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LOSTAGE「SURRENDER」&toe「グッドバイ」【the band apart 木暮栄一 連載 #8】
- Text:eiichi kogrey[the band apart]
the band apartのサウンドの屋台骨を担う木暮栄一が、ドラマー/コンポーザー的視点で読者にお勧めしたい“私的”ヒット・チューンを紹介。第8回では、木暮自身とも親交のある日本のバンド、LOSTAGEとtoeをピックアップ!
LOSTAGE
「SURRENDER」
d:岩城智和
ヘヴィで繊細なゴースト・ノートから
ダウン/アップの抑揚で叩かれるハイハットとスネア
2025年にはバンドの活動を追ったドキュメンタリー映画「A DOCUMENTARY FILM OF LOSTAGE -ひかりのまち、わたしたちの-」が全国公開され、音楽のみにとどまらない独自の活動姿勢が話題を呼んだ奈良のバンド、LOSTAGE(ロストエイジ)。
一時期はメジャー・レーベルにも所属していた彼らがインディペンデントな活動に至るまでの紆余曲折、決して平坦とは言えなかったであろう道のりが今こうした形で脚光を浴びるのは、同じような時間を共に過ごしてきた友人として素直に嬉しい限りだ。
「SURRENDER」は2009年にリリースされたアルバム「GO」に収録されている曲。
彼らの楽曲は基本的にサブスクにないのだけれど、この曲に関してはMVがYouTubeにアップされている。

ファンの間ではダイナミックなプレイスタイルの印象が強いドラムの岩城智和だが、実はシャッフルなどのオーセンティックなリズム・パターンにも造詣が深く、「SURRENDER」のイントロではジェームス・ブラウンの「Funky Drummer」の回転数を落としたようなヘヴィで繊細なゴースト・ノートを聴くことができる。
ダウン/アップの抑揚で叩かれるハイハットとスネアのコンビネーション、Cm / A♭ / E♭を循環するコードの上に煌くアルペジオ……いつまでも身を浸していたいような心地良い憂いを纏ったイントロは突然のディストーションによって断ち斬られ、16分音符を刻むベースをエンジンにギアを上げていく。
「確かめにいくのさ / 解かれた始まり」 (「GO」作詞:五味岳久)
少年のような青さと激しさ、憂いを湛えた五味岳久(vo、b)の歌声は唯一無二だ。それでいて一辺倒ではなく、各場面の明暗を歌い分けるダイナミクスもしっかり備えている。
ディストーションのオン/オフによる静と動を行き来しながら、「雨の中を / また転ぶよ / 窓を捨てていこう / 果てない空想」と歌われるブリッジで差し込んだ光が、濃い霧を白く染めながら高い湿度の向こうに溶けていくようなサビのカタルシスも素晴らしい。
前回書いたモグワイやCONFVSEの音響にも通じる部分だが、リヴァーブとディストーション・ギターの組み合わせはやはり聴き手の想像力を刺激して止まない。
サビの多重ヴォーカルも実音以外のさまざまな音(それが実際に鳴っているかどうかは別として)の存在を聴き手に感じさせるだろう。
録音時には中野博教(g)がメンバーとして在籍していたが現在は脱退しており、それ以降はシンプルなスリー・ピース形態で活動を続けている彼らだが、ライブでは録音版で重ねられているギター・フレーズを五味拓人(g)が器用に弾き分けていて、何の過不足もないどころか、バンドとしてよりソリッドになった演奏を聴かせてくれる。
「SURRENDER」は諦念の雲の隙間から差し込むささやかな希望のような曲だと思う。
長い人生においては、時にそうした希望でさえ決して絶対的なものではない。それでも僕たちはその光を頼りに日々歩いていくしかない……そんな静かな肯定の歌。
そう考えると、歩くより少しだけ遅く設定された曲のテンポまで完璧に思えてくる。これ以下のスピードであれば感傷が重く響き過ぎるだろうし、これ以上でもその前向きさに虚勢を感じてしまうだろう。
サブスクの普及以降、音楽は手の中のスマートフォンを操作して新旧のレアリティを問わず気軽に消費できるものになった。それはそれで日常生活を豊かにしてくれている面も当然あり、僕もその恩恵を大いに享受している。
しかし、LOSTAGEの音楽を聴くには通販で音源を買うか、ライブに足を運ぶしかない。
そのスタイルを選んだ経緯に興味があれば、冒頭で挙げたドキュメント・フィルムをぜひ観てほしい。
toe
「グッドバイ」
d:柏倉隆史
2拍目/4拍目にスネアを落としつつも
自由に動き回るドラム
toeのドラマーである柏倉隆史氏との付き合いはかなり古い。
彼とギターの美濃隆章氏がtoe以前に所属していたバンド、REACHとの共演を通じて面識ができたのは、恐らく2000年代初頭のことだと思う。
REACH自体も場面展開の多い楽曲が特徴のロック・バンドだったが、その当時から隆史君のドラミングは他と一線を画すオリジナリティに溢れていた。
一筋縄ではいかないドラム・パターンもさることながら、隙あらばフィルインを差し込んでくる手数の多さ、倍音を聴かせるスネアのチューニングなど、この時点でライブハウスの後進に与えた影響は計り知れない。
残念ながらサブスクやYouTubeでREACHのオフィシャル音源を聴くことはできないが、気になる方はCDを探して買うか、検索に頼ってみてください。
隆史君は、木村カエラなどのバック・ミュージシャンとしての活躍も当然ながら、その特徴的なプレイ・スタイルがより大きな脚光を浴びることになったのは、やはりtoeへの参加が大きい。
1990年代後半に現れたトータスをはじめとする、いわゆるシカゴ音響派と言われるバンドのリリース作品は、まだ情報伝達が現在ほどのスピードではなかった時代にもかかわらず、ワールドワイドに波及していった。
そして2000年代に入ると、後に”ポストロック”と大きくカテゴライズされるバンドが次々に頭角を現し始めるのだが、日本においてのその筆頭はやはりtoeだと思う。
基本的に歌のないインストゥルメンタル・バンドという形態と、メロディ楽器さながらに歌いまくる隆史君のドラムの相性は圧倒的だった。
「グッドバイ」はtoe初のヴォーカル作品で、2006年にリリースされている。
テンション・ノートを無視すれば、間奏以外は基本的にA / B / C♯mのスリー・コードで構成された非常にシンプルな楽曲構造にもかかわらず、一聴してこの曲を”シンプル”に感じる人はいないだろう。
感傷と幾何学性が同居したリード・ギターのアルペジオ、2拍目/4拍目のスネアを落としつつも自由に動き回るドラム、メロディ以上に憂いを含んだ山嵜廣和氏の味わい深い歌声。
日常を過ごす中でこれほど深い感傷に囚われることは少ないはずなのに、あっという間に目の前の視界が塗り替えられてしまう。ドラムが明確なパターンを刻み始める2:37のカタルシスも素晴らしい。
音源の時点でも完成されている名曲だが、ライブでのアレンジはマイナー・チェンジが繰り返されており、レギュラー・サポートの中村圭作氏に加えて、土岐麻子氏と徳澤青弦氏を招いた豪華な最新版をYouTubeのTHE FIRST TAKEチャンネルで観ることができるので、未視聴の方はぜひ観てほしい。
独創的な音楽性、言語の壁を問わないインストゥルメンタルというスタイルによって、toeは国内のみならず海外でも高い評価を受けている。つい先日は両国国技館でのライブを成功させているほどなので、同じ状況に置かれたミュージシャンならば、音楽だけで生活していくことを考える人も多いだろう。
しかし、彼らは各メンバーがバンド以外に生業を持っていて、それぞれがそれぞれの分野で活躍している。
そうした地に足のついた活動スタンスを採っているからこそ、彼らが生み出す音楽には創造性以外の余計なものが入り込まないのだろうし、toeのライブ演奏がいつだって非日常的なエモーションに溢れているのも、そうした彼らの音楽に対する向き合い方が関係しているのかもしれない。

Profile●木暮栄一:東京都出身。98年、中高時代の遊び仲間だった荒井岳史(g、vo)、川崎亘一(g)、原 昌和(b)と共にthe band apartを結成。高校時代にカナダに滞在した経験があり、バンドでの英語の作詞にも携わる。2001年にシングル「FOOL PROOF」でデビューし、2004年にメンバー自らが運営するasian gothic labelを設立。両国国技館や幕張メッセなど大会場でのワンマン・ライヴを経験し、2022年には結成25周年を迎え、現在に至るまで精力的なリリース/ライヴ活動を行っている。その傍ら、個人ではKOGREY DONUTS名義のソロ・プロジェクトで作詞作曲やデザイナー業を行うなど、多方面で活躍している。
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