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万能チャイナ・シンバルを発掘! Istanbul Agop 18″ Xist ION China|【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯31
- Text:Takuya Yamamoto
- illustration:Yu Shiozaki
第31回:Istanbul Agop 18″ Xist ION China
ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。スプラッシュ・シンバルを取り上げた前回に続いて、今回は同じエフェクト系のチャイナ・シンバルにフォーカス!
いつもお読みいただき、ありがとうございます! 前回に続き、今回もエフェクト・シンバルに注目していきます。スプラッシュを取り上げたら、こちらに触れないわけにはいきませんね。そう、チャイナ・シンバルです。
早速ですが、皆さんはチャイナ・シンバルを使用していますか? おそらく、取り組んでいる音楽性や演奏のスタイルによって、絶対に外せないという方と、ほとんど使わない方に分かれるでしょう。他のシンバルとは異なる出自と、ドラム・セットへの導入の歴史、特有の性質や流行の傾向など、語るべきテーマは枚挙にいとまがない楽器です。
初めての1枚を選ぼうとしている方はもちろん、長く愛用している製品がある方にも、ほとんど使う機会がない方にも、ぜひ注目して欲しい1枚が思い浮かんだので、そのモデルを軸として、いくつかのモデルを紹介してみようと思います。
今月の逸品 【Istanbul Agop 18″ Xist ION China】

トルコで生産を続けるシンバル・メーカーの中でも1、2を争う知名度を誇るIstanbul Agop社の、比較的リーズナブルなラインであるXistシリーズからの1枚です。
素早いレスポンスと適度な明るさ、豊富な倍音、抜けの良さと馴染みの良さ、穴あけによる現代的なキャラクター。2013年ごろ発売されたモデルですが、先行する製品があり、後発の製品が出てきた中で、時代を象徴する1枚としてあらためて注目する価値があると感じます。
チャイナ・シンバルは、その使われ方にも大きな原因がありますが、シンバルの中では比較的消耗が激しい部類にあり、トレンドの移り変わりも早い傾向があります。ここ数年で、穴の空いたチャイナ・シンバルが急増している点については、シンバル全体の動向を把握する上でも押さえておきたいポイントです。
少々脱線しますが、現在の穴あきシンバルのトレンドの先駆けとなった製品として、1999年ごろ登場したZildjianの16″ EFXというシンバルが存在します。元々は、Drum’n’Bassで用いられるようなホワイト・ノイズを再現するシンバルとしてリリースされましたが、当時のドラマーによって、ジングルを取り外して使用することが流行しました。
2002年ごろ、SABIANよりHHX EvolutionシリーズのO-zone Crashが登場すると、大きな穴を開けたシンバルの可能性に注目が集まり、各社からホール・パターンに工夫を凝らした穴あきシンバルがリリースされるようになりました。一時期は、エフェクト枠としてのポジションがこの穴あきシンバルに取って代わられて、チャイナ・シンバルを見かける機会が減少したような印象さえあります。

しかし、小口径チャイナの小さなブームや、シーンを越境したメタル・ドラミング需要の増加など、さまざまな要因が複雑に絡み合って、チャイナ・シンバル全体が活性化し、2011年のSABIANのAA Holy Chinaや、2018年のMEINLの20″ Byzance Vintage Equilibrium China(Matt Garstka Signature)など、穴あきチャイナとも呼べる製品群の概念が誕生、2024年にはSABIANより限定品ではありながら22″ HHX Wide Lip Chinaという、幅広いエッジの折り返し部分を持った、クラシカルなスタイルの新製品が登場するに至りました。
楽器は音楽を演奏するための道具なので、音楽の流行と密接な関係があります。チャイナ・シンバルの主な使用シーンとしては、HR/HMがその筆頭で、ジャズにも根強いファンがいる、といった構図だとは思いますが、リバイバルや新たなジャンルの誕生、他ジャンルとの接近や融合など、楽器と音楽は相互に影響を及ぼし合いながら拡がっていくので、チョップスやHIP-HOPなど、近年の重要なキーワードの領域にもより深く浸透していく可能性はあります。
今回紹介した楽器が、いつまで/どれくらい流通するかはわかりませんが、歴史の流れを踏まえて把握することで、自分の求める文脈の楽器が見えてくる可能性は高まります。この視点は、他の楽器にも応用可能です。チャイナ・シンバルをきっかけに、スネア・ドラムの深さの流行など、楽器ごとの共通点や違いを探るのも面白いでしょう。この機会に、ぜひチェックしてみてください。

Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。
Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto
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