NOTES
UP
“人力”のウネりが楽曲にもたらす唯一無二の呼吸感 cf. Mogwai、CONFVSE 【the band apart 木暮栄一 連載 #7】
- Text:eiichi kogrey[the band apart]
the band apartのサウンドの屋台骨を担う木暮栄一が、ドラマー/コンポーザー的視点で読者にお勧めしたい“私的”ヒット・チューンを紹介していく本連載。第7回では、人力のビートが生む“ウネり”と、そのニュアンスがバンド・サウンド全体にもたらす影響、その瞬間ならではの呼吸感&グルーヴを楽しめる2曲をセレクト!
モグワイ
「Rano Pano」
d:マーティン・ブロック
“人間が叩いている”とわかる血の通ったウネりがあり
バンドの演奏全体に大きな呼吸の波動をもたらす
スコットランドのポスト・ロック番長、モグワイ。ディストーション・ギターが描く静と動のコントラストを操った初期から、ヴォーカル、エレクトロニクスなどを柔軟に取り込み音楽性を拡張し続けてきた彼らだが、そのキャリア中期にあたる2011年のアルバム『Hardcore Will Never Die But You Will (Music for a Forgotten Future)』収録の「Rano Pano」は、僕にとって特別な1曲だ。
彼らの作品すべてを熱心にフォローしてきたか、と言われれば実際のところそうでもないのだが、この曲だけは初めて聴いたときから常に心のプレイリストに並び続けている。
楽曲の構造は極めてシンプルである。8小節のテーマが延々と繰り返されるだけなのだけれど、歪んだギターと空間エフェクトが織り成す音響は、夜になりそうでならない、あるいは朝が来そうで来ない、ある種のモーダルな停滞を伴う不思議な世界へと聴き手を誘う。
C#から始まるテーマ・フレーズがマイナーの音階に収まっているため、一見すると物哀しい雰囲気だが、冒頭から通奏される音はAであり、ベースの動きを軸音としなければAリディアン・モードとして解釈することも可能かもしれない。あえて定義するなら“C#マイナーの音素材をAペダル上で循環させるモーダル・ドローン構造”と言えるが、こうした分析さえ野暮に思わせるほどの圧倒的な音像がここにはある。
すさまじい歪みがもたらす音韻情報の曖昧さは、8小節ごとに何層もレイヤーされていき、特に空間エフェクトの効力によって聴き手に「心地よい誤聴」を許していく。浮遊感の強い音色が重なり始める1:45以降、ノイズの向こう側に聖歌隊の残響が聴こえるような錯覚に陥るのは僕だけではない、と思う。
荘厳な古建築の背後で、空の色だけがゆっくりと移ろう様を切り取ったような音楽。風景のどこに焦点を合わせるかによって、聴き手それぞれが異なった色を見つけるだろう。
この轟音の壁を支えるのは、マーティン・ブロックのヘヴィなビートだ。彼のドラミングには明らかに“人間が叩いている”とわかる血の通ったウネりがあり、そのことがバンドの演奏全体に大きな呼吸の波動をもたらすきっかけになっている。事実、「Rano Pano」にはプログラミングを使用したリミックスがいくつか存在するが、音の立ち上がりがグリッドのタテと揃ってしまうことで、原曲が持つダイナミックな侵食力は影を潜めてしまう。
退屈なときほど長く感じられ、楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうように、人間は曖昧な感覚の生きものだ。そうした曖昧さを増幅させるディストーション・ノイズ、緩急を伴った合奏の呼吸は、時に作り手の意図しないウネりや、豊かな行間を生み出すことがある。
デジタル以前の先人達は、それこそが音楽における魔法と信じて、何度もテイクを重ねたのだろう。
CONFVSE
「Undeletable」
d:山崎聖之
ディストーションとシンバルのサステインが作り出す轟音の壁
ドラマーならではの視点を大いに感じる楽曲
そんな「Rano Pano」を僕に教えてくれたのは、ドラマーの山崎聖之だ。
LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS やtoddle など、数々の現場で引っ張りだこの彼が、マルチ・プレイヤーとして展開するソロ・プロジェクトがCONFVSE(コンフューズ)。
90〜00年代のオルタナ/エモ/USインディーの質感がマーブル状に混ざったような楽曲、そこにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライドなどのシューゲイザー・バンドを彷彿とさせる甘い歌声が乗っている。基本的には、ギター/ベース/ドラムス/ヴォーカルのバンド編成だが、録音ではすべての楽器を山崎自身が演奏している。
「Undeletable」は、そんなCONFVSEの現段階での最新作。キーDmのヘヴィな感傷から始まり、曲が進むうちに平行調であるFメジャーの要素を介して暗さの中に仄かな光が差し込まれていくコードワーク、トレモロの絶妙な音色などもさることながら、やはりディストーションとシンバルのサステインが作り出す轟音の壁が、この曲の心臓部と言っていいだろう。その壁の向こうで鳴り響くリヴァーブ・ギターの音色には、ノイズの聴感と同時に奇妙な優雅さもあって、淡々とした歌声に代わって激しい悲鳴を上げている。
感情の爆発をギターの轟音に託し、甘い歌声はあくまで微熱を帯びる程度に留める……シューゲイザーの特徴的構造でもあるこの対比は、SNSの普及によるコミュニケーションの変化、過剰なコンプライアンスや“炎上”が隣り合わせの現代において、簡単に表に出せない本音や感情のうごめきを抱える僕達の心象風景と重なって見えてくる。近年の海外・国内におけるオルタナ/シューゲイザー・バンドの復権にも、もしかしたらこうした時代背景が少しは関係あるのかもしれない。
話が逸れてしまったが、「Undeletable」のギターにかけられたさまざまなエフェクトは驚くべきことにプラグインではなく、すべて実機によって構築されているという。利便性が優先されがちな現代のレコーディングにおいて、事後調整の効かない実機を選択する姿勢は、裏を返せばその瞬間の音色への直感的な信頼、ひいては音楽に対する山崎の嗜好/感性のあらわれでもあるだろう。
効率化によって失われがちなイレギュラーなニュアンスは、演奏はもちろん、そもそもの音色作りにも宿っているものだ。アコースティック楽器であるドラムを操る身体感覚を通して、彼はそのことをよく知っているのだろうと思う。重心の低いスネアの鳴りと抜け、轟音ギターに負けないミックス・バランスにも、ドラマーならではの視点を大いに感じる。
パーソナルで抽象的な歌詞から何を汲み取るかは聴き手の想像力次第だが、「そう/このままさ」と、否定的にも肯定的にも受け取れるエンディングを含め、波長の合う人には中毒的にフィットするであろう1曲。もしこの「Undeletable」のサウンドスケープに何か感じるものがあったなら、同じく空間エフェクトが印象的な「Meanwhile」や、また違ったベクトルの「I still hurt you and love you so」などを聴いて、幅広いCONFVSEの音楽性を味わってみてほしい。

Profile●木暮栄一:東京都出身。98年、中高時代の遊び仲間だった荒井岳史(g、vo)、川崎亘一(g)、原 昌和(b)と共にthe band apartを結成。高校時代にカナダに滞在した経験があり、バンドでの英語の作詞にも携わる。2001年にシングル「FOOL PROOF」でデビューし、2004年にメンバー自らが運営するasian gothic labelを設立。両国国技館や幕張メッセなど大会場でのワンマン・ライヴを経験し、2022年には結成25周年を迎え、現在に至るまで精力的なリリース/ライヴ活動を行っている。その傍ら、個人ではKOGREY DONUTS名義のソロ・プロジェクトで作詞作曲やデザイナー業を行うなど、多方面で活躍している。
◎「Must-Listen Songs for Drummers」バックナンバー