組んだ双頭クインテットのアルバムからです。活動期間は短かったものの、その衝撃と影響の大きさたるや……。先ほどの「Soft Winds」と比べると、グッとテンポが上がり、軽快な演奏です。全体のアンサンブルの印象も、ジャズ・メッセンジャーズよりもさらにシュッとスマートなものに聴こえることでしょう。クリフォードとマックスのソロのラインの美しさにじっくり耳を傾けてみてください。

d:トニー・ウィリアムス

マイルス・デイヴィスは1950年代から常にシーンの先頭に立ってリードしてきた人物です。亡くなる91年までは、ジャズの進化はマイルスと共にあったと言っても過言ではないでしょう。69年頃にはバンドが完全に電化し、既存のジャズの枠組を壊していくことになるのですが、その手前までの50年代のクインテット/セクステット、60年代のクインテットは未だにジャズ・コンボのアンサンブルにおける1番のお手本とされてきているものなのです。

その中から、ドラマーに当時まだ10代だったトニー・ウィリアムスを迎えた60年代のクインテットをお聴きいただいたわけですが、いったい何が起きたのですか、これは。速くて激しくて熱くてものすごい圧で、HR /HMかよ、という感じです……これが64年の演奏とは……。

ブルース・フォームなのかどうなのか、パッと聴きではよくわからなくなるほどにハーモニーや表現がかなりアブストラクトな方向に傾き、フリー・ジャズ的なものとスレスレなラインまでいったり、途中でテンポを変えてみたり、かなり好き勝手自由にやっているように聴こえます。先ほどの2曲よりも10年ほど後の録音ですから、その間にそれだけ表現方法も進化したということですね。ちなみに、メンバー間で信頼関係がしっかりと出来上がった上で成立することなので、安易に真似すると大事故の元となり、ひんしゅくを買いますので気をつけましょう。

マイルスはこの曲を気に入り、50〜60年代のライヴにおける主要なレパートリーとしていました。故に録音もかなりたくさん残されているので、聴き比べてみると面白いです。時期によってテンポも雰囲気も全然違うのです。次はそんな一例を聴いてみましょう。

d:ケニー・クラーク

ということで、1954 年の初演ヴァージョンもご紹介しておきます。ドラマーはビバップ・ドラミングの開祖、ケニー・クラーク。どうです? 全然違うでしょ?

▼今回の補足解説を動画でチェック!(Yamamoto Drum Lab.)

Check!!『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』

『3年後、確実にジャズ・ドラムが叩ける練習法』
横山和明(著)

定価:2,750円(本体2,500円+税10%)
仕様:A4変形判/112ページ/CD付き
ISBN:9784845638789

商品情報はこちら→https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3122232001/

▲山本拓矢によるYouTubeチャンネル「Yamamoto Drum Lab.」でも、本書の内容を詳しく紹介!
横山和明(Kazuaki Yokoyama)

Profile●1985年⽣まれ、静岡県出⾝。3歳からドラムを始める。中学⽣の頃に地元での演奏活動を始め、師である本⼭⼆郎のグループを中⼼に多くのミュージシャンと共演を重ねる。⾼校3 年の春、渡辺貞夫カルテットのツアーに参加。海外アーティストとの共演も多く、これまでにJunior Mance、Barry Harris、Red Holloway、Sheila Jordan、Eddie Henderson、Wess Anderson、Steve Nelson、Gene DiNovi、Lew Tabakinなどと演奏。現在もさまざまなグループで活動する傍ら、尚美ミュージックカレッジ専門学校、昭和音楽大学で後進の指導に当たるなど、多岐に渡る活動を展開している。
X: @yokoyamakazuaki