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Yamahaを代表するフット・ペダルの名器=FP720【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯38】
- Text:Takuya Yamamoto Illustration:Yu Shiozaki Photo:Takashi Hoshino
第38回:Yamaha FP720
ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、シンプルな機構とベルト・ドライヴによる軽やかなアクションを持ち味に、Yamahaを代表するフット・ペダルの1つとなったFP720を紹介。1987年にリリースされたオリジナル・モデルが90年代後半に生産完了となるも、その評判から2015年にレギュラー・モデルとして復刻した名器に再注目!
いつもお読みいただき、ありがとうございます!
先日、ドラム・ショップでの世間話で気になった話題を確かめるべく、デジマートで検索したところ、めずらしい機材に遭遇しました。Yamahaのダブル・フット・ペダル、DFP750です。廃番の製品で、流通量はごく限られている印象です。
ここ最近は、超定番の製品が続いていました。そんな流れを踏まえて、このタイミングで紹介しておきましょう。
今月の逸品 【Yamaha FP720】

楽器は、生産が終了することがめずらしくありません。ごく表面的な代表例を挙げるとすれば、純粋に後継商品が開発された場合や、市場の需要が満たされ、生産継続の必要がなくなったもの。また、材料の調達の都合により生産ができなくなったものなど、これら以外にもさまざまな背景があります。
TAMAのCamco Pedal(DP-120/HP35B)のように限定で復刻されるケースや、ZildjianのK Custom Special Dry各種のようにリニューアルして再登場するパターンもある中、このFP720は、できる限り忠実に再現した上で、レギュラー商品として復刻された製品です。
FP720は、1970年代に登場したFP701にルーツを持ち、長めのフット・ボードと真円タイプのカム、ベルト・ドライヴを受け継ぎながら、改良を重ねて到達した、700番台の製品の最終型です。軽快なアクションとパワー感のバランスに優れ、根強いファンを持つモデルで、2015年に復刻が発表された際は大きな話題になりました。
これまで、本連載の中でもさまざまなペダルを取り上げてきましたが、調整機能の観点では、最もシンプルなペダルと言えます。具体的には、無段階で自由に調整できるのはビーターの長さとスプリングの強さの2箇所で、ビーター角度は3段階。調整機能はこの3つのみです。
楽器の中でも、特に工業製品的な色合いが強いキック・ペダルは、技術の進歩によって日々進化しています。本稿執筆時点におけるYamahaの最新モデル、2019年発売のFP9を筆頭に、革新的な新製品が登場し続けています。
一方、1987年にオリジナル版が発売されたFP720は、フープ・クランプの形状などに時代を感じる部分もあります。しかし、ドラムが音楽の中で果たすべき役割に対して、必要な機能は備わっており、高い耐久性と可搬性に、入手が容易な流通量と、比較的手頃な価格を備えていて、完成されたバランスも感じます。
「720でできないことが必要なシーンはそう多くない」と申し上げたいところですが、近頃は、ダブル(ツイン)ペダルの需要が高いそうで、シングルのみの展開となっているFP720はその点がネックとなっている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、そんな流行の移り変わりを経た今だからこそ、響く可能性を感じます。冒頭でも触れた、長めのフット・ボードと、持ち運びのしやすさがポイントです。
ショート・ボードでは、以前紹介したPearlのEliminator Redline P-2050C/Fや、DWの5000や9000に対しての6000や、各社のエントリー・モデルなど、無数の選択肢が存在していますが、キック・ペダル全体で見てみると、いわゆるロング・ボードを採用していて、軽量で運搬に適したモデルは、YamahaのFP8500BやPearlのP-830など、意外と限られています。
ダブル/ツイン市場においては、TRICK DRUMSやAxisにACD、Czarcie Kopytoといった個性的なメーカー、個々のモデルでは、FP9やXF、Dyna-Sync、DEMONなど、エクストリームな音楽に対応した製品が多数存在しており、それらを愛用されている方もいらっしゃることでしょう。
ロング・ボード派で、標準的なペダルがフィットするシーンに心当たりのある方は、ぜひFP720も試してみてください。カム形状によるアクションの差とは別の、踏む位置のスウィート・スポットの部分で、意外な共通性を見出せるはずです。
多くの愛好家によって、その魅力が語られ続けているFP720ですが、このような再発見ができる懐の深さも、名器たる所以の1つかもしれない——ということで、あらためてご紹介いたしました。
触ったことがある方も、そうでない方も、この機会にあらためてチェックしてみてください。慣れや親しみといったフィルターを取り払っても失われない、きらめきが見つかるはずです。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。
公式X:https://x.com/takuya_yamamoto
【Back Number】


『That Great GRETSCH DRUMS』
