プランのご案内
  • 【年末年始休業のお知らせ】2025年12月26日(金)12:00 ~ 2026年1月5日(月)12:00 ※期間中にいただきましたお問合せにつきましては、2026年1月5日(月)12:00以降、順次対応させていただきます。
  • GEAR

    UP

    進化を続けるPearl フリー・フローティング・スネアに注目【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯37】

    • Text:Takuya Yamamoto Illustration:Yu Shiozaki

    第37回:Pearl  Free Floating Snare Drum

    ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、1984年頃に登場し、時代を越えて進化し続けるPearlのスネア・ドラム=Free Floatingを紹介!

    いつもお読みいただき、ありがとうございます! 今回は、デジマート上でとある限定品を見かけたので、そのベース・モデルと、システムに注目して参ります。

    今月の逸品 【Pearl  Free Floating Snare Drum】

    ▲Pearl Free Floating Snare Drum

    1984年ごろ登場した、ラグやストレイナーを取りつけないシェル部分を備えた、独自機構のスネア・ドラムです。約40年にわたって販売されている楽器で、非常に多くのバリエーションが存在しています。2025年の執筆時点では、3.5”の深さで統一された浅胴モデルが3種類。ステンレスのFTSS1435、ブラスのFBN1435/C、スチールのFSN1435B/Cがカタログに掲載されています。

    時期によってさまざまな説明がされていますが、総じてシェルの特性が比較しやすく、音色の違いをキャッチしやすい構造である点は、重要なポイントです。

    機材に興味を持って、このような記事をお読みいただいている皆さまにおいては、ドラムを分解して、組み立て直したことがある方も多いと思いますが、ヘッドやスネア・ワイヤーなどの消耗品をそのまま元に戻しても、音色が変化した——という経験があるのではないでしょうか。

    ドラムは、ラグを取りつけるネジの締めつけ具合いや、ラグとシェルの接触の具合い、固定する位置の微妙な差によって、音色にも違いが生じます。具体的には、タイトな輪郭や、太い低域といった、いわゆる個体差のようなものは、この組み上げの違いに由来するケースがあります。

    その点、このFree Floatingでは、シェルに対するテンションのかかり方が、主にヘッドの張力に支配されるため、条件を揃えた比較が容易になっています。「シェル特有の音色をリアルに発揮する」と謳われていますが、まさにその通りだと感じます。

    実際のところ、下部のアルミシャーシが持つ独特なディケイ・リリース(減衰)をはじめとした、このシリーズならではの音色も大きな魅力の1つであり、ただ闇雲に鳴るだけではない、個性と実用性の交わる領域が広い点が、この楽器が長く愛されてきた理由かもしれません。

    さて、デジマートには、中古の品物も掲載されているので、スペースの許す範囲で、過去から現在までの流れにも触れてみます。

    六角柱のようなラグが搭載されたモデルは、比較的初期のもので、1991年ごろまでの製品です。全面あたり/ロング・スケールのスネア・ワイヤーに対応しており、ガイドの位置が調整できる構造になっています。現代ではあまりないタイプなので、チューニングの際には忘れずにチェックしたい部分です。

    ▲初期のラグ形状
    ▲92年に採用されたラグ形状

    1992年に、円筒と六角のキャップを用いた、現行と同等の外観のラグが採用されます。ガイドの位置は固定されますが、調整の甘さによって傾いた状態になるなど、意図しない振る舞いから解放されるので、前述の初期型に比べると、扱いやすさを感じる場合もあるでしょう。

    2000年代の後半には、“Glide-Lock”ストレイナーへとアップデートが行われ、この時期を境に内面あたり/ショート・スケールへと移行します。さまざまなスネア・ワイヤーを、現代の操作感で使用できるので、現行やそれに近い楽器を探す場合、境界の1つになるかもしれません。

    シェルのバッジが“Free Floater”の表記になっている楽器は、比較的最近の楽器の特徴です。一時期、Free FloatingからFree Floaterへと名称が変更され、現行品もバッジの表記はFree Floaterとなっていますが、2023年ごろからシリーズとしてのFree Floatingの呼称が復活しています。また、現行はシンプルながら機能的な“Click-Lock”ストレイナーへと移行しています。

    駆け足で紹介してきましたが、興味を持っていただけたでしょうか。伝説的なドラマーに愛用されたり、さまざまなシグネチャー・モデルや、リミテッド・モデルのベースになっていることもあって、多数の愛好家によって研究されている楽器です。使用したことがある方も、そうでない方も、最新を更新し続ける往年の名器を、今一度チェックしてみてはいかがでしょうか。

    ▲Pearl Free Floating Snare Drum

    Profile
    ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

    公式X:https://x.com/takuya_yamamoto

    【Back Number】

    過去のバックナンバーはこちらから
    ▲山本拓矢 著
    『That Great GRETSCH DRUMS』