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SONOR Vintageシリーズ – 長年愛される独自仕様のビーチ・モデル【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯34】

  • Text:Takuya Yamamoto Illustration:Yu Shiozaki

第34回SONOR Vintage Series

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、今年ブランド創設150周年を迎えたソナーが2015年に発表した、Vintageシリーズを紹介!

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

今年2025年は、ドイツのドラム・メーカーであるSONORの150周年アニバーサリー・イヤーです。記念モデルが海を越えて日本へと上陸しており、これからどんな音楽を奏でてくれるのか、期待が高まっています。そこで今回は、SONORの定番/現行品の中から、10年の節目を迎えたアイコニックなモデルに再注目してみます。

今月の逸品 【SONOR Vintage Series】

SONOR Vintage Series Snare Drum

同社の創設140周年のタイミングで登場し、当時流行が始まっていた、ヴィンテージ・リイシュー・モデルの代表格とも言える楽器です。

ドイツ産のビーチ材を用いたシェルは、木目の縦横を交互に組み合わせたクロス・ラミネートで成形されており、真円度の安定性に優れています。真円度の高さは必須要件ではありませんが、チューニングが決まる範囲の広さや、クリアで伸びやかな響き、ロスの少なさによる豊かな音量など、楽器としての利点になりうる重要な基礎となります。

現代の技術による工作精度の高さと相まって、設計のねらいに沿った製品が供給されるので、ヴィンテージ・ドラムに期待するサウンドを、欲しいときに好みの外観で手に入れることができます。これは、実用性を重視するドラマーにとって大切な、うれしいポイントです。

前述のサウンドについて、それを構成する要素と仕様を見ていきましょう。

ラウンド・ベアリング・エッジは、その筆頭です。ヴィンテージ・ドラムの中核とも言える1950〜70年代の楽器には、このような丸みを帯びたエッジの楽器が多数存在しており、ヘッドとの接触の仕方に特徴が生まれるため、独特な音色が生まれます。

シェルがヘッドに触れる面積が広く、振幅に応じた接触面の変化が大きくなるため、三味線における“さわり”のような効果が生まれ、“共鳴”とも表現される独自の倍音や、強調された深みのある低域が感じられます。叩く強さによって生み出されるドライヴ感/歪み感の変化の大きさが印象的なので、試す機会があれば、音量のレンジによるキャラクターの変化に注目していただくと、良い体験ができるでしょう。このエッジは、SONOR最高峰のカスタム・メイド・ラインであるSQ2 Drum Systemでも選択できない、Vintage Series独自の仕様です。素材と同様に、サウンドの方向性を決定づける大きな要素なので、自分や音楽に対しての理想を追求する過程において、一度は体感していただきたいタイプです。

パーツについても見逃せません。オリジナルの意匠に沿った“ティアドロップラグ”は、その質量やシェルとの接地面積によって独自のサウンドに貢献しており、内部には現代的なチューン・セーフ・システムも組み込まれています。演奏中のチューニングの変化が抑制されているので、扱いやすく進化した側面の1つです。

Super 50”と命名されたスロー・オフ(スイッチ/ストレイナー)は、なめらかな質感と心地よい重さが特徴的です。複雑な構造はトラブルの元になりえますが、この耐久性と完成度の高さは、発売から10年という期間が証明してくれました。

SONOR Vintage Series Drum Kit

楽器の特性上、スネア・ドラム単品でも魅力的な製品ですが、キットとしても優れた要素があります。ラック・タムのマウントや、フロア・タムのレッグ、ベース・ドラムのスパーなど、トラディショナルな直付け方式で統一されているので、キット・バランスにフィルターがかかっておらず、ごく自然な状態で演奏に向き合うことができます。

各所にサスペンション機構を備えたドラムが登場してから、相当な期間が経過していることもあり、これは良し悪しではなく、好みによる部分も大きいとは思いますが、チューニングの具合いや口径に対して、打感や音量との関係がダイレクトなので、演奏に関する技術と、楽器や環境との関係に関して、大切な気づきを得られるはずです。

楽器には、持って生まれた個性が宿る部分もあれば、使い方によって生じる変化もあり、演奏者とは切っても切れない関係が生まれます。リイシューや復刻の楽器は、オリジナルとは異なりますが、使い込まれたヴィンテージとは異なる伸びしろや可能性が秘められています。長くつき合える相棒や、後世に残せる道具としてのポテンシャルを、ぜひ体感してみてください。

Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

公式X:https://x.com/takuya_yamamoto

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▲山本拓矢 著
『That Great GRETSCH DRUMS』