PLAYER
前より難しいことをやらないと成長できないのは
筋肉もドラムも一緒
年齢を重ねても“進化したな”っていう感覚があって楽しい
90〜2000年代にかけてミクスチャー・ロック・バンド=THE MAD CAPSULE MARKETSで活躍し、正確無比かつ一発入魂のプレイで後進のミュージシャン達にも大きな影響を与えてきたドラマー、宮上元克。セッション・ワークでもその呼び声は高く、シドのベーシストである明希のソロ・プロジェクト、“AKi”のレコーディング/ライヴを長年支える彼に、新作『Collapsed Land』について話をうかがい、不変の持ち味と言えるストロングなビートの秘訣に迫った。
僕の感覚と全然違う音楽性を求められるのが新鮮
無茶振りに対応していくことが自分の成長になる
●AKiさんのソロ・アルバム『Collapsed Land』がリリースされましたが、まずAKiさんのプロジェクトに参加された経緯から教えていただけますか?
元克 数年前に偶然飲みの場で会って、仲良くなったんですけど、AKiはもともと僕がやっていたMAD(THE MAD CAPSULE MARKETS)のファンだったんです。その後で「実はソロをやるんですけど、叩いてくれませんか?」っていう感じで頼まれたのが最初ですね。仲間だったので、すぐOKしました。
●AKiさんのソロ曲は、シドでの楽曲よりもハード・ロック色が強いと思うのですが、ドラムを演奏する上でどういうことを意識しましたか?
元克 自分が今までやってきたものを出せば良いかなと思って参加したんですけど、自分の中にないリズムのパターンだったり、僕の感覚と全然違う音楽性を求められて、それがすごく新鮮でした。「ここは絶対、こういうフィルを入れてください」というリクエストもありましたね。年齢を重ねても(自分のドラムが)“何か進化したな……”っていう感覚があって、一緒に演奏していて刺激的で楽しいです。
●AKiさんの曲は、デモの時点で結構完成されているんですか?
元克 そうですね、ドラムのパターンも打ち込みで何となくは入っていて。アレンジはギターの子が担当するんですけど、だいたい決まっています。ただ、細かいキメとか、どうしてもやってほしいオカズとか以外は、僕の持っているものを思いっきり出してくださいという感じでした。
●落ち着いたテンポで聴かせる感じの曲でも、かなり細かいフィルが入ったり、ドラマーの思いつかないようなタイミングでシンコペーションが入ったりしますよね。
元克 「え、ここで?」みたいな、そういうのはありますよね。録ってるときは“大丈夫かな?”と思っても、出来上がるとなかなか面白いなと思えたり。
●今までに叩いてこなかったようなフレーズでも、スムーズに叩けるものなんですか?
元克 そうですね、意外と器用なところもあるというか……自分で言っちゃった(笑)。そういうフレーズに関しては、若いバンドとかもよく観に行くようにしているので、その影響もあるかもしれないですね。若いバンドに刺激を受けているというか。
●7月号のアンケート企画にご協力いただいた際にも、ライヴを見たいドラマーにCrystal Lakeの田浦 楽さん、演奏力の高いバンドにONE OK ROCKを挙げていましたよね。元克さんには、今の20〜30代のドラマーのプレイはどう映りますか?
元克 キックのフレーズやフィルのコンビネーションがオシャレで、すごく進化していると思いますね。僕らの時代は“一発入魂!”っていう感じでしたから(笑)。そういうのはもう時代遅れなのかな?と思いきや、Katsuma[coldrain]みたいなドラマーもいますからね。
●Katsumaさんは元克さんからの影響を公言していますよね。
元克 本人が映像を送ってきてくれたんですけど、KatsumaはMADのビデオに映ってるんですよ(笑)。今は僕が彼らからも良い影響を受けているというか。フィルの入れ方とかも勉強になるし、カッコいいなって思います。
●では曲についてもお聞きしたいのですが、M4「共犯」は、4つ打ちのバス・ドラムと、スネアのバック・ビートがパワフルで、ライヴでも盛り上がりそうですよね。
元克 そういう部分は、SUGIZO君に鍛えられました。この曲はSUGIZO君とやるような4つ打ちよりも、もうちょっと大きく叩くという感じですけど。
●SUGIZOさんが求める4つ打ちのリズムは、タイミングもシビアそうですね。
元克 すごいですよ。SUGIZO君の曲はリズムが複雑で、スネアが入るところと入らないところがあるんですけど、それを全部聴いているんですよ。リハでスネアが1発抜けたりすると、すぐこっちを振り返る(笑)。曲も長いんですけど、譜面を最初から最後まで見ないと叩けないですね。あとはライヴだと同じテンポで4曲続いたり。
難易度は高いんですけど、SUGIZO君と共演すると、自分の成長を感じられるんですよね。“よし! これでもう何が来ても怖くないぞ!”みたいな(笑)。
●(笑)。話を作品に戻して、M8「狂奏夏」はポップでブライトな上モノがありつつ、ドラムは手数が多くかなりワイルドに展開していくという流れで、新鮮な印象を受けました。
元克 この曲はちょっと苦労しました。特にサビの部分の左手が途中で追いつかなくなるんです。そういう無茶振りをしてくるんですけど、それに対応していくっていうのが自分の成長になっているというか。
●ウィルコのグレン・コッチェも、「自分ができることよりも、少し難しいことをやらないと成長しない」ということを言ってましたね。
元克 そうなんですよ。こういうことができるんだっていう発見もあるので、やっぱり無茶振りしてもらうっていうのはありがたいですよね。筋トレも前やったときよりも1kgでも重く、1回でも多く上げないと、筋肉が成長していかないんです……筋肉もドラムも一緒ですね(笑)。
●名言ですね(笑)。AKiさんはフィルなどのフレーズにこだわりがあるようですが、サウンドについてはどうなんですか?
元克 音色に関してのリクエストは特になかったですね。逆にOKと言われても、自分でスネアのピッチをもうちょっと上げて録って、聴き比べて決めることはありましたね。
●チューニングはどんなところにこだわりましたか?
元克 最近のヘヴィなバンドって、ドラムがタイトな感じのサウンドが多いじゃないですか? それと同じようにすると退屈になるなと思っていたので、もう少し本来のドラムらしいというか、空気感が欲しいなと思って。
それで今回はちょっとオープンなチューニングにしてレコーディングしました。スネアの余韻が長すぎるかなと録るときは思ったんですけど、出来上がってみたらすごく良かったですね。