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the Other Side of Chad Smith〜チャド・スミスの華麗なる“セッション履歴”〜【前編】

  • Text:Seiji Murata

5月18日、20日に東京ドームで行われるレッド・ホット・チリ・ペッパーズの来日公演まで1週間を切り、バンドの屋台骨を支えるチャド・スミスの豪快なサウンド&グルーヴを楽しみにしているファンも多いことでしょう。ここではチャドのドラミングをより深く知るべく、彼のセッション・サイドにフォーカスした記事を前中後編に分けて公開!  

本家レッド・ホット・チリ・ペッパーズは年を追うごとに寡作となってしまったが、新バンドや多彩なアーティストのサポートなど、チャド個人の活動はむしろ活発化している。ここでは、90年代のRHCP期をも含めたチャドの課外活動を、1.リック・ルービン関連/2. RHCPメンバー関連/3. グレン・ヒューズ関連/4. 自身がメンバーのバンド関連/5. その他……に分けて概観してみたい。まず前編では1.リック・ルービン関連2. RHCPメンバー関連3. グレン・ヒューズ関連についてフォーカス!

1.リック・ルービン関連

リック・ルービンとRHCPの初コンタクトは91年の『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』で、その大成功が両者の相性の良さを物語っているが、発表前にルービンが手掛けたクイーンのリミックス作『We Will Rock You/We Are The Champion』にもその萌芽が見られる。かの有名曲を解体しつつ再構築するわけだが、そこにチャドとフリーを抜擢し「We Will〜」では後半であの“ドン・ドン・シャン”のビートをアンビの効いたな生ドラム&ベースに置き換え、「We Are〜」ではジェイムス・ブラウン「ファンキー・ドラマー」のドラム・ブレイクに同曲を乗せつつ、サビ部分だけにチャドのドラムをリミックスしているようだが、どちらも実にハマっている。

その後ルービンのカントリー・ミュージックへのコミットと共に、チャドにもこの界隈へのサポートが目立ってくる。例えばディクシー・チックスの06年作『Taking The Long Way』や、キッド・ロックの10年作『Born Free』、ジェニファー・ネトルズの14年作『That Girl』に全面参加。各アーティストとも、ルービン・プロデュースによりロック色が加わり、サウンドの幅を広げたことで、チャドのハードにプッシュする強さや太さが必要になったとも感じるし、牧歌的カントリーの中で派手なギミックを排除し優しく楽曲に寄り添うビートもまた、チャドが本質的に持つ要素なのだと思える。

同様に、フォーク・ロック・バンド、アヴェット・ブラザーズの12年作『The Carpenter』では、「Live and Die」で3連のアタマ以外をゴーストで埋めるプレイも“ゴースター”たるチャドの面目躍如だし、「Paul Newman vs. The Demons」では場面によってオルタナ的ヘヴィネスで煽ったりしっかりとチャド印を刻印する一方で、スローの6/8で歌に寄り添う「Down With the Same」や、翌年作『Magpie and the Dandelion』収録の「Morning Song」での“ハート・ビート”も、どちらもチャドならではなのだ。

2. RHCPメンバー関連

RHCPの寡作化やメンバー・チェンジに伴い、RHCP以外での個々のメンバーとのコラボも実現。99年にバンドに復帰したフルシアンテが『バイ・ザ・ウェイ』のレコーディング中に取り組んだ『Shadows Collide With People』は、エクスペリメンタルなギター小曲を挟みつつも、全体的には50’s〜60’sを彷彿させる楽曲&ビートで構成した意外な作品で、チャドのスキッフル系のハネた2ビートも新鮮に感じる一方、「This Cold」ではツェッペリン「天国への階段」のピークのフィルをまんまやっているのは、地が出ているようでほほ笑ましい。

さらに、複数メンバーによる課外活動もあり、フリー、フルシアンテ、チャドが参加したフィッシュボーン00年作『The Psychotic Friends Nuttwerx』の「Shakey Ground」では、ミッド・テンポのネバっこいP-ファンク系ビートがRHCPそのものだし、同じく3人が参加した、アメリカ・ポピュラー音楽界の至宝、ジョニー・キャッシュによるニール・ヤング「Heart of Gold」のカヴァー(『Cash Unearthed』Disc2所収)も、詩にある人生の“重み”がそのままビートになったヤングの原曲よりは、明るいスネアで軽やかにローリングするビートがRHCPらしさを表しているようだ。

チャド自身、キャッシュとのレコーディングは「キャリアの中でのハイライト」だと語っている。一方、RHCP“らしさ”とは対極にあるフリーの実験的ソロ作『Helen Burns』では、ビートルズ「ハロー・グッバイ」を彷彿させる「Lovelovelove」で、チャドは大太鼓やスネア・ロールを軸に、大小打楽器をダビングし大きなビートで中盤の盛り上がり部分を演出。子供の歌声と共にLoveを表現した実に心なごむ楽曲だ。

3. グレン・ヒューズ関連

そもそもチャドはグレンが60〜70年代初期に在籍していたトラピーズの異常なまでのマニアであることが両者を結びつけたのだろう。3〜4期パープルのヴォーカリスト兼ベーシストであるグレンは、レインボー/第6期ディープ・パープルのヴォーカリスト、ジョー・リン・ターナーの00年ソロ来日公演にゲスト出演し、そこに端を発した“ヒューズ・ターナー・プロジェクト(以下、HTP)”の2作目『HTP2』にチャドが参加を果たす。「Losing My Head」ではイントロのカウント前から、まさに“我を失った”かのように炸裂するチャド節は、この出会いを祝福しているようだ。

すると翌年、とうとうグレンのソロ作『Songs in the Key of Rock』で、トラピーズを彷彿させる曲「Get You Stoned」に参加が実現。ターナーとのパープルの影を引きずった作品作りに疑問を抱いていたグレンにとって、チャドのドラムはアーティストとしての自身を次レベルに押し上げてくれる若い才能であり、本作を皮切りに05年『Soul Mover』、06年『Music For The Divine』、08年『First Underground Nuclear Kitchen』と、チャドとの蜜月は続いていく。

特に『Soul Mover』では、そもそもR&B、ファンク・ミュージックに傾倒していたグレンの扉を、チャドがバネの効いた16ファンク・ビートとヘヴィなロック・ビートで、新たにこじ開けている様子が冒頭から全編に渡って刻み込まれている。

*本記事は2016年9月号の記事を転載した内容となります。