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the Other Side of Chad Smith〜チャド・スミスの華麗なる“セッション履歴”〜【中編】
- Text:Seiji Murata
5月18日、20日に東京ドームで行われるレッド・ホット・チリ・ペッパーズの来日公演まで1週間を切り、バンドの屋台骨を支えるチャド・スミスの豪快なサウンド&グルーヴを楽しみにしているファンも多いことでしょう。ここではチャドのドラミングをより深く知るべく、彼のセッション・サイドにフォーカスした記事を前中後編に分けて公開!
本家レッド・ホット・チリ・ペッパーズは年を追うごとに寡作となってしまったが、新バンドや多彩なアーティストのサポートなど、チャド個人の活動はむしろ活発化している。ここでは、90年代のRHCP期をも含めたチャドの課外活動を、1.リック・ルービン関連/2. RHCPメンバー関連/3. グレン・ヒューズ関連/4. 自身がメンバーのバンド関連/5. その他……に分けて概観してみたい。中編では4. 自身がメンバーのバンド関連/5. その他について紹介していきます。
4.自身がメンバーのバンド関連
まず07年始動のボンバスティック・ミートバッツは、もともとグレンのバック・バンドのジェフ・コールマン、エド・ロス、チャドの3人による即興インスト・ジャム・グループで、08年に元ナイトウィッシュのターヤ・トゥルネンのバンドのケヴィン・チャウン(b)を加えて現ラインナップに。09年には『ミート・ザ・ミートバッツ』、11年には『モア・ミート』、13年にはライヴ盤『ライヴ・ミート&ポテイトーズ』を発表。曲想や他メンバーの音色も豊富で、チャドのいつもとは違うアプローチが聴けて興味深いが、フリーなジャムから徐々に構築したことがよくわかるタイトなコンビネーションはさすがだ。
チャドはエドの12年作『Ed Roth』や16年の『Mad Beatnik』にも参加しているが、エドのピアノ、ハモンド、ローズなどを基調としたさらに幅の広い“アダルト・オリエンテッド”なロックで、「How to Love」などミートでも聴くことができない繊細なリズム・アプローチも展開。ただ「Summertime」のソフト・タッチでも音数が多かったり、ラテン曲「Tequila」をロック・ビートでごり押しするところなどはいかにもチャドらしい。「Biggest Part of Me」のハーフ・タイム・シャッフルや、お馴染み「Higher Ground」は嬉々として叩いている姿が目に浮かぶ。ベースのケヴィン・チャウンと共に参加しているターヤの『The Brightest Void』で、フル・ショットでバンドを鼓舞する姿なんかは、“野蛮&クール”なチャドそのものだ。
そして08年にスタートした説明不要のスーパー・バンド、チキンフット。09年『Chickenfoot』、11年『III』を発表しているが、4人のケミストリーによるサムシング・ニューではなく、1人1人の顏、強い個性がハッキリ見えるHR/HM王道の快感を味わえることは間違いなく、「Turnin’ Left」みたいな曲はもうトリハダなのである。ヘイガーの13年作『Sammy Hager & Friends』ではスタジオ・ライヴの「Going Down」について、「スタジオで最もアメイジングな経験だったぜ!」と記されている。
5. その他
遡ればチャドは90年代中盤には、ヴァイオリンやハーモニウム、バグパイプなどを奏でるフォーク・ロック・バンド、ワイルド・コロニアルズのギグをサポートしており、すでに94年作『Fruit of Life』でも「Dear Mike」をカントリー2ビートでサポート。96年には、元MC5のギタリスト、ウェイン・クレイマーのソロ作『Dangerous Madness』では、16分のギター・リフに対しがっぷり四つに組んでハードにファンク・グルーヴしながらフィルもしまくる「Dead Movie Star」がRHCP節全開だし、ジョン・フォガティの97年作『Blue Moon Swamp』では「Walking in a Harricane」のストレートな力強いロック・ビートが実にチャドらしく印象に残る。
一転、我が国に目を移すとB’zへの参加が目を引く。Jロック独特の“ストーリー性”にチャドのドラミングはかなり合うと思っていて、実際『MAGIC』の「DIVE」や「long time no see」でも、ドライヴ感の中、バースごとにきっちり物語を展開させたり、「イチブトゼンブ」では松本孝弘のミドルのリフにレイドバックする乗り方も絶品だ。
スティーヴ・ルカサーの13年作『TRANSITION』所収の「Right The Wrong」で、リヴァーブたっぷりのミドル・バラードに抑制の効いた片手16のグルーヴ・メイクが見事ハマッているし、カントリー・シンガー・ソングライター、ルディ・パリスの「Down the Road」(『Makin’ My Way』収録)では、ブラシ・スウィープによるリズム・キープと、活動の幅をさらに広げている印象も受ける。
その点で、14年発表、鬼才ビル・ラズウェルと現在ニューヨークのジャズ・シーンでも注目される若手ピアニスト、ジョン・バティステによるトリオ“ザ・プロセス”とセルフ・タイトル・アルバムは、“さらなる幅”と言える。確かに核には揺るぎないチャドがいるが、そこを清濁入り乱れた音色やヴォイスが取り巻き、我々の耳を触発してくる。意外にもチャドが海賊や機関士に扮してパフォーマンスした子供向けの作品『The Rhythm Train』も、さらなる幅の1つだろう。
*本記事は2016年9月号の記事を転載した内容となります。