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アコースティックエンジニアリングが手がけた“ドラムが叩ける”プライベート・スタジオ Archive #6[神奈川県 葛西一茂さん宅]

  • 取材:編集部 撮影:八島 崇
  • 文:西本 勲

“自宅で思いきりドラムを叩きたい。しかも良い音で”……スタジオやライヴ・ハウスなどの防音/音響工事を行う専門業者、アコースティックエンジニアリングが住宅に施工したドラム用防音室にフォーカスする連載企画。今回は元ammoflightの葛西一茂さんが、会社勤めの傍らレッスンやレコーディングにフル活用している自宅スタジオを紹介!

ドラマーのセカンド・キャリアを支える
レッスン&レコーディングに対応したスタジオ

ドラム・セット2台を置いた7畳のスペース。「横に並べて自分の右隣に生徒さんのドラムを置けば、レッスンのときに叩きながらこちらを見やすいだろうと思って、こういう配置にしました」。左のメイン・キットは、地元小田原市のドラム・メーカーBONNEY DRUM JAPANのJAMシリーズで、スネアはカノウプス、シンバルはマイネル。右奥の生徒用キットはYamaha Stage Custom Hip+セイビアンのシンバル。中央にはTAMAのトレーニング・パッドTTSD10も見える。

もう1回叩けるチャンスをもらえた
そう思ってスタジオ作りを決めました

葛西さんは以前、ammoflight(アンモフライト)というバンドで活動し、メジャー・デビューも経験。2015年にバンドは活動休止したが、その前から足の不調に悩んでいた葛西さんは、ドラムを離れて就職する道を選んだ。ところが、RADWIMPSの山口智史さんがジストニアを発症したというニュースを見て、自身も同じ病気だったと知る。

「そこからカウンセリングと治療を始めて、ほぼ完治と言える状態まで改善しました。そのタイミングで、家を建てようと決めたんです」と葛西さんは説明する。「もともと私はずっと賃貸でいいと思っていたんですけど、妻が家を建てることを強く望んでいて、だったらドラムを叩ける防音室がある家にしたいということで意見が一致しました。何年もジストニアを患って、ドラマーとしての第一線からは退いていましたが、もう1回叩くチャンスをもらえたんだなと思って、レッスンもしたいし、レコーディングもしたいし、自分の腕も磨きたいし……というところで、スタジオを作ろうと決めました」。

DAW関連の機材は専用のデスクに整然とまとめられている。右のローランドSPD-SX PROは、主に打ち込みの入力用として使うそうだ。

そして、当連載を通じて知っていたアコースティックエンジニアリングに迷わず声をかけた葛西さん。同社で自宅スタジオを作った知人のドラマー宅を尋ねたり、ショールームを見学したことで、自分の理想とするスタジオが作れると確信したそうだ。

「知り合いの生田目勇司さんのスタジオ(本誌2022年1月号およびデジマート・マガジンhttps://www.digimart.net/magazine/article/2022110804834.htmlに掲載)を見せてもらったら、6畳ほどの部屋でドラムがとてもクリアに聴こえる環境が整っていて、アコースティックさんにお願いすれば間違いないと思いました。ショールームで、コンクリート床と乾式床の音の違いを体験したことも大きかったです。それまで良い音だなと感じていた場所は乾式床だったんだなと肌で感じることができたので、自分のスタジオは乾式床でとお願いしました」。

直接隣り合う部屋を作らないことで遮音性能を最大化する間取りに注目。室内のサウンド・トラップはすべての角に設置し、楽器の位置や向きに関係なく一定の効果が得られるようにしている。

ドラムをもっと良い音で録れるように
いろいろ試していきたい

家を建てる土地も防音室を作る前提で探したことで「ちょっと大変でした」と葛西さんは言う。その甲斐あって希望に合った場所が見つかり、設計の初期段階から住宅メーカーとアコースティックエンジニアリングで密なやり取りが行われ、遮音に有利な間取りを実現。また、外壁以外の間仕切り壁には通常入れることがない断熱材をあえて入れてもらうといった対応もあり、家の外へ音が漏れる心配がないだけでなく、他の部屋への音漏れも最小限に抑えたスタジオが完成した。

木造2階建ての葛西さん宅。角地に建てることで、周辺への音漏れの影響を最小限に留めている。写真右下の1階角にスタジオがある。
玄関ドア横に掲げられた“DRUM STUDIO 8.8”のロゴ・マーク。イラストレーター高田知香さんが手がけたキュートなデザインで来訪者を優しく迎えてくれる。

「前に住んでいたところでは、練習パッドの音でも家族に迷惑をかけていたので、防音室を作ったといっても最初はとても心配でした。でも今は、時間帯を気にせずに本物のドラムを叩けます。妻や子供が寝ていても、起こしてしまったことは一度もありません」。

そして今年の夏、このスタジオを使ったドラム教室“DRUM STUDIO 8.8”をオープン(https://www.drumstudio88.com)。葛西さんの経験と知見を生かしたマンツーマン・レッスンに多くの受講者が集まっている。

スタジオを出ると目の前がすぐ玄関で、機材の出し入れを楽に行える。出入り口は木製防音ドア×2枚で、家の中に対する遮音はこれで十分。玄関を閉めていれば外への音漏れも気にならない。天井高確保のため床を下げているが、住宅メーカーの協力で玄関前も少し下げているため、スタジオとの段差を広げすぎずに下げ幅を大きくできたという。
天井にも吸音パネルを貼ってデッドな音響に。十分な天井高のおかげで圧迫感はない。

「最初からレッスンのできるスタジオとして作ってもらったので、とても使い勝手が良くて満足しています。もう1つの目的だったレコーディングも行いましたが、録り音はすごく良いです。低音が嫌な感じで回ってしまうこともなく、クリアに聴こえます。ちょっと意外だったのは、ドラム・セットを真ん中に置いて録る方が良いと思っていたんですけど、レッスンするときの位置のままで一度やってみたら、けっこうタイトな音が録れたんです。またいろんな位置で試してみたいなという楽しみが生まれました」。

最初に触れたように、もともと持ち家へのこだわりはなかった葛西さんだが、スタジオのある家を建てた今の心境はまったく異なる。

「今回はアコースティックさんにご協力いただいて、自分が本当に理想とする部屋を作ることができました。賃貸でこれだけの環境を整えるのはなかなか難しいと思うし、これはやはり持ち家だからできたことだなと感じています。今後はドラム教室をしっかり運営しながら、ここで録れる音をもっと良くしていきたいです。生音が良い=録り音が良いとは限らない奥深い世界なので、たくさんレコーディングの機会を作って、良いドラムの音を探していきたいと思っています」。

中学生の頃、音楽の先生が文化祭でドラムを叩く姿に衝撃を受けてドラムを始める。高校では軽音楽部に所属。昭和音楽大学短期大学部在学中にammoflightを結成し、インディーズでの活動を経て2012年にメジャー・デビュー。現在は一般企業に務めながらDRUM STUDIO 8.8を運営している。ジストニア発症から克服までの道のりは葛西さんのnote(https://note.com/kazushige_drums)に綴られているので、そちらもぜひお読みいただきたい。

※本記事は2025年1月号掲載の記事を転載したものになります。

アコースティック
エンジニアリングとは?

株式会社アコースティックエンジニアリングは、音楽家・音楽制作者のための防音・音響設計コンサルティングおよび防音工事を行う建築設計事務所。1978年に創業して以来、一貫して「For Your Better Music Life」という理念のもと、音楽家および音楽を愛する人達へより良い音響空間を共に創り続け、携わった物件の数は2,000件を超えている。現在も時代の要請に答えながら、コスト・パフォーマンスとデザイン性に優れ、「遮音性能」、「室内音響」、「空調設備」、「電源環境」、「居住性」というスタジオの性能を兼ね備えた、新しいスタイルのスタジオを提案し続けている。

株式会社アコースティックエンジニアリング
【問い合わせ】
TEL:03-3239-1871
Mail:info@acoustic-eng.co.jp
住所:東京都千代田区九段北2-3-6九段北二丁目ビル
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